JSTトッププレス一覧科学技術振興機構報 第579号 > 開発を終了した課題の評価

開発を終了した課題の評価

課題名 「高速3次元分子分光顕微鏡」
所有者 国立大学法人 大阪大学、ナノフォトン株式会社
研究者 大阪大学 大学院工学研究科 教授 河田 聡
委託企業 ナノフォトン株式会社
開発費 約2500万円
開発期間 平成17年3月24日~平成20年3月31日
評価  本新技術は、生きている生体分子を観察可能な高速3次元分子分光顕微鏡の開発に関するものである。
 従来、蛍光顕微鏡などを用いて生体分子試料を観察するためには、染色などの前処理が必要で、生体に損傷を与える欠点があったが、前処理不要で生体分子そのものの動きを観察可能な顕微鏡が望まれている。

 本新技術は、2波長のレーザー光を観察対象の生体分子試料に入射し、それらの光の周波数差が分子振動と一致したときに、入射光より短波長の散乱光(コヒーレント・アンチストークス・ラマン散乱光、CARS)を生じる現象を利用した。また多数の微小レンズ群を平面上に配列した回転マイクロレンズアレイを用いて一度に多数の焦点を走査可能なマルチフォーカス方式を採用することで、高速3次元画像の取得が可能な分光顕微鏡の実現に成功した。また、試料のラマンスペクトル情報を処理し、CARS顕微鏡により観察すべき波長を選択する適切なアルゴリズムを開発した。

 開発した顕微鏡はラマン顕微鏡とCARS顕微鏡のハイブリッドシステムであり、各モードに切り替えて観察が可能で、奥行空間分解能は蛍光顕微鏡に比して半分程度、時間分解能は蛍光顕微鏡に比して2桁小さいという優秀な性能が確認された。
 本技術の高速度3次元分子分光顕微鏡は、生体分子に損傷を与えるような染色前処理なしに、生体分子そのものを高分解能の動画像で観察可能であることから、生物学、医学分野での広汎な利用が期待される。
評価者 独創的シーズ展開事業 委託開発
 プログラムディレクター  今成 真
 プログラムオフィサー  中川 威雄、吉村 進、桐野 豊
評価日 平成20年6月4日