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資料3

新規採択研究開発プロジェクトおよびプロジェクト企画調査の概要
【地域に根ざした脱温暖化・環境共生社会】

総評:領域総括 堀尾 正靱(東京農工大学 名誉教授)

 2000年代の環境問題への取組みには、90年代に比べ、はるかに厳しい定量性と高い具体性や大きな広がりが求められている。かつて、構造改革特区構想やバイオマスニッポン総合戦略が登場したときに私たちが感じた清新な気持ちは、それ以後行われてきたたくさんの試みの中に埋もれてしまってはいないだろうか。本プログラムでは、2000年代の課題を真っ向からとらえ、また、7月29日に閣議決定された「低炭素社会づくり行動計画」の呼びかけにもこたえ、産業レベルから市民・地域レベルまでの地道な取り組みをさらに展開力と現実的効果のあるものにし、包括的かつ定量的な脱温暖化・環境共生シナリオの構築とその実践的検証を領域の課題とするものである。
 公募においては、説明会を福岡、大阪、東京の3箇所で行い、温室効果ガス削減の物質・エネルギー収支にかかわる視点、脱温暖化と生態系・環境共生の統合的な視点、シナリオ実現の社会的課題(制度・経済・担い手など)の視点のすべてにおいて、新しい視角からのアプローチの必要性を訴えた。提案の性格に応じ、政策提言などをアウトプットとしてもらうカテゴリーIと、問題解決のための手法の開発と実証を目指すカテゴリーIIとを用意した。
 これに対し、北は北海道から南は沖縄まで、また、大学や研究所のみならず、NPOや企業から、全84件という多数の応募があった。その内、カテゴリーIは13件であった。内容的には、森林系や、農業・農村に絞った提案も多かった一方、地域の問題解決や地域の顔がよく見えないものも見受けられた。
 審査は、書類選考で18件(うち1件辞退、うち6件がカテゴリーI)を選出し、領域アドバイザーのコメントを伝えたうえで面接選考を行った。技術偏重のもの、技術開発ありきで地域がつけ足しの感があるものなどは、厳しい評価になった。
 結果的に、カテゴリーIに4件、カテゴリーIIに5件、企画調査に2件を採択した。なお、来年度も、同様の募集を行う予定である。
 現在の課題は、各プロジェクトにおいて新しい地域の将来像が十分に描ききれないままに、地域での取り組みや脱温暖化シナリオが、なお不消化なままで結合されている傾向があること、応募者自身が脱温暖化や生物多様性をめぐる一連の動きや、そのスピードにまだ十分には追い付いていないことなどである。いま、CO2大幅削減の道筋は、よく見えているわけでもなく、また、決して平坦なはずもない。
 本領域では、アドバイザリーグループとプロジェクト担当者や関連地域の人々が一丸となって、勉強し、問題解決型の横断的な視点を身につけ、新たな道筋を探索し、関心のある多くの方々と交流していく覚悟である。


採択研究開発プロジェクト【カテゴリーI】

研究代表者
氏名
所属・役職 題名 概要
亀山 秀雄 東京農工大学専門職大学院
技術経営研究科
教授
エコポイント制度を活用したエコサービスビジネスモデルの検証  すでに3000万枚以上発行されている交通ICカードによる情報システムと輸送効率の高い鉄道・バスなどを利用するシステムを組み合わせることにより、従来のガソリン車を使った旅行に比べて80%CO削減可能なエコサービスモデルを提案し、削減量の理論的な裏づけと、参加率、関心度などを分析・評価し具体的な施策として提言を行う。また、都市居住者が旅行先で参加できるエコサービスをICカードで提供するモデルとの連携も検討する。
黒田 昌裕 東北公益文科大学
学長
環境共生型地域経済連携の設計・計画手法の開発  地域社会の持続的発展には、経済環境と自然環境の持続的保全の両立が不可欠である。地域社会を担う多くの主体が共創して地域の持続的発展の社会システムを戦略的に構築していくために、経済と環境に関わる経済主体の地域間連携の実態を把握する統計指標を作成する。それに基づいて、脱温暖化の環境保全と地域経済との両立を図るEvidence Based-Policyの構築に向けての手法を開発する。手法の開発は、山形県庄内地域を対象として行うが、地域から発信する社会技術イノベーションの雛形として、国内の他地域のモデルとなりうるものと確信している。
桑子 敏雄 東京工業大学大学院
社会理工学研究科
教授
地域共同管理空間(ローカル・コモンズ)の包括的再生の技術開発とその理論化  ローカル・コモンズ(地域社会のしくみにより、地域が持続可能性に配慮して共同管理してきた空間)の包括的再生により、過疎地といわれる地域の人口や活力が守られ、それによって、化石資源に依存することなく、木質資源(CO固定・社会ストック)その他の風土由来資源を利用する生活のあり方を保証することにより、都市に偏重していく石油依存型社会を変革するための新たな日本の地域像を構築するとともに、こうした地域像を具体的に定着させるための方法の技術開発とその理論化をフィールド(新潟県佐渡市など)での実践を通じて行う。
内藤 正明 滋賀県琵琶湖・環境科学研究センター
センター長
滋賀をモデルとする自然共生社会の将来像とその実現手法  持続可能社会については、地域での多様な試みと国の大きな概念計画の距離が埋められてはいない。ここでは滋賀を対象に、地域のエコ開発や活動を連携・集約して、県レベルでの持続可能社会のモデルを提示する。すでに県データの収集、ビジョン作成、県計画の策定は完了している。本プロジェクトはこれを実社会に具現化するための実証研究を、地域から市まで、技術から価値観までを対象にし、産民官政学の一体で進めていく。

