総評:領域総括 片山 恒雄 (東京電機大学 教授)
この研究開発領域(もしくはプログラム)も折り返し点を迎えた。研究開発領域(もしくはプログラム)期間6年の半分が終わったということで、本年の公募が最後になると思うと少しさびしい。同時に、公募に伴う大変な仕事量を思い出すとホッとするのも事実である。
本年の公募には研究期間3年というしばりがあったにもかかわらず、全部で29件の応募があった。1件当たり5人のアドバイザーに提案書の査読をお願いし、その結果に基づいて13件の課題を面接の対象とした。面接においては、出席した8人のアドバイザーが、A(採択すべき)、B(採択してもよい)、D(採択すべきではない)の3段階評価を行い、議論の上で、上位6課題を採択した。このうちの1件は、実行可能性調査という扱いにしたが、その経緯に関しては、後で説明したい。
これまでの2年間にすでに8つのプロジェクトを採択してきたから、本年度採択のものを加えると13ないし14課題で今後3年の領域運営をしていくことになった。3年前に最初の公募を実施したときから、研究成果の社会への実装がこの領域の大きな特徴であることは繰り返し述べてきた。結果的にいうと、最後の公募に当たる今年の採択課題は、3年で具体的な成果を生み出す可能性が高いものとなっているように思う。逆にいえば、残る期間がさらに5年あれば、違った選択がありえたかもしれない。
採択した6つの課題について、領域総括としての個人的な寸評(順不同)を加えておく。
小泉さんと辻井さんの課題は、いずれも昨年の企画調査の延長である。企画を練り直すために差し上げた半年間が役に立った。中村さんは採択したプロジェクト代表者のなかで最年少であり、研究期間も短く予算も小さい。マネジメントグループとしては、若い研究者に賭けるという気がある。ぜひ頑張ってほしい。
石川さんの課題は、この種の問題における関連機関の「タテ割り」をいかに打破するかという大きく重い問題に実証的に取り組もうとするものであり、評価は高かったが、同時に、具体的なアクションが難しいという指摘があった。
平田さんのプロジェクトは、演劇ワークショップをコアとして防犯教育プログラムをつくろうという、極めてユニークな提案である。このような提案が採択されたことは、本領域の幅の広さを示したと自負している。
最後に、宮尾さんの課題については、アイデアには賛同するアドバイザーが少なくなかった。しかし、個人情報保護の観点から実行可能性に懸念が残ったため、それを明らかにするために半年間のみの暫定的な採択(実行可能性調査)とし、半年後にプロジェクトとして採択するか、改めて判断することにした。
来年はもう公募はしないから、これまでの8課題と本年度の5または6課題から、「犯罪からの子どもの安全」に関していかに役に立つ成果を生み出すかが、今後のわれわれの仕事になる。やさしいこととは決して考えていないが、全力投球で取り組みたい。
採択研究開発プロジェクト
研究代表者 氏名 |
所属・役職 | カテ ゴリー |
題名 | 概要 | 研究開発に協力する 関与者 |
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石川 正興 | 早稲田大学 法務研究科 法務教育研究センター 教授 | I | 子どもを犯罪から守るための多機関連携モデルの提唱 | 本プロジェクトは、犯罪から子どもを守るために関係諸機関が現在どのように対応しているのか、また機関相互の連携がどのように行われているかを解明した上で、法的吟味を加え、犯罪から子どもを守るための適切かつ有効な多機関連携モデルを提案する。 とりわけ本プロジェクトでは、子どもが犯罪・非行の被害者になることを防止するという面ばかりでなく、加害者になることを防止するという面からも多機関連携モデルを考察する。 |
福岡県警察本部生活安全部少年課北九州少年サポートセンター 北九州市子ども総合センター 保護観察所 教育委員会 日本ガーディアン・エンジェルス |
