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<用語解説>

注1)感受性遺伝子
 多因子疾患の発症に関わる遺伝子のこと。通常、疾患に対して弱い効果しかない場合が多く、多くの要因が重なって疾患を形成する。

注2)脳卒中
 脳の血管が詰まったり、破れたりして、その先の細胞に栄養が届かなくなり、細胞が死に至る病気。脳卒中には、以下のいくつかのタイプが知られている。
①脳梗塞
 脳を養う血管が詰まるタイプで、脳卒中死亡の60%以上を占める。
②脳出血
 脳の中の細い血管が破れて出血し、神経細胞が死んでしまうタイプで、脳卒中死亡の約25%を占める。
③くも膜下出血
 脳を覆っている3層の膜(内側から、軟膜、くも膜、硬膜)のうち、くも膜と軟膜の間にできた動脈瘤が破れ、膜と膜の間にあふれた血液が脳全体を圧迫するタイプ。脳卒中死亡の10%強を占める。
④一過性脳虚血発作
 脳の血管が詰まるタイプのうち、24時間以内に回復するもの。脳梗塞の前触れ発作とも言われる。

注3)遺伝子多型
 遺伝子DNAの塩基配列が同じ生物種の個体間もしくは相同染色体間で異なる現象。

注4)オッズ比
 統計学的尺度の1つで、交積比とも呼ぶ。疫学研究においては、ある要因を疾患の原因と仮定し、その関連の度合いを表現するために使われる。ここではオッズ比が高いほど関連が強いことを示す。通常の多因子疾患では低いオッズ比しか期待されず、1.5を超えると比較的強い因子と言える。
 例として、ある因子への暴露と疾患発症の関係を調べた場合に、以下の表のようなデータが出たとする。

  症例(人数) 対照(人数)
暴露あり a b
暴露なし x y
合計 a+x b+y

 ある疾患が起こる確率をPとするとオッズはP/(1-P)と表され、暴露有りのオッズは症例群でa/x、対照群でb/yとなる。この2つの値の比、すなわちオッズ比はay/bxと表現される。従って、疾患に関連する因子であればa>xとなり、一方で対照においては因子の影響が見られないためb≒yに近づく。その結果、オッズ比の増大が生じる。

注5)連鎖解析(リンケージ・アナリシス)
 多因子性疾患の感受性遺伝子を同定する手法の1つ。家系に着目し、主に罹患同胞(兄弟姉妹)対を収集して遺伝子解析して遺伝子領域の特定を行う、染色体上における疾患遺伝子座を特定する方法。2つの遺伝形質に注目した場合、近接して存在するとメンデルの法則に基づく独立での遺伝にならず、連鎖した遺伝が観察される。この現象に着目し、家系内解析で染色体組み換え現象を検出することにより、遺伝マーカーと疾患遺伝子座間の距離を推定する。

注6)Common Disease-Common Variant(CD-CV)仮説/Common Disease-Rare Variant(CD-RV)仮説
 脳動脈瘤などのようなありふれた疾患(common disease)は、遺伝要因と環境要因とが複雑に絡み合って発症に至る多因子疾患である。その遺伝要因も単一でなく、複数の感受性遺伝子が単独で、あるいは相互作用を介して、疾患発症に関わると考えられている。ゲノムの同祖性からの帰結により、その疾患発症に関わる疾患感受性アレルの少なくとも一部は、複数の患者間で同祖共有していると十分考えられる。患者間で共有すると仮定する感受性アレルの集団頻度の違い(比較的高頻度[common variant]、低頻度[rare variant])が、CD-CVおよびCD-RV仮説の主要な相違点である。

注7)患者対照関連解析(アソシエーション・スタディ)
 家系解析に注目する連鎖解析とともに、多因子性疾患の感受性遺伝子を同定する手法の1つ。患者と対照で遺伝子の多型頻度を比較し、統計的な有意差を有する多型を検出する。

注8)遺伝子型相対リスク
 2つのアレル注11)(M, m)からなるSNPの場合、3種類の遺伝子型(MM, Mm, mm)が観察され得るが、各遺伝子型の浸透率(発症率)比のことを、遺伝子型相対リスクと呼ぶ。例えば、mアレルがリスクアレルである場合、遺伝子型MMに対するMmあるいはmm遺伝子型の遺伝子型相対リスクを計算することにより、このSNPの疾患への関わり方(優性、劣性、相乗遺伝モデルなど)を推量することが可能となる。

注9)多重検定の補正法
 有意水準αを検定の数Nで除した値α / Nを、多重検定における有意水準α'とする手法。従来、多重検定における有意水準の補正法として最も一般的に用いられてきたが、保守的な有意水準を与え、タイプIIエラー(本来棄却するべき帰無仮説を、誤って採択してしまうこと)を多数生じさせる傾向にあるため、近年はこれに代わる手法が主流となっている。

注10)コクラン・アーミテージ傾向テスト
 通常のアレル頻度を用いたカイ検定では,遺伝子型頻度がハーディ・ワインバーグ平衡(HWE)に成立していることが前提である。多くの遺伝子多型を同時に検討する場合、有意差検定で順位づけが必要となる。現実にはマイナーアレルのホモ接合の場合に関連するなど、必ずしもHWEを満たさない場合がある。本テストはHWEを仮定せずに有意差検定を行う手法であり、傾向反応関係の検定を行う"有意差の順位付け"が比較的簡便にできる。

注11)アレル(allele)
 相同染色体の対応する同じ部位にある遺伝子を示す。同一座位(遺伝子)において父方からと母方から受け継いだ配列であり、対立遺伝子ともいう。

注12)マンテルエクステンション法テスト
 2xkのクロス表が多層ある場合に、層別要因の影響を調整した全体としての傾向―反応関係のカイ2乗検定を行う。層が1つの場合のテストが前述のコクラン・アーミテージ傾向テストである。