採択研究開発プロジェクト【カテゴリーII】

研究代表者
氏名
所属・役職 題名 概要 研究開発体制
(産学官市民の連携)
駒宮 博男 特定非営利活動法人 地域再生機構
理事長
小水力を核とした脱温暖化の地域社会形成  我が国で最も有望な再生可能エネルギーである小水力の活用を促進し、直面するエネルギー問題と温暖化対策、集落再生とエネルギー自立に対して、地域が主体的解決能力を発揮できるメカニズムの創出を目指す。
 研究では水力資源の豊富な県として知られる岐阜県と富山県を実験地域として住民参加型ワークショップなどを実施し、小水力利用の技術的課題・制度的制約・合意形成上の問題などを抽出して、本格普及に必要な新たな認可・調整方式や事業誘導手法などを検討し、地域主体の事業モデルを提案する。
(産)
日本交通興業株式会社 など
(官)
黒部川左岸土地改良区 など
(学)
富山国際大学 など
(市民)
NPO法人 地域再生機構
宝田 恭之 群馬大学大学院
工学研究科
教授
地域力による脱温暖化と未来の街-桐生の構築  本プロジェクトは、多くの産業遺産群と豊かな森林や水資源を有する群馬県桐生市の特徴を生かして、CO排出を大幅に減らしつつ自然と共生し豊かさを実感できる街づくりを目指す。地元産木材を用いた町並整備、野菜・花マットによる都市農園化、公共交通や自転車利用によるエコ観光、環境負荷低減技術の見本市開催などを体系化した社会実験を産学官民の協働によって行い、世界に先駆けて活力ある未来型都市モデルを提案する。 (産)
桐生商工会議所 など
(官)
桐生市
(学)
群馬大学
(市民)
NPO法人北関東産官学研究会 など
千頭 聡 日本福祉大学
国際福祉開発学部
教授
名古屋発!低炭素型買い物・販売・生産システムの実現  本研究は、消費者の選択と行動を低炭素型に変革する大規模な実証実験を行うものである。店舗で販売される食料品などについて、生産・輸送・販売時に排出されるCOの店頭での見える化と消費者への提示、消費者の視点からの低炭素型の製品普及などを進めるとともに、自転車やバスなどを利用した来店を促すしくみづくりを図り、これらの行動によって削減されるCO量をCO2CO2(コツコツ)ポイントとして社会的に評価するシステムを構築する。 (産)
ユニー株式会社 など
(官)
名古屋市
(学)
日本福祉大学 など
(市民)
なごや環境大学実行委員会 など
藤山 浩 島根県中山間地域研究センター
地域研究グループ
科長
中山間地域に人々が集う脱温暖化の『郷(さと)』づくり  本プロジェクトは、2050年までに総人口の5割を中山間地域へ還流させ、食糧とエネルギーの国内自給率8割を確保した上で、国全体としてのCO排出8割削減に寄与する新たな田園文明の実現可能性を検証するものである。プロジェクトは、自然共生の伝統を有しながらも資源荒廃の危機を迎えている島根県中山間地域の潜在力と課題に根ざすものであり、循環型社会の基本単位=「郷」のモデルエリアを浜田市弥栄町に設定する。そして、エネルギー・食料・材料の複合循環型利用体系と都市からの大幅な人口還流との組み合わせによる大幅なCO排出削減の実現可能性を実証し、環境マネジメントを担う人材育成とGIS活用の情報共有体系とも連動した持続可能な地域社会の未来像を提示する。 (産)
西中国木材エネルギー有限責任事業組合
(官)
浜田市
(学)
島根県立大学、岡山大学 など
(市民)
浜田市弥栄自治区、弥栄らぼ など
両角 和夫 東北大学大学院
農学研究科
教授
東北の風土に根ざした地域分散型エネルギー社会の実現  地域のエネルギー・資源を地域のために最大限利活用するエネルギーシステム・社会システムを実現するための社会技術として、東北地域を対象にして、その歴史、風土を踏まえた、現代風入会山・現代風結い、再生可能エネルギー・コミュニティビジネスについて研究開発を行う。さらに、それらの社会技術を地域に実装したエコミュージアムを実現し、低炭素社会に向けた人々の意識転換、他地域への波及を目指す。 (産)
気仙産業研究機構
(官)
山形県西川町  など
(学)
東北大学 など
(市民)
西川町大井沢自治区 など

採択プロジェクト企画調査

研究代表者
氏名
所属・役職 題名
小出 浩平 株式会社ソシオエンジン・アソシエイツ
執行役員
都市・農村の広域連携による低炭素生活圏モデルの構築
鈴木 嘉彦 山梨大学大学院
医学工学総合研究部
教授
COFree やまなしの実現と課題研究

領域総括および領域アドバイザー (選考時)


氏名 所属・役職
領域総括 堀尾 正靱 東京農工大学 名誉教授
領域アドバイザー 大久保 規子 大阪大学大学院 法学研究科 教授
岡田 久典 NPO法人 バイオマス産業社会ネットワーク 副理事長
川村 健一 広島経済大学 教授
崎田 裕子 ジャーナリスト・環境カウンセラー
NPO法人 持続可能な社会をつくる元気ネット 理事長
杉原 弘恭 日本政策投資銀行 参事役
新妻 弘明 東北大学大学院 環境科学研究科 教授
百瀬 則子 ユニー株式会社 業務本部 環境・社会貢献部 部長
鷲谷 いづみ 東京大学大学院 農学生命科学研究科 教授
山形 与志樹 独立行政法人国立環境研究所 地球環境研究センター 主席研究員