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科学技術振興機構報 第438号

平成19年10月31日

東京都千代田区四番町5番地3
科学技術振興機構(JST)
Tel:03(5214)-8404(広報・ポータル部 広報課)
URL https://www.jst.go.jp

セルフクリーニング機能ガラスの新しい製造技術開発に成功

(大面積窓ガラスを低コストで量産可能に)

 JST(理事長 北澤宏一)はこのほど、独創的シーズ展開事業・委託開発の開発課題「大面積プラズマ支援スパッタリング法による自浄性ガラスの製造技術」の開発結果を、成功と認定しました。
 本開発課題は、富山県立大学 名誉教授 石井成行らの研究成果を基に平成16年10月から平成19年3月にかけて、YKK AP株式会社(代表取締役社長 吉田忠裕、本社住所 東京都千代田区神田和泉町1番地、資本金 100億円)に委託して、企業化開発(開発費約209百万円)を進めていたものです。
 本新技術は、雨水による防汚やセルフクリーニング機能(自浄性)を持った建築用窓ガラスの製造技術に関するものです。建築分野では近年、酸化チタンが持つ「光触媒」作用、特に「親水性」を有する製品が開発され、建築用窓ガラスにおいても汚れを防ぐセルフクリーニング機能を有する製品ニーズが高まっています。
 光触媒層をガラス表面に形成する方法としては、現在はゾルゲル法注1)が主流ですが、この方法は結晶化するために加熱が必要で、大面積の場合コスト高になるという問題点がありました。
 一方、乾式プロセスの蒸着法などは、低速で成膜すれば加熱することなく光触媒活性を有する膜形成が可能ですが、コスト面での問題があります。このため、大面積のガラス基板上に光触媒活性を有する酸化チタン膜を形成する手法として、熱処理なしで高速に光触媒層が形成可能な、経済性に優れた連続製造(インライン製法)プロセスの開発が望まれていました。
 本開発により、酸化チタンの反応性スパッタリング注2)電子サイクロトロン共鳴(ECR)プラズマ注3)技術を組み合わせることで、セルフクリーニング機能を持った建築用窓ガラスを、基板を高温に後加熱することなく、連続的に製造することが可能となりました。
 本技術は、大面積基板の成膜プロセスに活用できるので、光触媒活性を利用したセルフクリーニング機能窓ガラスだけでなく、反射鏡や熱線反射ガラス、太陽電池や照明用の保護ガラスなどへ広範な利用が期待されます。

本技術の背景、内容、効果の詳細は次の通りです。

(背景) セルフクリーニング機能を有する大面積窓ガラスを経済的に製造する新規工程の開発が強く望まれていました。

 近年、光触媒作用で有機物分解性と親水性を付与させることによって、セルフクリーニング機能や殺菌効果を持つ建築外装用タイルや外装用アルミパネルが市場に導入されています。これらの製品の多くは、ウエットプロセス(主にゾルゲル法)で機能性膜を製品表面に形成しているものです。
 市場要求の高い大面積のセルフクリーニング機能窓ガラスに関しては、上記ウエットプロセスは製造コストの面から好ましくなく、ドライスパッタリング方式はガラス基板を高温で加熱しなければ機能性膜の形成は困難という問題がありました。
 この問題を根本的に解決する方法として、スパッタリングシステムに加えて、研究者が開発した特殊プラズマ装置を用いることで、基板を高温に加熱することなしに、機能性膜を形成するプロセス(図1)を検討しました。

(内容) 大面積窓ガラスの表面特性をドライプロセスで向上させる新しい製造手法を検討しました。

 本新技術は、建築物の外観保持を目的としたセルフクリーニング機能を持つ大面積窓ガラス(図2)の新規製造技術に関するものです。詳しくは、ガラス表面を長時間にわたり親水化させて、表面に付着した汚れを雨水で分解・洗浄することを可能にしたセルフクリーニング機能ガラスを、インライン製法による大面積窓ガラス製造のプロセス開発を目的としています。
 従来のスパッタリングプロセスではガラス基板近傍のプラズマ電子密度が低いため、結晶化した酸化チタン膜を得るには、加熱などで成膜分子の運動エネルギーを高める必要がありました。
 本開発では、大型のマグネトロンスパッタリングラインを用い、スパッタ処理後プラズマを用いて酸化チタン表面の改質を図る新規プロセスを検討しました。
 大面積処理の場合、ガラス表面へのプラズマ処理の均一性がポイントとなりますが、研究者が今回開発した電子サイクロトロン共鳴(ECR)プラズマ装置を活用することで、広範囲で均一なプラズマ処理が可能となり、新規プロセスの開発に成功しました。

(効果) 大面積のセルフクリーニング機能付窓ガラスが安定的かつ経済的に製造できます。

 本技術は高密度プラズマを有効活用することにより、安価で耐久性に優れた大面積セルフクリーニング機能ガラスの工業生産を可能としました。また、本技術による材料の表面改質は板状製品であれば広範囲に適用可能であり、多くの用途で新商品製造が期待できます。
 さらに、本プロセスは高温の加熱を必要としないことを特徴としており、高温処理が不可能な樹脂製品の高機能性付加への展開も期待されます。

図1 ECRプラズマ支援スパッタリング技術の概要
図2 セルフクリーング機能ガラス社内設置例
開発を終了した課題の評価

<用語解説>

注1)ゾルゲル法:
金属の有機化合物溶液を出発原料として、溶液中の化合物の加水分解・重合によって溶液を金属の酸化物あるいは、水酸化物微粒子が溶解したゾルを作ります。次いで、本ゾルの反応を進ませて形成させた非晶質である多孔質ゲルを加熱し、目的とする結晶体を作る方法です。

注2)スパッタリング:
真空中でカソード材料に活性化させたアルゴンを衝突させ、飛び出してきたカソード材料を堆積させる成膜方法です。アルゴンに酸素などを加えれば、金属酸化物の成膜もできます。

注3)電子サイクロトロン共鳴(ECR)プラズマ:
2.45GHzマイクロ波を磁場に入射する場合875Gの磁場内で共鳴します。さらに磁場を閉鎖することにより、プラズマ電子は磁場内で衝突電離を繰り返すため。高密度プラズマを安定に発生できます。このようにして得られたプラズマがECRプラズマです。

<お問い合わせ先>

YKK AP株式会社 広報グループ
〒101-8642 東京都千代田区神田和泉町1番地
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Tel:03-3864-2321 Fax:03-3864-2290

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