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別紙

報告書「中学校理科教育を充実し、科学技術創造立国の確固たる基盤を」の概要

1.これからの中学校理科教育の在り方

 科学的リテラシーの育成と科学技術系人材の育成が、今日の理科教育に課せられた使命であり期待です。その実現に最も影響力を持つのは理科を教える教員であり、期待に十分に応えられる教員の養成や教職に就いてからの理科教員としての専門性の向上、および、彼らが力を発揮できる環境と、理科教育に対する社会からの支援が不可欠です。
 また、中学校段階における理科教育では、小学校から継続してすべての子どもたちに科学的リテラシーを育成し、将来実社会で活躍するための科学的な基礎を身に付けさせるとともに、将来の卓越した科学技術系人材の育成にもつながる学習活動や体験機会を提供すべきです。

2.今日の中学校理科教育で解決すべき課題

(1)中学校理科教員の勤務する環境に関する課題

・多忙で助手のいない環境であるため、観察・実験の実施が困難
・理科教員であっても科学系部活動の指導に従事できない
・教材教具不足、観察・実験を行う条件整備のための予算が不足

(2)中学校理科教員の指導力に関する課題

・科学的リテラシーの育成に関しての指導が不十分
・教科外研修の増加による、理科関係研修の減少
・公的、私的な理科研修・研究会へ参加するための環境が十分でない
・研修によって苦手領域が克服されていない
・自己研鑽を含む教科指導に関する評価のウエイトが低い

(3)中学校理科教員の養成に関する課題

・学生に実践的な指導力を身に付けさせる大学の取組が不十分
・理科支援員などを経験しても教員免許取得や採用時に考慮されない
・教員養成課程に理科教員が修得すべき具体的基準が無く、十分な教育が成されているか明確でない

(4)生徒が多様な能力を伸ばし発揮するための課題

・理科の意欲向上につながる体験機会を持たない中学生が多い
・中学生は通塾や部活動により多忙な状況
・将来理系職業を志すための情報提供および保護者を含めた環境づくりが不十分
・科学好きの生徒が活躍できる機会が少ない

(5)地域・社会と連携して理科教育を推進するための課題

・理科センターなどの衰退、機能の低下
・外部機関との連携や外部資源活用の機会が少ない
・地域が外部から理科教育を支える仕組みがない
・理科を指導する教員の科学・社会と学校・生徒とを「つなげる力」の不足

3.課題解決のための方策

 上記2.で概観した中学校理科教育の課題を解決するために、国やJST、地方自治体および現場の学校、保護者、地域・社会が一体となって取り組むべき方策は、以下の通りです。

(1)理科教員の指導力向上のために

1 理科の教員研修の充実と自主的な研究会支援
・教育センターや民間教育団体による活動の拡充、理科専任の指導主事の増員
・全国中学校理科教育研究会やその他の自主的な研究会・企業のCSR活動などと連携した研修・研究会支援。公・民を問わず優れた研修の教員免許状更新講習としての単位化 など
2地域の理科教育を活発にするためのリーダーの養成
・教育の現場と密着した地域の中の研究や研修機会の確保
・高い専門性や国際的な視野をもつリーダー養成のための大学および教員センターなどにおける長期研修などの機会の提供
・コアスクールと併せた地域理科教育の核となる教員育成のための支援 など
3地域の理科教育の拠点(コアスクール)の設置
・周辺地域の教員への情報および教材の提供と人的ネットワークの構築
・大学と連携した地域研究・研修会の活性化
・リーダーの育成などが行える地域の拠点となる場所の設置
4 理科教員としての資質に関する基準づくり
・教員養成課程において理科教員が修得すべき基本的な指導力の基準や、教員の研修で目標となる高度な指導力についての内容と水準、評価手法の明確化に向けた取り組みの促進および教員の指導力向上において生徒の学習到達状況把握のために、理科を全国学力・学習調査に加えるなどの検討
5 基準に基づいた評価と自己研鑽の奨励
・理科教員に修得が期待される基準について、具体的な実践例で解説する研修用プログラムの開発
・実技を含めた採用試験や顕彰や表彰といった評価体制の確立 など
6 多忙に対する対策と授業環境の整備
・地域や社会の支援人材の適切な配置
・設備費や消耗品費の予算増額
・情報通信インフラの整備やデジタルコンテンツの活用促進 など

(2)生徒が多様な能力を発揮し伸ばせるように

1 科学フェスティバルやコンテストの推進
・科学に取り組む意欲向上のための学校・地域における科学フェアの推進
・自治体ぐるみのコンテスト支援
・科学部などの部活動支援および探究活動やコンテストの成績、イベントの成果の入試への反映
・優れた取組の調査・研究 など
2 日常での事象や職業との関連に関する意識の向上
・子どもたちがより具体的なキャリアイメージを持つための教材・教科書・体験活動の充実
・科学者・技術者の特別講師への活用
・生徒および保護者への情報提供
・他教科との連携 など
3 生徒の高い意欲・才能をさらに伸ばすための支援
・科学に関する高い意欲や才能をさらに伸ばし育むための環境整備
・能力に適した進路選択の機会の充実に向けた取り組みの促進
・学校と外部機関との連携の推進 など

(3)地域・社会の人材活用による理科教育推進のために

1 地域・社会と学校との連携の推進、「つなげる力」への支援
・理科教員自身が外部の力を教室に呼び込み、効果的な授業や活動を設計・運営する力「つなげる力」を高めるための教員研修カリキュラムの開発や実施
・支援するためのコーディネーターの整備やコアスクールにおける規範モデルの提示
・CSR活動などの促進による科学教室などの充実 など
2 女子生徒の科学技術系職種へのキャリア意識の向上
・女性の科学技術系人材の不足に対し、女性科学者との出会いや活動を紹介する教材の普及
・ロールモデルの充実など、女子生徒のキャリア意識の発達を促す活動の推進

 以上に挙げたような解決に向けた取り組みのためには、中学校理科教育に関わる、国、地方自治体、大学・研究機関および企業・NPO、学校と教員、それぞれが理科教育改善に向けて主体的に参加する意識を持って、根本的な対策を実行していくことを期待します。
 また、JSTにおいては、今後以下について、実施に向けて検討すべきです。

◇中学校理科教員のための支援

・教員を支援する理科教育支援拠点(コアスクール)の設置支援
・地域における理科教員のリーダーの育成支援
・地域における教員間の研究活動を促す研修会・研究会の支援
・理科教員の人的支援の拡充
・理科教員の指導力基準に関する調査・研究の推進と情報の発信
・現職教員研修および表彰制度の充実

◇生徒の多様な能力を伸ばしていくための支援

・地域の理科コンテストの活性化支援
・意欲や才能のある子どもをさらに伸ばすための支援

◇地域・社会の人材・教育資源の活用による理科教育推進のための支援

・地域・社会の人材活用による理科教育の推進
・理科と実社会との結びつきを意識できる機会の提供