JSTトッププレス一覧科学技術振興機構報 第667号資料2 > 【地域に根ざした脱温暖化・環境共生社会】
資料2

平成21年度新規採択 研究開発プロジェクトおよびプロジェクト企画調査の概要

【地域に根ざした脱温暖化・環境共生社会】

総評:領域総括 堀尾 正靱(東京農工大学 名誉教授)

 研究開発プログラム「地域に根ざした脱温暖化・環境共生社会」の公募活動は、平成21年度で2年目に入った。本プログラムでは、「有限な環境・エネルギーの下では持続性を持ちえない、現代の技術・社会システム」を「脱温暖化・脱化石燃料・環境共生型」に作り直していくことを大目標に掲げ、技術開発中心の発想ではなく、地域に「適正」な技術を採用し、地域目線で、地域の関与者と目標を共有しながらプロジェクトを設計して提案していただくことを期待している。
 そのために、今年度の研究開発プロジェクトを公募するにあたっては、(a)温室効果ガス大幅削減と環境共生についての新しい提案であること、(b)地域レベルでの課題解決についての新しい提案であること、(c)定量的かつ構造化された研究開発計画であること、(d)地域を含む多様な主体の実質的連携を可能とする研究体制であること、(e)人文社会科学系・自然科学系研究者が現場において、目的や方法を共有し、実質的に協働する体制であること、を特に強調した。東京と京都で行った募集説明会では、このようなメッセージを伝えるだけでなく、ワークショップも開催し、「適正」な技術の視点や、持続可能な社会構築をリードする産業イノベーションの視点をもったアプローチが必要であることなどについて議論する場を設けた。
 これに対し、北は北海道から南は沖縄まで、また、大学や研究所のみならず、NPOや企業から、全57件という多数の応募があった。書類審査の過程で、温室効果ガス削減の積算根拠がないまま削減目標が示されたものや、研究開発課題に直接関係づけた積算がなされていない場合などが多々あり選考の支障となったため、応募者全員に温室効果ガス削減ロードマップの積算根拠を追加提出していただくこととなった。
 追加提出された温室効果ガス削減ロードマップも併せて厳正な書類審査を行い、19件(うち5件がカテゴリーI)を選出し、領域アドバイザーのコメントを伝えたうえで面接選考を行った。「定量的かつ構造化された研究開発計画」という点はある程度理解されていたが、研究開発構想を地域の市民とともに実証していくための方法については、研究チーム主導で研究成果を市民に普及するといった従来からの上から目線の取り組みに終始したものが多く、全体的に検討不足が目立った。
 結果的に、カテゴリーIとII それぞれに1件を採択することとした。また、来年度の応募に向けて、調査検討を行い、より説得力のある提案にしていただくという趣旨のプロジェクト企画調査(半年間)として、7件を採択した。
 プロジェクト企画調査では、来年度の応募に向けて、本領域の重要な主旨である「地域に根ざした」視点で、地域の人々の自主的な活力を引き出し、地域社会の主体をどう形成していくのか、その方法は何かをあわせて考えるような提案を作り上げていただくこととなった。
 この1年で再生可能エネルギーの利用や電気自動車など、脱温暖化技術に関する知識は一般社会にも広く浸透してきた。それらの技術の組み合わせにより、どの程度CO削減ができるのか、といった情報も簡単に手に入るようになっている。しかし、本領域が挑戦していきたいのは、一般市民を新技術や理工学的知識で啓蒙するといったことではなく、大幅なCO削減を、それと根本において原因を同じくする、過疎化や雇用の問題、燃料価格高騰問題、生物多様性の保全の課題などと連携した形で解決するための具体的なシナリオの確立に向けて、「適正」な技術やシステムはなにか、人々が問題解決に向けて内発的に熱く関わる状況をどう実現するか、それらが本格的な「脱-石油漬けの近代化」に結びついていくのかを実践的に明らかにし、共有していくことである。そのような高度な要望は、残念ながら、まだ十分には伝わっていないようである。
 本領域では、アドバイザリーグループ、プロジェクト担当者、関連地域の人々、その他ご関心をお持ちの方々と手をたずさえて、「地域に根ざした」脱温暖化の道筋やその実現方法についての研究開発を進めるとともに、来年の公募に向けて、本領域のメッセージをより的確に伝えるために努力する所存である。

