JSTトッププレス一覧科学技術振興機構報 第670号資料2 > 研究領域:「ディペンダブルVLSIシステムの基盤技術」
資料2

平成21年度 戦略的創造研究推進事業(CREST)
新規採択研究代表者および研究課題概要

戦略目標:「高信頼・高安全を保証する大規模集積システムの基盤技術の構築」
研究領域:「ディペンダブルVLSIシステムの基盤技術」
研究総括:浅井 彰二郎((株)リガク 取締役副社長)

氏名 所属機関 役職 研究課題名 研究課題概要
小柳 光正 東北大学 大学院工学研究科 教授 自己修復機能を有する3次元VLSIシステムの創製 3次元LSI技術と超並列処理技術を駆使して、自己修復・自己組織化・自己調整・再構成・自己診断などの機能を有する新しいディペンダブルVLSIを世界に先駆けて開発します。VLSIにLook-Up Tableを用いた関数発生回路を搭載して、冗長回路や自己診断回路として使用します。また、これらの冗長回路や自己診断回路の一部を動的に論理回路に転用できるようにして、回路の柔軟性と効率を高めます。
竹内 健 東京大学 大学院工学系研究科 准教授 ディペンダブル ワイヤレス ソリッド・ステート・ドライブ(SSD) テラバイト容量のNANDフラッシュメモリを搭載し、書き換え回数やデータ保持時間の増加など使用に伴うメモリの信頼性の劣化、接触不良、動作中の電源遮断や水への接触などの人的エラー、人体との接触による静電気破壊(ESD)など、各種エラー要因に対してディペンダブルな、1mmの通信距離で10Gbpsの超高速無線通信・給電機能を持ったワイヤレス ソリッド・ステート・ドライブ(SSD)およびホストシステムを開発します。
藤野 毅 立命館大学 理工学部 教授 耐タンパディペンダブルVLSIシステムの開発・評価 ICカードのように、LSIを利用して金銭情報や個人情報を保管するシステムが社会基盤として広く普及しており、信頼性・安全性保証の重要性が非常に高まっています。LSI動作時の消費電力や電磁波の観測または開封調査により、機密情報の窃取・回路の複製(偽造)による人為的な攻撃が可能です。本研究では、このような攻撃に対する耐タンパ性を備えたディペンダブルLSIを実現する手段を確立することを目的とします。
山﨑 信行 慶應義塾大学 理工学部 准教授 組込みリアルタイムシステム用ディペンダブルSoC及びSiPに関する基盤技術の研究 本研究では、組込みリアルタイムシステムの構築をターゲットとし、SoC (System-on-Chip)およびSiP (System-in-Package)をコデザインすることでディペンダブルで実用的なVLSIシステムを実現する基盤技術に関する研究を行います。実用的な組込みリアルタイムシステムを構築するために、アプリケーション(ロボットおよび宇宙開発への応用)とソフトウェア(OS)およびハードウェア(アーキテクチャ)のコデザイン、SoCとSiPのコデザイン、およびそれらの設計・実装・評価手法の研究を行います。

(五十音順に掲載)

<総評> 研究総括:浅井 彰二郎((株)リガク 取締役副社長)

本研究領域は、VLSIを適用したシステムのユーザーが、信頼感、安心感を持つことにつながる、ディペンダブルVLSIの基盤技術の提供を目的として運営しています。目標としては、(1)チップアーキテクチャ・回路・素子、(2)発明・考案、試作品・プロトタイプ、応用評価結果、(3)設計・検証・検査・評価に用いるソフトウェア、などその有用性、革新性が世界的に評価される成果の提供を考えています。すでに、平成19年度に4課題、平成20年度に3課題を採択し、研究を推進中です。

本年度は、関係学会の大会での募集PR、学会誌への募集広告掲載、学会ウェブサイトへのバナー広告掲示など、募集PRに例年以上に力を入れました。その中で、VLSIシステムのフィールドでの使用、検査、設計の場面における、具体的かつ本流といえる重要なディペンダビリティ問題を捉えてほしいことを引き続き強調するとともに、従来提案とは異なる角度からのアプローチを誘引するため、募集段階で、OSのタスク配分や監視機能と、今後主流となるマルチコアとオンチップネットワークからなる構成とをどのように活用すれば、システムでの利用目的と環境を踏まえて最適なディペンダビリティが達成できるかといった課題に切り込む試みや、耐タンパ性を高める研究の提案を特に期待していることを公表しました。

その結果、11件の応募がありました。その内容は、3次元LSI、SoC、SiP、GALS-FPGA、センサ・ネットワークといったVLSIの発展形態を捉えて、ディペンダビリティを確保しようというアプローチの他、耐タンパ性を志向した提案、サービス提供側からの視点による提案など、昨年以上に多様性が見られました。

研究提案募集〆切後、書類選考会を開催し、11件の中から8件の面接選考提案を選考しました。面接対象者には質問事項と検討依頼事項を呈示し、1ヵ月程度かけて、さらに検討を深めて提案に磨きをかけていただいた上で、面接選考に臨みました。面接選考では、提案された研究内容はもちろん、他の研究費の受給状況、研究予算の内容にわたっても質疑、審査しました。その結果、8件の提案のうち4件を採択、4件を不採択としました。

既存7課題を含め採択課題の研究者と、研究総括・領域アドバイザーは、バーチャル・インスティテュートをつくって効果的に本領域を運営し、VLSIメーカーやVLSIを用いるシステム・ユーザーの参画もできるだけ推進して、期間中にVLSIを適用するシステムのユーザーが実用に向けて本格的な検討を進めてくれるような革新的な成果をもたらしたいと望んでいます。

なお、不採択とした提案の中にも、研究としての着眼点のユニークさや、実現できた場合の効果に期待できるものがありました。今後は、そのような研究者も含め問題意識を共有する外部の方々と、公開ワークショップなどを通じて交流を深めていく所存です。