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科学技術振興機構報 第559号

平成20年9月10日

東京都千代田区四番町5番地3
科学技術振興機構(JST)
Tel:03-5214-8404(広報課)
URL https://www.jst.go.jp

安価で高機能な無機中空粒子を簡便なバブルテンプレート法で
量産化する技術を開発

(JST大学発ベンチャー創出推進より企業を設立)

 JST(理事長 北澤 宏一)は、産学連携事業の一環として、大学などの研究成果を基にした起業のための研究開発を推進しています。
 平成17年度に開始した研究開発課題「ナノ粒子構造を有する中空粒子のバブルテンプレート法による量産プロセスの開発」(開発代表者:高橋 実 名古屋工業大学 理事・副学長、起業家:冨岡 達也)の成果を基に平成20年8月1日、「株式会社 NCAP」を設立しました。
 中空粒子注1)とは内部に空隙を有する粒子で、材料に混入させることによりその材料の軽量化や機能の複合化ができるため、医薬品や食品、化粧品、塗料、水処理、各種フィラーなどの分野で注目されつつあります。従来、中空粒子の製造には複雑な工程を必要とするため、製造コストが高くなるという欠点がありました。
 本研究開発による中空粒子の製造法は、原料水溶液中に微細気泡をバブリング注2)し、水溶液と気体表面との界面反応により無機中空粒子を形成させるという非常に簡便な方法です。このため、従来と比較し設備投資が著しく軽減できることから、大幅なコスト低減が可能となりました。またコアが気体なのでコンタミネーション注3)がなく、極めて清浄な中空粒子を製造できます。
 現在、この新製法の特徴を生かした製品の実用化に向け、株式会社 NCAPは名古屋工業大学およびユーザーなどと共同開発を進めています。
 今後、株式会社 NCAPは中空粒子の市場展開を図るため、ユーザーへの販売に加え技術供与を積極的に行う予定です。
 今回の「株式会社 NCAP」設立により、プレベンチャー事業および大学発ベンチャー創出推進によって設立したベンチャー企業数は81社となりました。

今回の企業の設立は、以下の事業の研究開発成果によるものです。
 独創的シーズ展開事業 大学発ベンチャー創出推進
研究開発課題「ナノ粒子構造を有する中空粒子のバブルテンプレート法による量産プロセスの開発」
開発代表者高橋 実 (名古屋工業大学 理事・副学長)
起業家冨岡 達也
研究開発期間平成17~19年
 独創的シーズ展開事業 大学発ベンチャー創出推進では、大学・公的研究機関などの研究成果をもとにした起業および事業展開に必要な研究開発を推進することにより、イノベーションの原動力となるような強い成長力を有する大学発ベンチャーが創出され、これを通じて大学などの研究成果の社会・経済への還元を推進することを目的としています。

<開発の背景>

 無機中空粒子は各種材料に混入させることで、その材料からなる製品の軽量化や複合機能化ができるため、医薬品や食品、化粧品、塗料、水処理、各種フィラーなど多くの分野で注目されつつあります。中でも炭酸カルシウムを原料とした中空粒子は生体に対する安全性が高いため、高機能化を図ることで新しい用途へ広く活用できると期待されています。
 しかし、従来の製造方法であるW/Oエマルジョン法注4)スプレードライ法注5)では、製造コストや、コア除去に起因するコンタミネーションや廃棄物などの問題があり、実用化された中空粒子の例はありません。また従来法は製造過程が複雑であることから、適用できる原料や、製造できる中空粒子の種類に制約がありました。

<研究開発の内容>

 本研究開発チームは、バブルテンプレート法注6)を用い、pHを変化させながら原料である塩化カルシウム水溶液中に微細な炭酸ガス気泡を分散させ、水溶液と気泡表面の界面反応によって生成したナノオーダーの微細粒子を気泡表面に凝集させて殻を作り、炭酸カルシウムの中空粒子を製造することに成功しました。このバブルテンプレート法の利点としては、中空粒子の製造法としてよく知られるW/Oエマルジョン法のようにコアを除去する必要がないため、廃棄物の処理が不要になることや、コア除去時の残存物によるコンタミネーションのないことなどがあげられます。もう一つの主な製造法であるスプレードライ法に比べても、高温にさらす必要がないため、工程の簡素化ができることや、添加材料に対しても悪影響を与えず高機能化が可能なことなどの利点があります。また、広範な材料に適用できることもバブルテンプレート法の長所の一つです。
 また、本研究開発では、バブルテンプレート法を応用し、炭酸カルシウム純度の高い針状アラゴナイト注7)や、酸化亜鉛を原料とした単結晶チューブなどの開発にも成功しました。

<製品例・実施例>

バブルテンプレート法により合成した炭酸カルシウム中空粒子

バブルテンプレート法を応用して合成した酸化亜鉛単結晶チューブ

<今後の事業展開>

 今後、第1ステップとして、「名古屋工業大学およびユーザーとの共同開発や拡販用のためのサンプルの供給」や「技術供与の推進」、「機能性中空粒子の商品開発と市場開拓」を進めていきます。将来は、より付加価値の高い機能性中空粒子を開発し製造・販売するとともに、中空粒子全般にかかわる技術供与と関連機器の設計製作・販売をめざします。

<用語説明>
参考:企業概要・事業形態

<本件お問い合わせ先>

株式会社 NCAP
〒466-8555名古屋市昭和区御器所町 インキュベーションセンター
冨岡 達也(トミオカ タツヤ)
Tel/Fax:052-735-7576 E-mail:

独立行政法人 科学技術振興機構 産学連携事業部 技術展開部 新規事業創出課
〒102-8666 東京都千代田区四番町5番地3
徳山 亜季(トクヤマ アキ)、薄井 一司(ウスイ カズシ)
Tel:03-5214-0016 Fax:03-5214-0017