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資料2

研究領域の概要及び研究総括の略歴

戦略的創造研究推進事業 (ERATO型研究)
平成19年度発足

五十嵐デザインインタフェースプロジェクト

五十嵐 健夫 氏
【研究総括】五十嵐 健夫 氏
(東京大学大学院情報理工学系研究科 准教授)
研究領域「デザインインタフェース」の概要
 現在使われている身の回りの道具の多くは、プロのデザイナーがデザインし、大量生産された商品であり、それらを消費することで我々の生活は成り立っています。しかし、人間にとって真に豊かな生活の実現のためには、このような限られた選択肢のなかからただ選んで消費するだけではなく、自らの感性と創造力によって何かを創り出し、それらを自己表現として発信していくことが必要だと思われます。
 本研究領域は、このような問題意識のもと、一般ユーザが種々のものを自ら手軽にデザインできる新たなユーザインタフェースの実現を目指し、その基盤となる計算手法や表現手法等の情報技術の研究を統合的に行うものです。
 個人の創造性を体現するために、3次元画像やアニメーション等の「映像表現」、鞄や衣服等の「生活用品」、将来、家庭において人間等との共生が期待される「ロボットの行動」を具体的なデザインの対象として、研究を実施します。
 これらのユーザインタフェースは、一般ユーザが容易に使いこなせることが重要であり、人が身振りなどで手本を示してロボットの動きを制御したり、今まではプロの手で作られてきたような高度なビジュアル表現を手軽に作れるようにするための、ユーザと計算機の間で情報をやりとりする新たな手法が求められます。このため、手指の動きや全身の動きを利用した操作手法、最適化法を用いた曲面生成計算を高速化して対話的な処理を行う方法などについて研究を行い、その実現を目指します。また、デザインされたアウトプットは実用的であり、人にやさしいものである必要があります。このため、「生活用品」についてはモデリング中に強度計算など実世界の制約を取り入れるための「デザイン支援に特化した高速シミュレーション」の研究、「ロボットの行動」については具体的な実例を示しながら実世界における行動を対話的にロボットに教示する方法の研究にそれぞれ取り組みます。本研究領域では、これら要素技術の研究成果の蓄積と「映像表現」、「生活用品」及び「ロボットの行動」における実証を通じ、デザインインタフェースという新たな科学技術分野の創出を目指します。
 本研究領域は、一般ユーザによる創造的活動を支援するという目標のもとで、ユーザインタフェース研究の立場からコンピューターグラフィックス・CAD(Computer Aided Design;コンピューター援用設計)・ロボティクスにおける新たな技術基盤の構築を目指すもので、戦略目標「メディア芸術の創造の高度化を支える先進的科学技術の創出」に資するものと期待されます。
誰もが創造力を発揮できる社会を目指す

研究総括 五十嵐 健夫 氏の略歴等
1.氏名(現職)
五十嵐 健夫(いがらし たけお)
(東京大学大学院情報理工学系研究科 准教授) 34歳
2.略歴
平成 7年 3月 東京大学工学部計数工学科 卒業
平成12年 3月 東京大学大学院工学系研究科博士課程修了 博士(工学)
「(論文題目)Freeform User Interfaces for Graphical Computing」
平成12年 6月 ブラウン大学博士研究員
平成14年 3月 東京大学大学院工学系研究科情報工学系研究科 講師
平成17年 8月 東京大学大学院工学系研究科情報工学系研究科 助教授・准教授
3.研究分野
ユーザインタフェース、コンピューターグラフィックス
4.学会活動等
Pacific Graphics 08 プログラムチェア
IEEE Computer Graphics and Applications, Special issue on sketching ゲストエディタ
Eurographics workshop on sketch-based interfaces and modeling 2005, プログラムチェア
その他、SIGGRAPH, UIST, CHI, Eurographics などプログラム委員多数
5.業績
 ユーザインタフェースおよびコンピューターグラフィックス分野において数多くの独創的な研究成果を発表し、当該分野の世界的な権威の一人として認められている。初期の研究ではペン入力を利用したインタラクション手法の開発に従事し、手書き図形の整形システムや電子ホワイトボードシステムのためのインタフェースを開発した。これらのシステムは、ペン入力の応用範囲を大きく広げるものとして高く評価されている。
 ユーザインタフェースとしては、この他に速度に応じた自動ズーミングの手法や、音声入力を利用したインタフェースの提案も行い、特に欧米において高い評価を得ている。コンピューターグラフィックスの分野では、手書きスケッチによって簡単に3次元形状を作成する手法を1999年に発表し、大きな反響を得た(ACM SIGGRAPH '99, 1999)。当該手法は、従来訓練を受けた熟練ユーザが時間をかけて作成するものであった3次元モデリングを初心者でも行えるようにしたものであり、コンピューターグラフィックスの概念を変える画期的な研究成果であるとして高い評価を得ている。また、実用性も高く、市販の家庭用ゲーム機用のゲームなどに製品化されている。その後、3次元グラフィクスを扱いやすくするための各種インタフェースの開発を行い、3次元キャラクターに衣服を着せる手法、どこを切断しても適切な断面が現れるような中身の詰まった3次元モデルの作成手法、手書スケッチによる植物のモデリング手法、3次元アニメーションを簡単に作成する手法などの開発を行ってきた。近年には、2次元形状を直感的に変形しアニメーションを簡単に作成することのできる手法を発表した。当該技術は市販の映像制作用ソフトの新機能として実用化されている。
 一連の研究は、ユーザインタフェースの新しい姿を提示するものであるとして内外から高く評価されており、専門分野であるコンピューターグラフィックス分野において、もっとも権威ある国際学会であるSIGGRAPHより最優秀若手科学者賞を受賞しているほか、広くコンピューターサイエンス分野全体に対して影響のある研究成果であるとしてIBM科学賞や若手科学者賞、片柳賞などを受賞している。
6.受賞等
平成10年 9月 Best paper: "Fluid Visualization for Spreadsheet Structures", IEEE Visual Languages '98
平成11年 8月 Impact paper: "Teddy: A Sketching Interface for 3D Freeform Design", ACM SIGGRAPH'99
平成14年10月 Best paper: "Clothing Manipulation", ACM UIST'02
平成15年 グッドデザイン賞 (Gマーク) 「ペン入力による電子カルテインタフェース」
平成16年 8月 日本IBM科学賞 「スケッチ入力によるユーザインタフェースに関する研究」
平成17年 9月 平成17年度科学技術分野の文部科学大臣表彰 若手科学者賞
平成18年 3月 Katayanagi Prize in Computer Science, Carnegie Mellon University and Tokyo University of Technology
平成18年 8月 The Significant New Researcher Award, ACM SIGGRAPH
「計算機分野における使いやすい3次元CG作成利用環境の研究」
平成19年 3月 CGアニメーションカンファレンス2007 国際CG論文大賞・最優秀論文賞"As-Rigid-As-Possible Shape Manipulation"