小泉 令三 | 福岡教育大学 教育学部 教授 | II | 犯罪の被害・加害防止のための対人関係能力育成プログラム開発 | 小中学生が犯罪の被害者や加害者にならないための予防教育および非行少年の再犯防止のための矯正教育において、対人関係能力と自尊感情の育成に重点を置いた学習プログラムを開発し、学校と保護者と大学、あるいは矯正教育機関と大学が連携しての長期間の実践によりその効果を検証する。また、効果の検証には、対人関係能力の客観的側面を測定できる手法を開発し、従来よりも多面的な効果測定法を提案して今後の教育実践に貢献する。 | 公立小学校父母教師会 公立中学校PTA |
辻井 正次 | 浜松医科大学 子どものこころの発達研究センター 客員教授/中京大学 現代社会学部 教授 | II | 被害と加害を防ぐ家庭と少年のサポート・システムの構築 | 加害少年が虐待を含む被害体験を経験している場合があることを受け、少年の心理的な特性を把握した上で、家庭と関係機関が子どもの犯罪からの安全を確保し、加害少年の再犯を予防できるためのサポート・プログラムを開発し、社会的に普及させることを目的としたプロジェクトである。実際に、少年に対するプログラムを実施し効果を検討するとともに、弁護士や保護司などの関係者がプログラムを活用し、サポートに取り組める仕組みを提案する。 | NPO法人 アスぺ・エルデの会 大府市教育委員会 あいち小児保健医療総合センター心療部 少年鑑別所、少年院 |
中村 健二 | 株式会社 関西総合情報研究所 執行役員統括マネージャー | II | 子どもの犯罪に関わる電子掲示板記事の収集・監視手法の検討 | 近年、インターネットの普及により、誰もが気軽に情報を投稿できる電子掲示板などのCGM(Consumer Generated Media)が注目を集めている。一方、CGMの投稿内容には、援助交際や薬物取引などの違法・有害情報も含まれており、それらの情報から子どもが犯罪に巻き込まれるケースが問題となっている。そこで、本プロジェクトでは、CGMの中でも電子掲示板を対象として、子どもの犯罪に関わる記事を網羅的に収集し、継続的に監視する手法を検討する。 | 関西大学 総合情報学部 文教大学 情報学部 |
平田 オリザ | 大阪大学 コミュニケーションデザイン・センター 教授 | II | 演劇ワークショップをコアとした地域防犯ネットワークの構築 | 本研究開発では、演劇ワークショップの手法を用い、防犯啓発劇を子どもたちが自ら作り、発表までを行うプログラムを研究開発する。効果の実証データと共に、継続可能な施策として自治体などに政策提言を行う。演劇を用いたコミュニケーション教育の有効性は広く認められ、その人材育成、学校現場への導入も急速に進みつつある。この流れの中で、コミュニケーション教育の手法を活用した防犯教育プログラムの開発が本件の目的となる。 | 岡山県学童児童連絡協議会 立命館小学校 NPO法人 フリンジシアタープロジェクト NPO法人 JAE 樟葉西校区コミュニティ協議会 財団法人 京都市ユースサービス協会 他 |
実行可能性調査
研究代表者 氏名 |
所属・役職 | 題名 |
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宮尾 克 | 名古屋大学 大学院情報科学研究科 教授 | 保健室ネットワークによる子どもの危険への対処 |
領域総括および領域アドバイザー
氏名 | 所属・役職 | |
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領域総括 | 片山 恒雄 | 東京電機大学 未来科学部 教授 |
領域アドバイザー | 石附 弘 | 財団法人 国際交通安全学会 専務理事 |
小澤 紀美子 | 東京学芸大学 名誉教授 | |
新谷 珠恵 | 社団法人 東京都小学校PTA協議会 会長 | |
杉井 清昌 | セコム株式会社 顧問/IS研究所 所長 | |
高橋 邦夫 | 千葉学芸高等学校 校長 | |
戸田 芳雄 | 浜松大学 健康プロデュース学部 教授 | |
奈良 由美子 | 放送大学 教養学部 准教授 | |
藤川 大祐 | 千葉大学 教育学部 准教授 | |
南 哲 | 浜松大学 健康プロデュース学部 教授 | |
山中 寛幸 | パナソニック株式会社 システムソリューションズ社 先行技術センターユビキタスプロジェクト推進室 担当課長 |