JSTトッププレス一覧科学技術振興機構報 第670号資料2 > 研究領域:「太陽光を利用した独創的クリーンエネルギー生成技術の創出」
資料2

平成21年度 戦略的創造研究推進事業(CREST)
新規採択研究代表者および研究課題概要

戦略目標:「異分野融合による自然光エネルギー変換材料及び利用基盤技術の創出」
研究領域:「太陽光を利用した独創的クリーンエネルギー生成技術の創出」
研究総括:山口 真史(豊田工業大学 大学院工学研究科 主担当教授)

氏名 所属機関 役職 研究課題名 研究課題概要
入江 寛 山梨大学 クリーンエネルギー研究センター 教授 高感度な可視光水分解光触媒の創製 本研究は、太陽光に多く含まれる可視光照射のもと、水を完全分解できる光触媒材料を設計・創製し、水素を獲得することを通じて独創的クリーンエネルギー生成技術の創出に貢献するものです。既存の材料設計・探索指針の延長ではなく、新規戦略に基づく材料設計および新規機構に基づく水分解方法を提案し、可視光応答型水分解材料を創製します。さらに、高効率化のため、材料の形態(ナノチューブ、ナノ中空体など)をナノレベルで制御することによって反応サイトを空間的に分離する方法やヘテロ接続構造の最適化によって電荷分離効率を向上する方法などの検討を行います。
岡本 博明 大阪大学 大学院基礎工学研究科 教授 アモルファスシリコンの光劣化抑止プロセスの開発 本研究は、光劣化の無いアモルファスシリコンを創成し、高効率・高安定な実用化薄膜系太陽電池を実現するための科学技術を構築することを目的として、異なる分野で培われてきた叡知と経験を集結した総括的な研究開発を推進します。これは、次世代太陽光発電技術の発展に寄与するのみならず、薄膜シリコン系材料の物性・プロセス技術やデバイス物理などの基礎科学分野の革新的進展に貢献するものと期待されます。
佐藤 真一 兵庫県立大学 大学院工学研究科 教授 界面局所制御による光・キャリアの完全利用 太陽電池が持つ潜在能力を極限まで引き出すためには、入射する「光」と、光により発生する「キャリア」の完全利用を目指す必要があります。本研究では「光」と「キャリア」の損失が起こる太陽電池と表面膜との界面に着目し、「界面特性の物理モデル」を構築します。さらにコンビナトリアル手法を駆使して「新しい表面膜材料」を探索し、モデルと組み合わせて太陽電池の高効率化を推進します。
韓 礼元 (独)物質・材料研究機構 次世代太陽電池センター センター長 色素増感太陽電池におけるデバイス物性に関する研究 低炭素化社会に貢献する低コストの色素増感太陽電池の高変換効率化研究を行います。色素増感太陽電池のセル構造や色素、酸化物半導体、電解質などの構成材料を変えながら、半導体物理、電子工学の分野を基盤にして、表面科学、分子化学や計算科学的アプローチを加えた異分野融合研究により、「分子の電子状態・配列」から「半導体物性などのデバイス物理」までの動作原理を解明し、新たな高効率化アプローチを明らかにします。
平本 昌宏 自然科学研究機構 分子科学研究所 教授 有機太陽電池のためのバンドギャップサイエンス 本研究は、有機半導体のバンドギャップサイエンスを確立、すなわち、イレブンナイン超高純度化、ドーピングによるpn制御、内蔵電界形成、オーミック接合形成、半導体パラメータ精密評価、などのサイエンスをシリコン無機半導体のレベルまで引き上げ、さらに、励起子、無機/有機ヘテロ界面のサイエンスを確立して、シングルセルで効率15%の有機太陽電池を目指すものです。
堀越 佳治 早稲田大学 先進理工学部 教授 励起子吸収による増感を利用した高効率太陽電池の研究 低コスト高効率の太陽電池を実現するためには薄膜化と吸収係数の増大が不可欠です。これを同時に実現するため、通常のバンド端吸収に加え、励起子の励起に伴う光吸収も利用します。室温における十分な励起子吸収は、励起子束縛エネルギーの高いZnOやGaNを含む半導体材料を用いること、および半導体超格子を利用することによって実現します。欠陥の少ない大面積ヘテロ接合薄膜の製作技術、および太陽電池としての最適なドーピング技術を確立し高効率化を達成します。
安武 潔 大阪大学 大学院工学研究科 教授 大気圧プラズマ科学に基づく新たなSi材料創成プロセスの開発 本研究は、大気圧近傍の高圧力プラズマを用いて、廉価な低純度シリコン(Si)原料から太陽電池用Siを製造するプロセスを開発するものです。プラズマ内部や材料表面で生じる現象を原子レベルで解明し、高度に制御する手法を確立することにより、低純度Si原料からのシラン生成反応を超高速化します。これにより新しい高純度Si材料創成プロセスを開発し、太陽電池用Si材料不足の解消と太陽電池製造コストの大幅な低減に貢献します。

(五十音順に掲載)

<総評> 研究総括:山口 真史(豊田工業大学 大学院工学研究科 主担当教授)

本研究領域では、太陽光エネルギーを電気エネルギーに変換する太陽電池等太陽光発電技術、太陽光エネルギーにより水素などを生成する化学燃料生成技術、電気エネルギーと化学燃料を同時に生成する技術などを対象とします。ただし、バイオマス技術については本研究領域の対象には含みません。太陽エネルギーを利用したクリーンエネルギーの飛躍的拡大のためには、独創的クリーンエネルギー生成技術の創製が極めて重要です。創造的研究開発の推進のため、異分野の融合を目指します。多くの視点から研究することが、創造的研究開発の推進に有効と考えます。ブレークスルーにつながり得るような発想の転換も望まれますし、太陽光利用クリーンエネルギー生成技術の実用化に貢献すべきものを期待します。また、本研究領域では、経済産業省、NEDOなどで推進されている技術開発との補完的協力も担う必要があります。

今回の応募は51件でした。半導体LSI、半導体レーザー、LEDなど異分野からの提案も多くありました。本研究領域の研究総括と領域アドバイザー7名で、書類選考を行いました。評価の視点は、1研究の必要性、インパクト、2提案内容の新規性、ブレークスルーの可能性、3研究課題設定や研究計画の明確性、4研究成果および波及効果の見通し、5研究チームの構成の有効性および実績、6太陽光利用分野での実績、7NEDOなど、他プロジェクトの補完が期待できるか(ただし、重複は避ける)を重視しました。書類選考により11件の提案を選択し、面接選考を行いました。

その結果、シリコン材料創成プロセスの開発、超薄型化に向けた結晶シリコンの表面・界面パッシベーション、アモルファスシリコン太陽電池の光劣化機構の解明と完全抑制、励起子吸収の有効利用の研究、色素増感型太陽電池の統合的研究、有機太陽電池の統合的研究、太陽光利用による水素生成――の7件の提案を採択しました。特に今回は、ブレークスルーにつながると予想される太陽電池の劣化現象や変換効率の壁の打破に向けて統合的研究を採択しました。当該領域は、戦略目標達成を目指して運営し、「太陽光利用クリーンエネルギー生成技術」の成果につなげてまいります。

不採択提案の中には、採択提案と技術コンセプトの魅力という点で匹敵する提案も多々ありました。しかしながら、研究構想のみで具体性に欠けるもの、目標達成の見通しが不明確な提案、チーム構成の不十分なもの、実用化への貢献が述べられていない構想、他助成との切り分けの明確化が不足した提案が見られました。来年度、再来年度の募集への優れた提案を期待致します。