採択研究開発プロジェクト

研究代表者
氏名
所属・役職 カテ
ゴリー
題名 概要 研究開発体制
(産学官市民の連携)
飯田 哲也 特定非営利活動法人 環境エネルギー政策研究所 所長 I 地域間連携による地域エネルギーと地域ファイナンスの統合的活用政策及びその事業化研究  「エネルギー消費地」としての都市と「再生可能エネルギー生産地」としての地域の特徴を相補的に生かし、都市の再生可能エネルギー需要の拡大に連動させて、地域マネーを活用した再生可能エネルギー供給の拡大により、都市における大幅なCO削減と地域経済の活性化・雇用拡大を同時に達成する新たな政策とその事業化モデルを開発することを目指す。 (産)日本政策投資銀行など
(学)法政大学、九州大学、青森大学、東京大学など
(官)東京都など
(市民)NPO法人 グリーンエネルギー青森など
外岡 豊 埼玉大学 経済学部 教授 II 快適な天然素材住宅の生活と脱温暖化を「森と街」の直接連携で実現する  2050年に実質CO排出なしの住生活を実現させるため、国産木材と木質バイオマス燃料を活用した住宅と生活のありかたを提示する。その実証のため天然素材モデル住宅の建設と環境性能実測、木材乾燥手法の開発と評価を行い、森と街をつなぐ産業間地域間連携により林業の活性化、天然素材住宅の普及と低排出住生活を同時に実現する社会経済の仕組みを構築試行し、バイオマスニッポン、「木の国、日本」復興のための社会実証を行う。 (産)中間法人 天然住宅など
(学)埼玉大学、名古屋大学など
(官)宮城県林業技術総合センター
(市民)NPO法人 まちぽっとなど

採択プロジェクト企画調査

研究代表者
氏名
所属・役職 題名
酒井 一人 琉球大学 農学部 教授 宮古島での地域協働型環境モデル都市実現に向けての課題調査
佐和 隆光 立命館大学 政策科学研究科 教授 10歳までの脱温暖化学習プログラムと親子の脱温暖化学習プログラムの素案づくり
田島 順逸 北海道利尻町 町長 バイオマス資源を活用したエネルギー自立型社会の構築を目指して(離島モデル)
中込 秀樹 千葉大学 大学院工学研究科 教授 「森とともに生きる山武」森林共生型社会システム構築に関する調査
花木 啓祐 東京大学 大学院工学系研究科 教授 文教活動をてこにした文の京の脱温暖化可能性調査
三浦 秀一 東北芸術工科大学 建築・環境デザイン学科 准教授 エネルギー自立集落を核としたバイオリージョン形成シナリオの構築
山田 章博 有限会社 市民空間きょうと 取締役/代表 「自転車都市・京都」実現へのプロセスイメージの具体化

領域総括および領域アドバイザー

  氏名 所属・役職
領域総括 堀尾 正靱 東京農工大学 名誉教授
領域アドバイザー 石川 祐二 社団法人 全国信用金庫協会 企画部 次長
宇高 史昭 京都市総合企画局 地球温暖化対策室 計画推進担当課長
大久保 規子 大阪大学 大学院法学研究科 教授
岡田 久典 NPO法人 バイオマス産業社会ネットワーク 副理事長
川村 健一 広島経済大学 教授
崎田 裕子 ジャーナリスト・環境カウンセラー
NPO法人 持続可能な社会をつくる元気ネット 理事長
杉原 弘恭 日本政策投資銀行 参事役
鳥居 功 三菱重工業株式会社 技術本部長崎研究所 燃焼・伝熱研究室 主任
新妻 弘明 東北大学 大学院環境科学研究科 教授
百瀬 則子 ユニー株式会社 業務本部環境社会貢献部 部長
山形 与志樹 独立行政法人 国立環境研究所 地球環境研究センター 主席研究員