科学技術振興機構報 第60号 |
平成16年5月13日 |
埼玉県川口市本町4-1-8 独立行政法人 科学技術振興機構 電話(048)226-5606(総務部広報室) URL:http://www.jst.go.jp/ |
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*東京大学大学院薬学系研究科教授 | ||||||
左右の手を重ね合わせることができないように、自然界に存在する分子や構造体にはその鏡像体を重ね合わせることのできない化合物(光学活性化合物)が数多く存在する。生体内ではそのような両鏡像体の一方のみが機能していることが多く、アミノ酸などがその代表である。医薬品は生体に働きかける分子であり、有効に機能するためには鏡像体の関係にある分子の一方のみを用いる必要がある。そこで合成化学の分野では、両鏡像体の一方のみを立体選択的に合成する反応(=不斉合成反応)の開発が重要な課題となっている。また、医薬品にはその構造中に窒素原子を必須とする化合物が数多く存在するため、含窒素化合物の効率的な不斉合成反応の開発が望まれている。 一方、ルイス酸(注1)は様々な反応を活性化する重要な触媒であり、また多彩な修飾により機能をコントロールできることから、これを用いる不斉合成反応は大きな可能性を秘めた魅力的な手法である。ところが窒素原子はルイス酸を不活性化することが多く、含窒素化合物の触媒的不斉合成の開発に大きな障害となってきた。 本研究では、光学活性なジイミン化合物で修飾した過塩素酸銅(式1、ルイス酸の1種)が、グリオキシル酸エステルとエンカルバメート類との付加反応を効果的に触媒し生成物を与えることを見出した。 | ||||||
![]() 式1 | ||||||
本反応は様々な構造のエンカルバメート類に適用可能であり、立体選択性が非常に高く、必要な触媒量は基質に対して0.1モル%と優れた触媒活性能を有する。また、生成物は、神経伝達物質として重要なγ-アミノ酪酸(注2)誘導体やファインケミカル原料として有用なラクタム・ラクトン類など、興味深い様々な構造の含窒素化合物への変換も容易である(式2)。 さらに、本反応では原料に含まれる原子の全てが生成物に組み込まれるため(原子効率が100%(注3) )、化学反応に伴う廃棄物の発生を抑制した環境調和型の反応である。 | ||||||
![]() 式2 本反応生成物から誘導される有用化合物 | ||||||
今後の展開 | ||||||
現在、本反応の適用拡大の一つとして、グリオキシル酸エステル以外の基質を用いた触媒的不斉合成反応の検討を行っている。また、反応機構解明へのアプローチも行っており、高い立体選択性が発現する詳細な機構を明らかにすることで、より高機能な不斉ルイス酸触媒の開発が期待される。一方、本触媒反応の特徴である、高収率、高立体選択性、高触媒活性能を生かした有用化合物の実用的合成(大量合成)の検討も進めており、有用化合物の工業化への展開が期待される。 | ||||||
[論文名] | ||||||
Highly Diastereo- and Enantioselective Reactions of Enecarbamates with Ethyl Glyoxylate Leading to Both Optically Active Syn- and Anti-α-alkyl-β-hydroxy Imines and Ketones (両光学活性なシン及びアンチ-α-アルキル-β-ヒドロキシイミン及びケトンを合成するためのエンカルバメートとエチルグリオキシレートの高ジアステレオ及びエナンチオ選択的反応) doi :10.1002/ange.200460165 | ||||||
[研究主題] | ||||||
戦略的創造研究推進事業 総括実施型研究「小林高機能性反応場プロジェクト」 (研究期間 2003年11月~2008年10月) | ||||||
[用語説明] | ||||||
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