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資料3

新規採択研究開発プロジェクトおよびプロジェクト企画調査の概要
【犯罪からの子どもの安全】

総評:領域総括 片山 恒雄 (東京電機大学 教授)

 「従来のばらまき型のプロジェクトにはしない」「社会技術研究の新しい開発手法を示す」「その第1号がこれだ」という、社会技術研究開発センター長・有本 建男さんのおだてともお世辞ともいえない(いえる?)発破に背中を押されながら、1年半ほど領域総括を勤めてきた。この間、マネジメント・グループとアドバイザーの方々には、大変な仕事にご協力いただいた。具体的に書きたいことは山ほどあるが、ここでは我慢しよう。
 昨年採択した4つの研究プロジェクトと6つの企画調査は、この3月で最初の半年間の研究や調査を終えた。4件の研究開発プロジェクトの進捗状況は、本領域のウェブサイト「犯罪からの子どもの安全」に報告されている。プロジェクト間で差はあるが、マネジメント・グループの本気さ加減は研究を実施する人たちに浸透しつつあると感じている。
 この研究領域は、「犯罪からの子どもの安全」という大きな分野を、社会還元の視点からバランスよくカバーできるプロジェクトの集まりであることが大切である。その意味から、本年度の公募では、1 犯罪から子どもを守るために役立つ地域力、2 情報社会における違法・有害情報から子どもを守るための多様なアプローチ――を重視するとともに、領域設定時の議論を再確認し犯罪から子どもを守ることに明確に結びつくことにかかわる提案であれば、いじめや虐待、子どもが加害者となることへの対策などに関する研究もプログラムの対象とした。採否の検討に際しても、どのような課題を選べば、「犯罪からの子どもの安全」という大きな分野を過不足なくカバーできそうかを要件の1つとした。
 2008年度の公募には、プロジェクト17件、企画調査9件の応募があった。プロジェクトは1件当たり5人、企画調査は4人が査読した結果に基づき、プロジェクト13件、企画調査4件の代表者に対して面接選考を行い、プロジェクト4件、企画調査2件を採択した。
 あくまでも、私の個人的な感想に過ぎないが、昨年の採択課題は間口が広く、課題そのものも、良否は別にして、「犯罪からの子どもの安全」というタイトルから想像しやすいものだった。本年度の採択課題はウェブサイトに公開してあるが、提案募集の中で重点をおきたいと述べた、「子どもへの情報モラル・ハザード」「まちづくり-犯罪から子どもを守る地域力」に加え、独特の視点から領域を捉えた、成果の社会還元が見えやすいプロジェクトとなっていると思う。


採択研究開発プロジェクト

研究代表者
氏名
所属・役職 カテゴリー 題名 概要 研究開発に協力する
関与者
下田 博次 特定非営利活動法人青少年メディア研究協会 理事長/群馬大学 特任教授 II 子どものネット遊び場の危険回避、予防システムの開発  本プロジェクトは、子どものインターネット利用の危険回避のためのエキスパート・システム開発とそれに基づく地域総合情報システムを開発することが目的である。そのため、システムのオペレーション要員(ボランティアとしての市民インストラクター)教育ならびにデータベース設計などソフトウェア、ハードウェア開発を行うとともに、最終的に学校PTA、警察など地域の各種関係機関による総合的連携システムの形成を行う。 ・群馬県庁生活文化部 少子化対策・青少年課
・鳥取県教育委員会
・広島市教育委員会 青少年育成部育成課
・京都市教育委員会 事務局 生涯学習部 家庭地域教育支援担当
仲 真紀子 北海道大学
文学研究科
教授
II 犯罪から子どもを守る司法面接法の開発と訓練  事件に巻き込まれた/巻き込まれそうになった子どもへの事情聴取は、子どもの安全確保、捜査、後の防犯の要となる。しかし幼児、児童から話を聞き出すことは難しい。重要な原因の一つは、子どもの発達レベルに応じた、誘導のない面接法が確立していないことにある。本プロジェクトでは 1 認知・発達心理学の成果を踏まえた面接法と訓練プログラムの開発、2 専門家への訓練と効果測定、 3 面接・訓練パッケージの提供・普及を行う。 ・札幌市精神保健福祉センター
・札幌市児童福祉総合センター
・北海道中央児童相談所
山中 龍宏 独立行政法人 産業技術総合研究所
デジタルヒューマン研究センター
子どもの傷害予防工学カウンシル
代表
II 虐待など意図的傷害予防のための情報収集技術及び活用技術  近年、乳幼児が受ける意図的な傷害が問題になっている。意図的な傷害と不慮の傷害の判別方法は、医師や看護師の経験や勘に基づいた判断のみであり、その科学的な検証は皆無で、明確な判断基準は存在しない。本プロジェクトでは、病院および法医学教室において傷害情報を収集し、因果構造分析や知識化を行うことで、意図的な傷害を検知する技術を開発し、医療・保育・福祉現場で使える予防・教育・知識共有ソフトの開発・検証も行う。 ・国立成育医療センター
・千葉大学大学院医学研究院法医学教室
・保育園・幼稚園や保健福祉センター
山本 俊哉 明治大学 理工学部
准教授
II 計画的な防犯まちづくりの支援システムの構築  地域の関係団体(町内会・PTA・商店会・市町村・警察など)が連携・協力し、子どもを守る防犯まちづくりを計画的かつ持続的に進めるため、交通安全や環境美化なども視野にいれ、適切な役割分担を促す計画の策定・実行・評価を支援する電子マニュアルを開発するとともに、それらを判りやすく表示した総合ポータルサイトと、地域における具体的な取組みの情報発信・情報共有を推進する地域ポータルサイトを開発し、実際に運用する。 ・市川市役所危機管理監
・市川市立曽谷小学校周辺地区防犯まちづくり委員会
・市川市立稲荷木小学校周辺地区防犯まちづくり検討委員会
・奈良市富雄地区自治連合会長

採択プロジェクト企画調査

研究代表者
氏名
所属・役職 題名
辻井 正次 浜松医科大学
子どものこころの発達研究センター
客員教授
こころに着目して被害と加害をともに防ぐ
箱田 裕司 九州大学
人間・環境学研究院
教授
子どもの感情理解・統御能力の測定と訓練

領域総括および領域アドバイザー


氏名 所属・役職
領域総括 片山 恒雄 東京電機大学 未来科学部 教授
領域アドバイザー 石附 弘 財団法人 国際交通安全学会 専務理事
国崎 信江 危機管理対策アドバイザー
小澤 紀美子 東京学芸大学 名誉教授
新谷 珠恵 社団法人 東京都小学校PTA協議会 会長 /世田谷区立小学校PTA連合協議会 顧問
杉井 清昌 セコム株式会社 執行役員 / IS研究所 所長
高橋 邦夫 千葉学芸高等学校 校長
戸田 芳雄 国立淡路青少年交流の家 所長
奈良 由美子 放送大学 教養学部 准教授
藤川 大祐 千葉大学 教育学部 准教授
南 哲 関西福祉科学大学 健康福祉学部 教授
三輪 真 松下電器産業株式会社 東京R&Dセンター 所長