JSTトッププレス一覧科学技術振興機構報 第781号別紙2 > 研究領域:「元素戦略を基軸とする物質・材料の革新的機能の創出」
別紙2

平成22年度(第2期) 新規採択研究代表者・研究者および研究課題の概要

CREST

戦略目標:「レアメタルフリー材料の実用化及び超高保磁力・超高靱性等の新規目的機能を目指した原子配列制御等のナノスケール物質構造制御技術による物質・材料の革新的機能の創出」

研究領域:「元素戦略を基軸とする物質・材料の革新的機能の創出」

研究総括:玉尾 皓平((独)理化学研究所 基幹研究所 所長・グリーン未来物質創成研究領域長)

氏名 所属機関 役職 研究課題名 研究課題概要
栄長 泰明 慶應義塾大学 理工学部 准教授 革新的環境改善材料としての導電性ダイヤモンドの機能開発  本研究では、レアメタルフリーである炭素材料「導電性ダイヤモンド」に着目し、環境問題を解決する次世代の革新的環境改善材料としての機能開発、機能解明からデバイス創製までを目指します。材料の界面物性を含む基礎物性・極限性能を明らかにするとともに「環境汚染物質センシング」「高効率水処理・汚水浄化」「高効率CO還元」などの環境改善デバイス創製を行い、次世代グリーンイノベーション推進に広く貢献できる技術を確立します。
島川 祐一 京都大学 化学研究所 教授 異常原子価および特異配位構造を有する新物質の探索と新機能の探求  本研究では、高度情報化社会を支え、未来へ向けた持続可能な社会の構築に向けて、電子デバイス材料のみならず、資源・エネルギー・環境問題の解決に寄与する新しい機能特性を示す材料の開発を中心とした物質創製研究を推進します。特に、ユニークな物質合成手法を駆使することにより、ありふれた3d遷移金属元素を中心に、異常原子価状態と特異な配位構造をもつ新物質の「ものづくり」による革新的機能の開拓を目指した「元素戦略」研究を展開します。
杉本 諭 東北大学 大学院工学研究科 教授 結晶構造制御によるFe基新規磁性化合物の探索  本研究では、Fe、Coなどの遷移金属基材料を中心に、高い結晶磁気異方性を有した新規磁性材料の探索を行い、永久磁石材料へ応用することにより、レアアース使用量削減を目指します。その目的達成のために、「基板制御などによる薄膜技術」「元素置換または侵入型原子の導入または複合化などの微粒子・粉末技術」「超高圧技術」などの材料科学的手法、および計算科学を連携させた研究を推進します。
古原 忠 東北大学 金属材料研究所 教授 軽元素戦略に基づく鉄鋼材料のマルチスケール設計原理の創出  軽元素は微量添加でも鉄鋼材料の著しい機能向上あるいは機能劣化をもたらすことが知られています。本研究では、最先端実験解析と計算材料科学を駆使して、社会を支える最重要金属材料である鉄のナノ構造と軽元素との相互作用を解明します。軽元素や他の合金元素の機能の本質的理解に基づいて、力学特性制御のブレークスルーにつながるナノ-メゾ-ミクロにわたるマルチスケールでの材料設計原理を体系化し、限りなくレアメタルフリーで優れた機能をもつ鉄鋼材料の創製を目指します。
堀内 佐智雄 (独)産業技術総合研究所 光技術研究部門 主任研究員 有機材料を用いた次世代強誘電物質科学の創成  有毒な鉛や希少金属を含まない強誘電体の開発は、元素戦略上の最重点課題でありながら、解決の見通しはいまだ得られていません。本研究では、有機材料による強誘電体のパラダイムシフト実現を目指し、研究代表者らが近年見出したC、H、O、N元素からなる有機強誘電体を基盤に、分子系特有の強誘電性発現機構の微視的解明と、耐久性・動作性向上・薄膜化・印刷化を目指した新物質・プロセス開発を推進し、次世代強誘電物質科学の創成を図ります。

(五十音順に掲載)

<総評> 研究総括:玉尾 皓平((独)理化学研究所 基幹研究所 所長・グリーン未来物質創成研究領域長)

本研究領域は、「物質の特性・機能を決める特定元素の役割を理解し有効活用する」という元素戦略を共通概念として、持続可能な社会の構築のために解決すべき資源・エネルギー・環境問題に物質科学・物性科学の観点から取り組み、既存の延長線上にない物質・材料の革新的機能の創出を目指します。この方針の下に、物理、化学、工学、材料科学、計測技術、計算科学などの広い分野からの提案を募りました。選考に当たっては、これらの多様な分野をカバーできる領域アドバイザー10名にご協力いただいています。

初年度である今回は、各方面からの挑戦的かつ意欲的な提案が101件ありました。元素戦略研究への関心の高さをうかがい知ることができます。書類選考で面接対象提案を13件にしぼり、最終的には面接選考で5件採択しました。採択課題は、完全レアメタルフリー鉄・コバルト磁性材料開発、レアメタルフリー鉄鋼材料設計原理、遷移金属の異常原子価などに着目した無機合成化学、金属を含まない有機系エレクトロニクス材料、炭素材料の新機能創出、に関するもので、革新的機能創出を目指す本領域の目的に合致したバランスのとれたものとなったと考えております。

選考に当たっては、(1)元素代替・削減・循環・規制、(2)従来の元素の概念を越えた元素新機能発見、(3)課題解決に向けた確固たるサイエンス基盤、に加えて、(4)バーチャルな研究所としてのCREST領域内での分野バランス、などを重視しました。最後の点は特に重要で、多様な分野から参画する研究者が情報交換を通じてお互いを刺激しあうことで、単独研究では思いもよらない大きな相乗効果が発現することに期待しています。この観点からは、来年度以降、理論的な物質機能デザイン、有機合成触媒反応・プロセス開発、フォトニクス材料、バイオ系材料、などを特に強化し、エネルギーを創る・運ぶ・貯める、そして環境を守るための物質・材料・反応設計などに総合的に取り組む複合・連携研究体制を作り上げていきたいと考えています。