平成17年度に開始した研究開発課題『アゾポリマー注1)を利用した「抗体チップ」の作製と食品機能評価への応用開発』(開発代表者:大澤 俊彦 名古屋大学 教授、起業家:許 政傑)では、大澤 俊彦教授の技術シーズをもとに、サイトカインやホルモンなどの生体内微量物質を従来技術の1/100程度の極微量サンプル量で、従来法(ELISA法注2))と同レベルの高感度と定量性を持つ抗体の固定化技術の開発に成功しました。また酸化ストレスや炎症反応に特異的な未病マーカー注3)の抗体チップ上での測定技術を確立しました。これにより、従来法と比べて圧倒的な低コストでの未病検査が実現可能となります。この成果をもとに平成21年3月31日に、研究開発メンバーらが出資して「株式会社ヘルスケアシステムズ」を設立しました。
同社は、がんや動脈硬化、糖尿病の合併症など生活習慣病の予防や老化制御食品、さらにはアレルギー抑制食品の科学的な機能性評価に必須なバイオマーカーのプロファイリング解析注4)を一挙に可能にする「抗体チップ」の開発・製造・販売を実施する名古屋大学発ベンチャーです。
今後の展開としては、初年度から3年間は、食品・医薬品の臨床試験、大学・研究機関での疫学研究を対象として未病マーカーの受託分析の実績を積み重ね、学会や論文での発表を通して同抗体チップおよびメタボリック未病検査の意義を啓発し、市場開拓・拡大に努めていきます。また、共同研究として、民間や公的研究機関と連携し、抗体チップによる未病検査を実施していきます。これらの実績により、3年後をめどに健康管理・サービス分野へ参入し、医療機関、人間ドッグ、健保組合、健康サービス提供企業を対象にメタボリック未病診断受託の事業化を目指します。今後、メタボリックシンドロームなどにおいて疾病予防の重要性がますます高まることが予想され、抗体チップによる低コストでの未病検査は、国民の健康増進と医療費削減に大きな貢献ができると期待されます。
今回の「株式会社ヘルスケアシステムズ」設立により、プレベンチャー企業および大学発ベンチャー創出推進によって設立したベンチャー企業数は92社となりました。
独創的シーズ展開事業 大学発ベンチャー創出推進
研究開発課題 | : | 『アゾポリマーを利用した「抗体チップ」の作製と食品機能評価への応用開発』 |
開発代表者 | : | 大澤 俊彦(名古屋大学 教授) |
起業家 | : | 許 政傑 |
研究開発期間 | : | 平成17~19年度 |
<開発の背景>
国民医療費は増大の一途をたどり、医療費抑制は国家的命題となっています。特に、透析や心血管疾患など、生活習慣病およびその合併症の治療費が医療費の負担を大きく占めていることから、生活習慣病を早期に予防することが急務となっています。健常状態から疾病状態に至るまでの未病マーカーでは、さまざまな候補物質が注目されていますが、生活習慣病には遺伝的要因や生活習慣など多様な因子が関わっていると推測され、複数の未病マーカーから総合的なリスク分析をすることが必要であると考えられています。
<研究開発の内容>
本研究開発では、生体内微量物質の分析において、従来技術の1/100程度の極微量サンプル量で、従来法(ELISA法)と同レベルの高感度と定量性を持つ抗体チップの量産化に成功しました。アゾポリマーを利用した抗体チップは、従来法と違い紫外線ではなく可視光にて抗体を固定するため、抗体の変性を受けにくいという特徴があります。また、肥満関連因子のアディポサイトカイン注5)や過剰な活性酸素が原因となって生ずる過酸化脂質由来の代謝物やDNA酸化損傷の副産物などに対するモノクローナル抗体注6)の開発と抗体チップによる分析方法を確立しました。
<今後の事業展開>
初年度から3年間は、食品・医薬品の臨床試験、大学・研究機関での疫学研究を対象として未病マーカーの分析受託実績を積み重ね、学会や論文での発表を通して抗体チップおよびメタボリック未病検査の意義を啓発していきます。また共同研究として、民間や公的研究機関と連携し、抗体チップによる未病検査を実施していきます。これらの実績により、3年後をめどに健康管理・サービス分野へ参入し、医療機関、人間ドッグ、健保組合、健康サービス提供企業(フィットネスクラブ、美容サロンなど)を対象に未病診断受託の事業化を目指します。
<参考図>

図1 従来技術と新技術の比較

図2 抗体チップ(分子認識光固定)

図3 抗体チップ専用検出装置
<用語説明>
注1)アゾポリマー
新規に開発したアゾ色素含有ポリマーで、トランス体は光照射によりシス体との間に分子運動が生じ、ポリマーが可塑化され、ポリマーに接したたんぱく質などの微小物体の形状にあわせ変形することによってその微小物体を固定化するという優れた特性を持っている。このような特性を生かし、名古屋大学との共同研究からアゾポリマーをスピンコートされているガラススライドにスポッティングしたモノクローナル抗体を光照射によりインプリンティングすることで、抗体活性を保持した状態で基板上への固定化に成功している。
注2)ELISA法
Enzyme-linked ImmunoSorbent Assayの略で、酵素結合イムノソルベント検定法(エリザ、またはイライザ)と呼ばれる。酵素を標識した既知の抗原によって試料中に含まれる抗体の濃度を検出する方法で、抗原物質を前もって吸着させたポリスチレンあるいは他の材料でできたプレート上で行う。
注3)未病マーカー
健康と病気の間の「未病」段階で特異的に発現する物質。未病マーカーを分析し、未病状態を把握することで、疾病予防や健康増進・維持への効果的な対策を講じることが可能となる。
注4)バイオマーカーのプロファイリング解析
血液や尿検体に含まれる生理活性物質などの微量物質を網羅的に測定し、生体内の生物学的変化を定量的に把握する。
注5)アディポサイトカイン
脂肪細胞から分泌される生理活性物質。動脈硬化やインスリン抵抗性に関連するものが多く、生活習慣病の未病マーカーとして注目されている。
注6)モノクローナル抗体
1つのクローンあるいは遺伝的に同一の集団からなる融合ハイブリッド細胞(ハイブリドーマ細胞)が産生する抗体。
<本件お問い合わせ先>
株式会社ヘルスケアシステムズ
〒464-0858 愛知県名古屋市千種区千種2-22-8名古屋医工連携インキュベータ202
瀧本 陽介(タキモト ヨウスケ)
Tel:090-4598-6939 Fax:03-5803-2882 E-mail:takimoto@hc-sys.jp
E-mail:
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