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研究成果最適移転事業成果育成プログラムC(プレベンチャー)

平成12年度採択課題事後評価報告書


平成16年3月
研究成果最適移転事業成果育成プログラムC(プレベンチャー)評価委員会


4. 研究開発課題の個別評価
(7)幹細胞操作技術
リーダー :帯刀 益夫(東北大学加齢医学研究所 所長)
サブリーダー :鈴木 義久

1 )) 研究開発の概要
 増殖を制御する遺伝子を導入したトランスジェニック動物を用いて幹細胞を不死化させることにより、各組織の幹細胞を増殖、維持、分化誘導させる技術に関わる研究開発を行う。各組織の幹細胞や機能細胞の株化が可能であり、これを用いて薬剤や新薬候補物質のスクリーニング等に応用することができる。医薬品開発やバイオサイエンス分野での利用が期待できる。

2 )) 事後評価内容
A)成果
 増殖を制御する遺伝子を導入したトランスジェニックマウスの骨髄組織から取り出した幹細胞を不死化させることにより、生体外で増殖、維持、分化誘導する培養技術を確立し、実験動物に代わる医薬品開発に必要となるハイスループットスクリーニング等に使用するキットや再生医療に応用可能なキットを開発した。本開発により、動物細胞の培養による分化誘導方法と、当該方法を用いるある物質の当該細胞に対する分化能の制御方法及び評価方法について2件の特許を出願しており、知的財産権の確保を達成した。これらの成果に基づき、株式会社ファクトを設立した。
特許出願数:2件(研究開発終了時点)
B)評価
計画の達成度 :幹細胞の株化やその培養系を応用した新薬スクリーニングキットの製品化等、当初計画された研究開発目標はほぼ達成されている。再生医療の基盤となる基礎技術が確立され、事業化を可能にする研究成果も得られたので、今後、機能性細胞株の開発/製品化やヒト細胞への応用に向けての研究開発に期待する。
知的財産権 :不死化細胞株の樹立方法とその細胞株に関する特許など適切に確保されているが、今後はベンチャー継続のために応用特許の拡大が望まれる。
起業化計画 :新規に生まれつつある市場を狙うものなので適切なタイミングでの起業である。関連会社の動向も十分調べられており、製造委託先については目途がついているものの、ターゲットとなるユーザーが漠然としている。当面の試作品販売・受託計画や製薬会社との提携についても同様である。
新産業創出 :再生医療技術の全般的な進展を促す、オリジナリティのある基盤技術として評価できる。スクリーニングキット販売の他にも機能性細胞の製品化が可能となれば一定の市場創出を期待できる。
総合・その他 :マウス細胞を用いた段階ではあるが、同一個体細胞からの分化細胞による比較可能なスクリーニング方法は、医薬品開発における活用が期待され、再生医療の基盤技術としての意義は大きい。さらにマウス利用の特定分野における技術としてコスト的優位性が確保され、機能性細胞の種類を増やす等すれば、将来への展開も期待される。


(8)鉄シリサイド光センサ
リーダー :牧田雄之助(産業技術総合研究所 主任研究員)
サブリーダー :中山 靖彦

1 )) 研究開発の概要
 鉄とシリコンの化合物であるβ-FeSi2半導体薄膜を用いた光センサの研究開発を行う。β-FeSi2半導体光センサは、1.5μm帯で高感度、高SN比、広いダイナミック特性を持ち、かつ優れた耐候性を有する。本センサはSi基板との一体化が容易であり、光ファイバ通信を始めとした広範囲な利用が期待できる。

2 )) 事後評価内容
A)成果
 β-FeSi2薄膜製膜装置として、分子線製膜装置を設計製作し、β-FeSi2薄膜を100nm~1,000nmまで平坦で無欠陥な膜の育成技術を確立した。この結果を元に、生産時のスループット向上を目的としてスパッタ法製膜を試み、電気的/光学的な特性の再現性の良い薄膜を得ることができた。更に、不純物添加によりp-型とn-型特性を持つ薄膜の作製に成功した。それを用いて波長1.3μm~1.5μmに受光感度を持つβ-FeSi2光センサを作製し、素子の整流性、暗電流、分光特性、感度、及び光応答速度を評価した。これらの成果をもとに、株式会社環境セミコンダクターズを設立した。
特許出願数:2件(研究開発終了時点)
B)評価
計画の達成度 :製膜装置作成、製膜技術確立、光センサデバイス作製、特性評価は計画どおりに達成し、1.5μm波長帯の受光感度を確認した。しかし一方では、商品化のための特性の向上、歩留まり向上という課題が残った。
知的財産権 :電極形成方法等の特許出願もなされ、知的財産権も確保されている。今後は製造技術を含めた特許戦略が必要である。
起業化計画 :起業後も引き続き、実用化及び量産化等の研究開発投資が必要である。さらに実際の製造に組み込んだ実験、利用法など、実際の使用に合った応用を考えるべきである。その上で強力なマーケッティングを展開、大口カスタマの獲得などを期待したい。
新産業創出 :資源量が豊富で環境に無害である、鉄とシリコンを利用した素子の製作は産業界に大きな変革を及ぼすものと推察される。製品化に関わる提携企業等が適切に確保できれば事業として大きく発展する可能性がある。
総合・その他 :非有害元素による半導体素子の開発はきわめて意義深いものである。本研究開発では製造プロセスの簡素化に期待された研究成果も得られ、起業化も果たされたが、鉄シリサイド光センサの商品としての位置付けを含め不明確な点もあり、より詳細な検討と戦略を練る必要がある。

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