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科学技術振興機構報 第531号

平成20年6月26日

東京都千代田区四番町5番地3
科学技術振興機構(JST)
Tel:03-5214-8404(広報課)
URL https://www.jst.go.jp

統合失調症検査技術の開発に成功――早期診断をサポート

 JST(理事長 北澤 宏一)はこのほど、独創的シーズ展開事業・委託開発の開発課題「統合失調症の検査キット」の開発結果を成功と認定しました。
 独創的シーズ展開事業・委託開発では、大学や公的研究機関などの研究成果で、特に開発リスクの高いものについて企業に開発費を支出して開発を委託し、実用化を図っています。(詳細情報https://www.jst.go.jp/itaku/
 本開発課題は、平成15年3月から平成20年3月にかけて株式会社エスアールエル(代表取締役社長 小川 眞史 本社・東京都立川市曙町2丁目41番19号、資本金112億7100万円)に委託して、企業化開発(開発費約3億3100万円)を進めていたものです。
 本新技術は、新潟大学教授 那波 宏之の研究成果をもとに、DNAマイクロアレイ注1)を用いて患者の血液から抽出した遺伝子を測定し、分類予測モデルで発現量の変動を解析することによって統合失調症の診断をサポートする手法です。統合失調症の治療では早期治療が重要とされていますが、生物学的マーカー注2)を用いた客観的な検査法がないため、早期診断を支援する方法が望まれていました。
 本開発では、DNAマイクロアレイを用いた約5万5000遺伝子の分析結果から統合失調症に関連して変動する10種類程度の遺伝子を抽出し、分類予測に優れたニューラルネットワーク注3)というアルゴリズムを活用した分類予測モデルを構築しました。専門医による統合失調症の早期診断を支援する技術として活用され、早期治療の実現によって患者の重症化回避や治癒率向上に貢献することが期待されます。

 本新技術の背景、内容、効果の詳細は次の通りです。

(背景) 統合失調症の診断を支援する技術が望まれていました。

 統合失調症は人口の約0.8%が発症している疾患で、慢性化すると通常の社会生活が営めなくなる場合があります。心理症候学的基準によって複数の病型に分類されますが、最終的な診断では専門医の経験に依存するところが大きいのが現状です。一方、統合失調症の治療では、早期治療の重要性が指摘されています。症状が慢性化する前に治療を行うため、生物学的マーカーを用いた客観的な検査法のような早期診断をサポートする方法が望まれていました。

(内容) 統合失調症と関連のある遺伝子の発現レベルを測定します。

 本新技術では、まず患者から血液を採取します。ここからmRNA注4)を抽出し、DNAマイクロアレイで統合失調症に関連した遺伝子の発現レベルを測定します(図1)。約5万5000遺伝子を解析したところ、統合失調症に関連して変動する10種類程度の生物学的マーカーと考えられる遺伝子が特定されました。これらの遺伝子の発現量の変動をニューラルネットワークというアルゴリズムで分析、構築した分類予測モデルは、統合失調症患者群の判別において真陽性率、真陰性率のいずれも高く、専門医による統合失調症診断を支援する技術として活用することができます。

(効果) 統合失調症の早期治療を実現する技術として期待されます。

 本開発で確立した生物学的マーカーは、統合失調症患者の診断における客観的な指標として利用することができます。専門医による統合失調症の早期診断を支援する技術として活用され、早期治療の実現によって患者の重症化回避や治癒率向上に貢献することが期待されます。

図1.測定方法
図2.測定例
開発を終了した課題の評価

<用語解説>

注1)DNAマイクロアレイ
 DNAプローブが固定された基板のことで、DNAチップとも呼ばれている。相同性のある遺伝子を結合させ、蛍光色素などを用いて検出する。

注2)生物学的マーカー
 特定の疾患や健康状態に対応して変動するたんぱく質や遺伝子のことで、バイオマーカーとも呼ばれている。身近なところでは、肝臓の状態を判断する生物学的マーカー:GOT、GPTが知られている。

注3)ニューラルネットワーク
 人間の脳に見られる特性をシミュレーションにより再現することを目指した、学習によって問題解決能力が向上する数学モデル。

注4)mRNA(メッセンジャーRNA)
 DNAが持つ遺伝子情報をコピーしたRNA。mRNAを鋳型としてたんぱく質が合成される。

<お問い合わせ先>

独立行政法人 科学技術振興機構 産学連携事業本部 開発部開発推進課
三原 真一(ミハラ シンイチ)、剱持 由起夫(ケンモチ ユキオ)
〒102-8666 東京都千代田区四番町5番地3
Tel:03-5214-8995 Fax:03-5214-8999

株式会社エスアールエル 経営企画部
瀧 修二(タキ シュウジ)、大友 康智(オオトモ ヤスノリ)
〒190-8567 東京都立川市曙町2丁目41番19号
Tel:042-526-7105 Fax:042-526-7170