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研究成果最適移転事業成果育成プログラムC(プレベンチャー)

平成12年度採択課題事後評価報告書


平成16年3月
研究成果最適移転事業成果育成プログラムC(プレベンチャー)評価委員会


4. 研究開発課題の個別評価
(1)骨・軟骨組織の再生療法
リーダー :加藤 幸夫(広島大学大学院医歯薬学総合研究科 教授)
サブリーダー :辻 紘一郎

1 )) 研究開発の概要
患者から採取した骨髄細胞等を培養増殖させ、さらに軟骨細胞あるいは骨芽細胞に分化させ、歯槽骨、関節等の再建材料とする研究開発を行う。幹細胞の大量増殖と多様な分化能を保持する点で優れており、骨・軟骨組織の再生を必要とする関節症、歯周病の治療法への利用が期待される。

2 )) 事後評価内容
A)成果
 再生医療に役立つとされる間葉系幹細胞の試験管内培養方法を検討し、従来法より1万~100万倍に増殖させる2種類の技術(成長因子法とECM法)を開発した。本方法で増殖させた間葉系幹細胞は試験管内でも移植部でも高レベルの多分化能を示し、軟骨・骨・歯周組織の再生を促進した。これら基本技術をもとに、骨・軟骨組織の再生療法の動物モデルを中心に研究開発を行い安全で安価な治療法を開発した。口腔骨膜からの間葉系幹細胞の分離や間葉系幹細胞の増殖回数の増加と多分化能の維持等について特許を出願しており知的財産権の確保を達成した。これらの成果をもとに、株式会社ツーセルを設立した。
特許出願数:4件(研究開発終了時点)
B)評価
計画の達成度 :間葉系幹細胞の培養及びその周辺技術について順調に研究開発が進展し、当初計画の目標は達成した。また、ヒトの間葉系幹細胞に関して実験が進んだことにより期待度も上がったといえる。
知的財産権 :確保されている。分離・識別方法が中心であるので、今後幅広い応用に関する特許を期待する。
起業化計画 :自動培養装置の販売、病院型再生医療、将来を見据えたセントラル型再生医療等の構想はよく練られており妥当である。また幹細胞からの再生技術の出口として歯周病を選択したこと、起業のタイミングとも適切である。
新産業創出 :これから大きな発展が期待される再生医療に関するもので、歯科をはじめ変形軟骨治療と応用範囲も広く、実現できれば新たな医療サービスとして産業創出が期待され社会的インパクトも大きい。次第に競合も多くなると予想されるため先行することが重要である。
総合・その他 :成果を歯周病治療関連の再生医療ビジネスにつなげていく中長期を見据えた事業計画・構想はよく練られており、大学研究と医療産業ニーズの上手く結びついた例となっている。将来的に間葉系幹細胞を保存する細胞バンクを戦略的に展開できるならば大きなビジネスに成長することが期待される。


(2)腎疾患モデル動物
リーダー :宮田 敏男(東海大学医学部 教授)
サブリーダー :上田 裕彦

1 )) 研究開発の概要
腎臓の細胞に特異的に存在するメグシン遺伝子を改変した腎疾患モデル動物の研究開発を行う。メグシン遺伝子改変動物はヒトの腎炎と極めて類似した病変を示す。効率よく短期間に腎炎を発症する腎炎モデル動物を作製することで、今後増加が予想される腎疾患に対する医薬品開発での利用が期待される。

2 )) 事後評価内容
A)成果
 腎臓病治療薬開発が遅れている要因の一つには薬効実証のための腎臓病モデル動物がないことが挙げられる。腎臓病に深く関連する新規遺伝子「メグシン」を単離同定し、メグシン遺伝子を用いて医薬品開発のために有用な腎疾患モデル動物群の作製を行った。二大腎臓病である慢性腎炎(メサンギウム増殖性腎炎)と糖尿病性腎症の他に腎不全、更には腎上皮障害のマウス/ラットのモデルを各々確立した。病理像はいずれもヒト腎炎と類似している。これらモデル動物について特許を出願し知的財産権の確保を達成した。これらの成果をもとに、株式会社ジーンセーシスを設立した。
特許出願数:3件(研究開発終了時点)
B)評価
計画の達成度 :メグシントランスジェニックマウス/ラットの作製と解析について、当初計画通りの目標はほぼ達成されている。ラット改良、その病態など総合的な研究が進められ成果が得られている。
知的財産権 :研究成果である腎疾患モデル動物に関する特許が確保されているが、今後設立したベンチャー企業の継続のためにも、更なる特許の確保を期待する。
起業化計画 :腎疾患モデル動物を用いて評価受託事業で事業基盤を確立しその後共同研究で創薬開発への参画を考えている点は適切である。しかし、資金計画やプレマーケティング等に甘さも見られ、研究開発費用が予定よりも多額に又先行して必要となる可能性がある。
新産業創出 :トランスジェニックによる疾患モデル動物の事業については多くの競争相手があり、その一部と見なされた場合、新産業といえるか難しい。しかし、画期的な腎臓病治療薬が創成できれば、産業効果が期待でき、併せて透析の代替治療として医療費削減が見込める。
総合・その他 :当初の研究開発目標は達成され、腎疾患に関する研究としてはマウスを含め優れた成果を得たと言える。医薬探索のための評価用モデル動物は特許の強さと医薬産業からのニーズによって事業としての評価が定まるので、起業後数年間の評価受託事業は適切で現実的ではあるが、更なる研究開発を推進するために十分な収益を上げるにはやや心許なく、事業を大きく発展させるためのビジネスモデルが求められる。

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