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資料2

平成20年度 戦略的創造研究推進事業(CREST・さきがけ)
新規採択研究代表者・研究者および研究課題概要(第2期)


【さきがけ】
戦略目標:「異種材料・異種物質状態間の高機能接合界面を実現する革新的ナノ界面技術の創出とその応用」
研究領域:「界面の構造と制御」
研究総括:川合 眞紀(東京大学大学院 新領域創成科学研究科 教授/(独)理化学研究所 川合表面化学研究室 主任研究員)

氏名 所属機関 役職 研究課題名 研究課題概要
安宅 憲一 Universitat Bielefeld Department of Chemistry シニアサイエンティスト 時間分解表面増強赤外吸収分光法による光受容タンパク質単分子膜の動的挙動の解析  本研究は、表面増強赤外吸収分光法(SEIRAS)と呼ばれる表面計測振動分光法をタンパク質の機能解析に応用し、タンパク質のもつ複雑な酵素反応機構の分子・原子レベルでの解明を目指します。具体的には、古細菌の光受容タンパクのマイクロバイアルロドプシン類を金属電極表面に高配向に吸着させ、電位印加下でその光応答反応の様子を時間分解SEIRASを用いて観測することにより、光応答シグナル伝達反応制御の仕組みを明らかにします。
生嶋 健司 東京農工大学工学部 准教授 テラヘルツ波の単一光子検出と近接場センシング  本研究では、半導体量子構造によるテラヘルツ波の単一光子検出機構を応用して、局所領域からのテラヘルツ放射を超高感度で検出・イメージングする技術を開発します。特に、対象物の自発的放射を検出するパッシブ型の近接場テラヘルツセンシングの実現を目指します。このテラヘルツ計測技術は、半導体ナノ構造の発光過程探索や少数分子系における化学反応分析、生きている細胞・生体高分子の活性状態の可視化など広範囲な応用が期待されます。
川村 稔 東京大学生産技術研究所 特任助教 抵抗検出型核磁気共鳴による電子スピン偏極測定法の開発  本研究では、従来とは異なる新しい核磁気共鳴法を用いて、これまで計測することができなかった界面の電子スピンを選択的に計測します。さらに、この核磁気共鳴法と走査型プローブを組み合わせることで、サブミクロンの空間分解能を有する走査型NMR顕微鏡を開発します。半導体界面の電子スピン偏極率および緩和時間の空間分布を測定し、スピン自由度に関連する界面特有の物理現象のメカニズム解明を目指します。
好田 誠 東北大学大学院工学研究科 助教 半導体へテロ界面のスピン軌道相互作用制御による電気的スピン生成・検出機能の創製  半導体ヘテロ界面のバンド不連続に起因したスピン軌道相互作用を積極的に活用し、磁場や強磁性体、偏光を必要としない半導体のみによる電気的スピン生成・検出機能を創製します。これまで未開拓であったスピン軌道相互作用の空間・時間変調を用いることによりスピンに依存した力やスピン流を誘起することが可能となります。半導体のみを用いるため既存の半導体プロセスと整合性が良く、将来性の高いスピン機能創製技術への展開も期待できます。
田中 裕行 大阪大学 産業科学研究所 助教 単一分子DNAのナノポアシークエンシング  ナノポアを利用した単一分子シークエンシングなどのセンシングデバイスの研究開発は、欧米を中心として世界的に注目されていますが、DNA分子がポアを一瞬で通過してしまうため、塩基配列を正確に読みとることが出来ませんでした。本研究ではまず、平面パッチクランプとプローブ顕微鏡を融合させたシステムを構築し、その応用の一つとして、DNAのポア通過をプローブ探針で制御し、単一分子シークエンシングを実現します。
塚崎 敦 東北大学 金属材料研究所 助教 酸化物界面への電気的・磁気的機能性の付加と制御  本研究では、酸化物を対象に原子レベルで急峻な界面を創成し、電気的・磁気的機能性の制御を目指します。酸化物は多様な構造と物性を有する物質群であり、酸化物界面においても界面磁性や高移動度2次元電子ガスなどが注目されています。機能性を制御するためには、界面での構造安定性を理解することが重要な課題となります。急峻な界面形成技術を構築し、さまざまな酸化物へと展開することで、新たな機能性の発現が期待されます。
野村 慎一郎 京都大学物質-細胞 統合システム拠点 特定研究員 高次構造制御による膜タンパク質機能発現リポソームの構築  膜タンパク質の生成と機能の制御は、すべての生き物にとって、細胞の内外の架け橋となる重要なものです。本研究では、細胞の「内⇔外」の物質/状態の架け橋である膜タンパク質に着目し、その機能が膜の模様や形によって制御できるかどうかを解明します。その結果、生きた細胞と物質や状態をやり取りする機能を持つような人工細胞モデルの構築を目的としています。
松崎 典弥 大阪大学大学院工学研究科 助教 ナノ構造制御薄膜を用いた細胞界面の制御による組織チップの創製  本研究では、ナノレベルで構造を制御した薄膜により細胞の界面構造と機能を制御する、細胞界面のナノ制御技術を開発します。さらに、この技術にインクジェット法を応用することで、生体組織を模倣したさまざまなマイクロ組織を一枚のチップに集約した、革新的な組織チップの創製を目指します。これにより、薬剤評価や創薬試験における組織応答評価の高度スクリーニング技術の創製が期待されます。
森 俊明 東京工業大学大学院生命理工学研究科 准教授 細胞膜表層上のナノ糖鎖の精密集積構造の構築  細胞膜表層上に提示されている糖鎖は毒素・ウイルスの認識・感染から細胞間の相互作用にわたる生命現象に重要な役割を果たしています。特に糖鎖のナノ集積構造に対する相互作用を理解することが重要です。本研究では糖鎖ナノ集積構造を精密に構築し、その界面での分子間相互作用メカニズムを解明することを目指します。将来的にはウィルス感染の阻害剤の開発、医用材料の創出など医療分野への貢献にもつながります。
山本 貴富喜 東京大学 生産技術研究所 助教 ナノ界面空間での電気二重層制御を利用した一分子電気インピーダンス計測法の創成  空間のサイズを小さくしていくと体積に対する表面積の割合が大きくなり、ナノメートル近くにもなると内部の物理が表面の状態に支配されるようになります。本研究では、分子1個の大きさに近いナノメートルサイズの流路に生ずるこうした極微小効果を利用して、生体分子を1分子ずつ流しながら、途中に組み込んだ電極を使って分子の動きを制御したり、1分子を測定する、1分子分析法の創成を目指します。
(五十音順に掲載)

<総評> 研究総括:川合 眞紀(東京大学大学院 新領域創成科学研究科 教授/(独)理化学研究所 川合表面化学研究室 主任研究員)

 界面の制御は、材料科学や生命科学のほとんど全ての先端分野で興味ある現象や機能発現に関わっています。ナノスケールレベルの界面の観測や分析手法の開発、およびそれによる知識の蓄積、界面のナノ構造制御技術などを背景とした独創的な着想をもつ研究を対象として選考を実施しました。
 本研究領域の募集に対し、国公私立大学、独立行政法人研究機関、国公立研究機関などの方々から計122件もの応募が有りました。応募内容は、生体高分子の単分子計測や界面電子スピン状態計測あるいはテラヘルツ波近接場イメージングなど高度な計測・分析手法の開発を主体とする研究、タンパク質単分子膜の動的挙動解析や酵素反応メカニズムの原子・分子レベルでの解明に関する研究、半導体や強相関電子系の界面物性研究など、多岐に渡り、界面科学の基本的な共通概念の構築に繋がる研究が提案されました。また、リポソーム脂質膜への膜タンパク質挿入による機能化や生体類似組織チップの開発に関する研究など、将来の医学への応用を目指した研究も提案されました。
 これらの応募課題を10名の領域アドバイザーが書面審査し、27件の面接対象課題を選考いたしました。その後の2日間にわたる面接で本年度は10件が採択課題に選ばれました。選考にあたっては、提案者自身のオリジナリティおよび、物質科学の新たなブレークスルーに繋がり得るかなどを重視して選考いたしました。面接に残るには約5倍、採択されるには約12倍の狭き門を通過しなければならないことになりました。今回採択されなかった課題の中には、面接に選ばれなかった課題を含めて多くの非常に興味深い提案課題があったことは申すまでもありません。
 本研究領域は、材料・生命科学の広範な研究分野を対象としておりますので、応募いただいた研究内容も多くの研究分野にまたがっております。この領域では、研究者個人の発想に基づく創造的な研究に重点を置いていますが、異分野の研究者間の交流を通じて新しい発見や発明が生まれることも多いと考えています。この領域が物質科学の新たなブレークスルーに繋がる役目を担えることを期待しています。