戦略目標:「持続可能な社会に向けた温暖化抑制に関する革新的技術の創出」
研究領域:「二酸化炭素排出抑制に資する革新的技術の創出」
研究総括:安井 至(国際連合大学 名誉副学長/(独)科学技術振興機構 研究開発戦略センター 上席フェロー)
氏名 | 所属機関 | 役職 | 研究課題名 | 研究課題概要 |
内本 喜晴 | 京都大学大学院人間・環境学研究科 | 教授 | 低炭素社会のためのs-ブロック金属電池 | 風力発電・太陽電池など自然エネルギーの安定供給をはかるために、ポストリチウムイオン電池を指向した長寿命かつエネルギー密度の高い新しい電池を創出します。特にs-ブロック金属を負極とした電池を構築します。電極材料のナノサイズ化を行い、これらデバイスの中核をなす“イオン”と“電子”の反応場であるヘテロ界面場をナノレベルで制御し、高速にs-ブロック金属イオン移動反応が可能な電極/電解質ヘテロ接合を構築します。 |
河本 邦仁 | 名古屋大学大学院工学研究科 | 教授 | 高効率熱電変換材料・システムの開発 | 未利用エネルギーである廃熱を直接電気に変換することによりエネルギー利用効率を飛躍的に高め、化石燃料への依存度を低減することによって二酸化炭素の排出削減に貢献するために無害・無毒・資源豊富で安価な高効率熱電変換材料の開発を行い、これをデバイス化・システム化して廃熱回収・電力変換へ応用する道筋をつけます。 |
小島 克己 | 東京大学アジア生物資源環境研究センター | 教授 | 熱帯泥炭の保全と造林による木質バイオマス生産 | 不適切な開発によって二酸化炭素放出源となっている熱帯泥炭土壌について、湛水化による泥炭の保全と湛水耐性種の造林によって、再び吸収源に戻す現地実証試験を行います。さらに、生産された木質バイオマスのエネルギー用資源としての適合性、ほかの資源用としての応用の可能性などを検討します。最終目標は、泥炭保全や造林からバイオマスの最適利用までのトータルシステムを提示し、排出削減ポテンシャルを確認するとともに、その実行可能性を明らかにすることにあります。 |
冨重 圭一 | 筑波大学大学院数理物質科学研究科 | 准教授 | 触媒技術を活用する木質系バイオマス間接液化 | バイオマスを環境に優しい液体燃料などへ変換するプロセスは、バイオマスの付加価値向上を兼ね備えた再生可能資源の高度利用技術です。バイオマスの合成ガス(一酸化炭素と水素の混合ガス)への変換効率を劇的に向上する触媒と、通常多段階で製造するガソリン基材を合成ガスから一段で与える触媒を開発することで、コンパクトで高収率な革新的バイオマス変換プロセスの構築を目指します。 |
吉川 暹 | 京都大学エネルギー理工学研究所 | 教授 | 有機薄膜太陽電池の高効率化に関する研究 | 二酸化炭素排出削減に直結する軽量・安価なプラスチック太陽電池を開発します。そのため、セルの構成要素であるフラーレン誘導体、導電性高分子、色素超分子を新たに調製し、吸収波長領域を広げたタンデムセルを開発することにより、10%の効率を実現すると共に、分子構造と膜構造に関する光電変換の学理を究明します。 |
渡邉 信 | 筑波大学大学院生命環境科学研究科 | 教授 | オイル産生緑藻類Botryococcus(ボトリオコッカス)高アルカリ株の高度利用技術 | 光合成により、大気中のCO2を吸収し、利用価値の高い軽質油とほぼ同じオイル成分を純度高く、大量に産生する緑藻Botryococcus braunii(ボトリオコッカス)の高アルカリ性環境下生育株(当研究グループ発見株)を研究開発対象とし、そのオイル生産効率を一桁向上させることを目標とします。基礎、応用、工業化の各研究グループに培養試料を提供する培養センター並びに培養株の特性や新たな知見を統合する情報センターを構築して、オイル生産の最適培養条件の把握、高度な品種改良の実現、オイル生成物の効率的抽出法の開発と高度利用法の発見、屋外デモプラントの製作と実証データ取得を行い、オイル生産効率の一桁向上を実現します。また、並行して経済性を加味した大規模プラント設計を行い、将来の大規模プラント製作への道筋を作ります。 |
<総評> 研究総括:安井 至(国際連合大学 名誉副学長/(独)科学技術振興機構 研究開発戦略センター 上席フェロー)
本研究領域は、我が国が提案した2050年までに世界の温室効果ガスの排出を削減するという目標に向け、主に二酸化炭素の排出削減について、既存の抑制技術の2倍程度の効率を有する革新的技術の開発を目標として設定されました。例えば、再生可能エネルギーにおける画期的な性能向上を実現しうる技術、さらには、大気中の二酸化炭素の革新的な処理を可能とする技術、などの直接的、間接的二酸化炭素抑制技術を、新概念、新原理に立脚して創出することで低炭素社会の実現を目指す研究を対象とするものです。
応募件数53件を対象に書類選考を経て面接選考を15件について行い、今回6件の採択に至りました。
初年度は、エネルギー供給側の削減技術を主として取り上げるという方針での募集でしたので、太陽電池を中心とする自然エネルギー、バイオ燃料などを中心に多くの提案がなされました。加えて、二次電池といった供給側技術であると同時に、需要側の技術としても重要な課題への応募もありました。
本研究領域では、研究総括のほかに領域アドバイザーが10名でしたが、バイオ燃料関係の応募が予想を超えて多かったために、外部評価者2名のご協力をいただきました。
その結果、採択されました研究内容はバイオエネルギー系が2件、太陽電池が1件、二次電池が1件、熱帯地域の森林バイオマスが1件、熱電素子が1件となりました。バイオエネルギー系も、藻類関係が1件、触媒による間接液化が1件、といった分布になりました。本研究領域では、ある技術領域に集中するというよりは、技術バランスのとれたポートフォリオを得たいという大局観で課題の選定にあたっており、その意味ではバイオ関連の2+1件は数としては多いようにも見えましたが、分布を考慮すると妥当なものではないか、と判断しております。
繰り返しになりますが、エネルギー供給側の技術を優先的に採択するという方針ではありましたが、もしも可能であれば、エネルギー需要側の技術、例えば、高度な省エネ技術などを1件程度採択したいという審査員の合意がありましたが、必ずしも適切な応募課題が無かったように判断されました。また、排出された二酸化炭素の処理技術についても、魅力的な提案が無かったように思われます。
魅力的であるかどうか、これが何で決まっているかは主観的な問題でもあって、議論を行うのが困難な問題ではありますが、やはり、この領域全体に向けた広い視野があることと明確な目的意識とのバランスが良好であること、とでも言えるのではないか、と考えております。明らかに、自分の研究領域内部だけでの研究には高い評価はできないようです。人材の配置にも十分な工夫が必要だと思われます。
しかし、CREST研究の本来の姿は、代表者の強い指導力によって、チーム全体が一体となって運営されることであり、となると、指導者の広い視野とバランスが問われていることになるのかもしれません。次年度、次々年度の応募にあたって、ご注意をいただく点のようにも思えます。