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科学技術振興機構報 第605号

平成21年1月27日

東京都千代田区四番町5番地3
科学技術振興機構(JST)
Tel:03-5214-8404(広報課)
URL https://www.jst.go.jp

戦略的創造研究推進事業・研究加速課題
「新規がん遺伝子同定プロジェクト」の実施について

 JST(理事長 北澤 宏一)の戦略的創造研究推進事業では、通常の研究推進事業に加え「研究加速課題」については特別に研究の加速を推進しています。
 この度、「iPS細胞研究」と「鉄系高温超伝導物質研究」に続く第3番目の研究加速課題として、がんの新たな治療法の基盤となる技術開発に取り組む「新規がん遺伝子同定プロジェクト」(研究代表者:間野 博行 自治医科大学 教授)を選定し、この研究の加速を推進することとしました。

1.研究代表者

 間野 博行(自治医科大学 教授)

2.研究期間

 平成21年1月~平成26年3月(予定)

3.研究予算

 総額 7億円(予定)
 年間 1億~1億8千万円

4.本研究課題の目的と内容

 (1)  がんは現在、世界で成人死因の第1位(年間700万人ががんで死亡)の重大な疾患です。この治療法として、最近、がん細胞の生存に必須のがん遺伝子産物を標的として、その働きなどを阻害する分子標的療法が着目され、期待されています。
 しかし、がん細胞には多くのゲノムの変化が起こっており、どれが真にがん細胞の生存に必須のゲノムの変異であるかをスクリーニングするのは困難であり、標的となる発がん原因遺伝子は現在までわずかしか見つかっていません。

 (2)  戦略的創造研究推進事業 チーム型研究(CREST)で間野教授らは「レトロウィルスを用いたがん遺伝子スクリーニング法」を開発し、微量の細胞から再現性良く数百万種類の完全長cDNAを得て機能スクリーニングを行うことを可能にしました。
  本技術は、「がん細胞内で発現する遺伝子」の機能スクリーニングを行う手法として世界で最も優れたものの1つであり、平成19年には肺がんの新規原因遺伝子EML4-ALKが発見されました。EML4-ALKについては現在、新たな肺がん分子標的治療法の標的として、急速に世界中で制がん剤開発の競争が始まっています。

 (3)  本プロジェクトでは、上記の肺がんでの成果・実績を基に、新たに「死亡者数が多くかつ現在有効な治療法のないがん種」である、肺がん、食道がん、スキルス胃がん、乳がん、肝臓がん、膵臓がん、男性ホルモン不応性前立腺がん、急性白血病などをターゲットにして、本スクリーニング法を用いて発がん原因遺伝子の同定を行う研究を加速します。
   ※)既知の発がん遺伝子によらない症例

 (4)  具体的には、癌研有明病院および自治医科大学で保存されている多くのがん検体からcDNAライブラリーを作成し、各種アッセイを行い、がん遺伝子のスクリーニングを行います。発見されたがん関連遺伝子群の機能評価を発生工学的手法により検証するとともに、大量の保存がん検体における頻度解析・臨床的特徴との関連解析などを行って、真に発がんの原因となる遺伝子群の同定を目指します。

 (5)  上記目的の達成のため、本研究プロジェクトでは4つのグループを設けて、研究を推進します。

1「配列解析グループ」 (自治医科大学)
プロジェクト全体の統括を行うとともにがん検体からのがん発現遺伝子の大規模スクリーニングを行います。

1「機能スクリーニンググループ」 (新たに東京に設置)
がん発現遺伝子のスクリーニングを大規模に行います。

1「病理解析グループ」 (癌研有明病院)
さまざまながんの解析対象検体の選別および異常遺伝子のヒト検体における頻度・病理学的解析などを行います。

1「疾患モデル動物グループ」 (千葉大学)
疾患モデル動物を作成し、発見されたがん発現遺伝子の機能の検証を発生工学的手法を用いて行います。

 (6)  本プロジェクトにより、真に発がんの原因となる遺伝子群が同定され、がん化のメカニズムが明らかになれば、これらの遺伝子などを標的としたがんの診断法・治療法の実用化につながります。 これらの分子標的治療法は従来のがん治療法と比べて、めざましい治療効果を上げることが期待されます。

図1
図 年度ごとの研究推進計画

5.選定経緯

 間野教授より提出された研究提案書に基づき、平成20年12月27日(土)に評価委員会(別紙参照)を開催した結果、本研究に対し「当該研究を加速強化する必要がある」と評価されました。これを受け、平成21年1月6日(火)にJST研究主監会議にて、本課題を研究加速課題とすることが承認され、平成21年1月中にJST内で本研究プロジェクトを研究加速課題として実施することを決定しました。


<添付資料>

別紙:戦略的創造研究推進事業における「新規がん遺伝子同定プロジェクト」評価委員会

<お問い合わせ先>

瀬谷 元秀(セヤ モトヒデ)
科学技術振興機構 戦略的創造事業本部 研究領域総合運営部
〒102-0075 東京都千代田区三番町5 三番町ビル
Tel:03-3512-3524 Fax:03-3222-2064
E-mail: