JSTトッププレス一覧科学技術振興機構報 第551号資料2 > 研究領域:「精神・神経疾患の分子病態理解に基づく診断・治療へ向けた新技術の創出」
資料2

平成20年度 戦略的創造研究推進事業(CREST・さきがけ)
新規採択研究代表者・研究者および研究課題概要(第2期)


【CREST】
戦略目標:「精神・神経疾患の診断・治療法開発に向けた高次脳機能解明によるイノベーション創出」
研究領域:「精神・神経疾患の分子病態理解に基づく診断・治療へ向けた新技術の創出」
研究総括:樋口 輝彦(国立精神・神経センター 総長)

氏名 所属機関 役職 研究課題名 研究課題概要
小野寺 宏 (独)国立病院機構西多賀病院 副院長 脊髄外傷および障害脳における神経回路構築による治療法の開発~インテリジェント・ナノ構造物と高磁場による神経機能再生~  急速に発展する幹細胞・iPS細胞技術を用いた脳脊髄疾患の移植医療に期待が集まっていますが、現行技術では阻害因子に邪魔されて移植細胞が神経線維を伸ばせず、病気で損なわれた機能を回復できません。そこで本研究では、脊髄外傷、パーキンソン病、脳卒中などの疾患を対象として、神経接着分子や栄養因子を結合したインテリジェント・ナノ磁性体を脳脊髄の目的部位に正確に配置し、それを足場に神経回路を再構築するという新しい治療技術の開発を目指します。
加藤 進昌 昭和大学医学部 教授 社会行動関連分子機構の解明に基づく自閉症の根本的治療法創出  自閉症の社会相互性の障害は、当事者の社会適応を妨げる最大要因といえるもので、この障害に直接有効な薬物療法は現在のところありませんが、自閉症をできるだけ早期に診断し、オキシトシンもしくは関連物質の早期投与により、社会相互性障害の根本的治療方法を確立することを目指します。そのために本研究では、末梢血および臍帯血中のオキシトシンほかの濃度や遺伝子の解析、動物実験、成人および幼児での臨床試験と脳画像解析を連携して行います。
小島 正己 (独)産業技術総合研究所 研究グループ長 BDNF機能障害仮説に基づいた難治性うつ病の診断・治療法の創出  抗うつ薬は脳由来神経栄養因子(BDNF)機能亢進作用により治療効果を示すと考えられていますが、抗うつ薬抵抗性を示す難治性うつ病の病態は不明です。本研究では、BDNFの前駆体から成熟体へのプロセッシング障害および分泌障害がうつ病の難治化を引き起こすと想定し、その仮説に基づいたうつ病の分子病態の解明、血中バイオマーカー検索と脳画像診断法などを用いた難治性うつ病の診断・治療法の創出を目指します。
祖父江 元 名古屋大学医学系研究科 教授 孤発性ALSのモデル動物作成を通じた分子標的治療開発  筋萎縮性側索硬化症(ALS)はその90%以上が孤発例ですが、病態の大部分は解明されておらず、根本治療は見出されていません。本研究では、これまでに孤発性ALS患者の病変組織で見出されてきた分子イベントを再現する動物モデルを開発し、運動ニューロン変性をもたらす分子病態およびそれを担う標的分子を明らかにします。そして、これらの病態関連分子を標的とする病態抑止治療法を開発して、その臨床応用を目指します。
(五十音順に掲載)

<総評> 研究総括:樋口 輝彦(国立精神・神経センター 総長)

 本研究の戦略目標は少子・高齢化社会あるいはストレス社会といわれるわが国において、社会的要請の強い精神・神経系の疾患の克服のために、脳科学の基礎的知見を活用して予防・診断・治療における新技術(イノベーション)の創出をめざすことにあります。具体的には、精神・神経疾患あるいは認知・情動と関係する遺伝子変異・多型、環境因子などを付与することによって、ヒトの脳機能変化を再現させた動物モデルを作成し、ヒトでは直接検証が困難な分子マーカーや機能マーカーを検証すること、あるいはこれら精神・神経疾患または認知・情動に関わる分子神経機構の生化学的評価法や非侵襲機能解析法を開発すること、あるいはヒトで見出されたマーカーを動物モデルで確認することにより、これらの疾患を診断・評価する技術を開発することなどが挙げられます。
 平成19年度は精神疾患領域からは「神経発達関連因子を標的とした統合失調症の分子病態解明」(研究代表者 貝淵 弘三)と「恐怖記憶制御の分子機構の理解に基づいたPTSDの根本的予防法・治療法の創出」(研究代表者 井ノ口 馨)の2課題を、また、神経疾患領域からは「アルツハイマー病根本治療薬創出のための総合的研究」(研究代表者 岩坪 威)と「パーキンソン病遺伝子ネットワーク解明と新規治療戦略」(研究代表者 高橋 良輔)の2課題を、さらに新技術に焦点をあてた「マウスを活用した精神疾患の中間表現型の解明」(研究代表者 宮川 剛)を加えて全体で5課題を採択しました。これら5課題は順調に研究を開始しています。平成20年度は2回目の公募を行い、基本的には19年度に採択された研究対象疾患を除く疾患を中心に課題の採択を行ないました。合計62課題の申請があり、これらの研究課題について領域アドバイザーの協力を得て書類選考を行い、そのうち13課題に対して面接選考を行いました。その結果、4課題を採択しましたが、その研究対象は気分障害、発達障害、筋萎縮性側策硬化症、神経回路構築による治療法の開発という多様な構成となり、新たなイノベーションの創出が期待できると思われます。
 来年度は課題採択の最終年度になりますが、これまでと同様に戦略目標の達成に向けた多様な研究提案を期待します。