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エレクトライドは、イオン結晶での陰イオンの役割を電子が担うユニークな化合物で、これまでに、特殊な有機化合物でのみ知られていたが、いずれの化合物も室温では不安定で、実用には適さなかった。
昨年8月、本研究グループは、アルミナセメントの一種類であるC12A7のケージ内に存在するフリー酸素イオンを全て電子で置換する事により、室温で安定なエレクトライドの合成に成功した。(図1参照)この具体的な応用として、C12A7中に取り込んだ電子を室温で外部に取出す「冷電子放出銃」、電子の光吸収を利用した「赤外線検出素子」、電子の化学反応性を利用した「還元試薬」などへの展開を期待した。 |
室温で電場印加により電子を放出する「冷電子エミッター」は、「電界放出型平面ディスプレイ(FED、Field Emission Display)」の平面電子銃として有望視されている。このために、円錐状シリコン(スピント素子)、カーボンナノチューブなどを電子放出部とした平面電子銃の開発が活発に行われている。(図2参照) |
現在世の中で開発中の材料は、電子を外部に引き出すために高いエネルギー(カーボンナノチューブでは、3.7eV)が必要であるが、本グループで開発したエレクトライドは、ナノケージに緩く束縛された電子を高濃度に含んでいるため、より小さなエネルギー(0.6eV)で電子を外部に引き出すことができる。
今回、真空中に設置した平板単結晶エレクトライドに、外部電圧(電極間距離50μm)を印加していくと、1600V付近から引き出し電流が観測され、その値は、電圧の増加とともに急激に増加し、20μA/cm2を超える電流密度が得られた。(図3参照)
この測定では材料の基礎物性を調べるために、平面形状で、しかも50μmという大きな電極間距離を用いている。そのため、デバイスとしては一番不利な測定条件となっており、放出電圧が1600V以上と高い。しかし、今後、エレクトライドに微細加工を施し、円錐状シリコンのような先端の尖った形状に加工することにより、印加電圧の更なる低電圧化が期待できる。 |
実際に引き出された電子を蛍光体に照射すると、青、緑の発光が見られ、FEDの平面冷電子銃として機能することが示された。(図4参照) |
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[論文名] |
Field Emission of Electron Anions Clathrated in Subnanometer-Sized Cages in [Ca24Al28O64]4+(4e-)
([Ca24Al28O64]4+(4e-)が有するナノ籠構造に包接されている電子陰イオンの電界放出特性)
doi :10.1002/adma.200306484 |
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[研究主題] |
創造科学技術推進事業「細野透明電子活性プロジェクト」
(研究期間 1999年10月~2004年9月) |
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注1) 用語解説 |
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「冷電子放出銃」
テレビのブラウン管に使われている電子銃は、高温に加熱して、かつ電界を印加することで電子を真空中に放出している(熱電子放出)。これに対して、試料を加熱することなく、室温で電場をかけるだけで電子を放出できる物質をいう。熱電子放出に比べ、エネルギー消費が少ないため、ディスプレイなどいろいろな応用が期待されている。このためには、電子を放出し易く安定な物質が不可欠。 |
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東京工業大学 応用セラミックス研究所 教授
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