JSTトッププレス一覧科学技術振興機構報 第426号(資料2) > 研究領域 「ディペンダブルVLSIシステムの基盤技術」
(資料2)

平成19年度 戦略的創造研究推進事業(CRESTタイプ)
新規採択研究代表者および研究課題概要


11 戦略目標 「高信頼・高安全を保証する大規模集積システムの基盤技術の構築」
研究領域 「ディペンダブルVLSIシステムの基盤技術」
研究総括 浅井 彰二郎 (株式会社リガク 取締役副社長)

氏名 所属機関 役職 研究課題名 研究課題概要
小野寺 秀俊 京都大学大学院情報学研究科 教授 ロバストファブリックを用いたディペンダブルVLSIプラットフォーム デバイスの極限的微細化に伴う製造性の劣化、特性ばらつきの増加、経年劣化、ソフトエラーなどの克服を目指して、ばらつきに強靭なロバストファブリックを構成要素とし、高信頼化構造の実現や劣化部分の自己修復が可能な再構成可能VLSIプラットフォームについて研究します。本プラットフォームにより、衛星利用からコンシューマ用途まで、様々なディペンダビリティを持つ組み込みシステムが実現できることを示します。
坂井 修一 東京大学大学院情報理工学系研究科 教授 アーキテクチャと形式的検証の協調による超ディペンダブルVLSI 情報社会の中心部品であるVLSIを正しく設計し、無故障にする技術を目指し、回路設計技術からアーキテクチャまでを総合的に研究開発します。具体的には、形式的検証手法の新規開発、フィールドプログラマブルな回路の導入、タイミング故障の動的防止回路の導入などによって、VLSIの信頼性を飛躍的に向上させます。研究成果は、設計支援ツール群や新回路・新アーキテクチャとして産業界に還元し、半導体・家電・自動車・航空・宇宙などにおける日本の産業競争力を強化するための技術的基盤を創ります。
坪内 和夫 東北大学電気通信研究所 教授 ディペンダブルワイヤレスシステム・デバイスの開発 広域・超高速ワイヤレスアクセスを実現するために、複数の無線通信システムを統合し、伝送距離・通信速度・消費電力・QoS の最適制御を行うディペンダブル Wireless NGN LSI の実現を目指します。周波数領域等化補償の適用などにより低 BER を実現するブロードバンド・オールシリコン Mixed Signal CMOS チップセット開発を行います。高速移動と超高速通信速度を両立する無線端末の実現に寄与します。
安浦 寛人 九州大学大学院システム情報科学研究院 教授 統合的高信頼化設計のためのモデル化と検出・訂正・回復技術 ディジタルVLSIのディペンダビリティを確保するためのシステム・RTレベルにおける設計フローの確立を目指します。種々のエラーのモデル化とディペンダビリティの評価指標を定義し、指標の評価技術、ディペンダビリティを向上させる設計技術を開発します。これらの成果をツール化し、既存の設計フローに組込んで、コスト・性能・消費電力とディペンダビリティのトレードオフを考えた設計ができるフローのプロトタイプを構築します。
(五十音順に掲載)

<総評> 研究総括:浅井 彰二郎 (株式会社リガク 取締役副社長)

研究領域の目的と運営方針

 私達の生活は、情報システムへの依存の度合を年々増しており、その信頼性・安全性の確保はきわめて重要な社会的課題になっています。VLSIは、膨大な数の回路素子を集積した情報システムのエンジンであり、信頼性・安全性の面でもコア技術となるものです。そこで本研究領域では、VLSIシステムの高信頼・高安全性を保証するための基盤技術の研究開発を対象としています。
 本研究領域は、VLSIを適用したシステムのユーザの視点から見て、ディペンダビリティ指標の改善を明確に認識できる、実際に利用可能な成果物の提供を念頭に運営する考えです。成果物としては、(1)チップアーキテクチャ・回路・素子、(2)発明・考案、試作品・プロトタイプ、応用評価結果、(3)設計・検証・検査・評価に用いるソフトウェア、などその有用性、革新性が世界的に評価されるもの、を考えています。

平成19年度応募状況

 本年度は、8件の応募がありました。有力な大学や研究所から、本研究領域の課題を異なる角度から見た多様な提案が寄せられました。すなわち、VLSIの内部階層に関しては、素子(物理)、回路(電気)、アーキテクチャ(構造)、アプリケーション(応用)の各階層に光があてられていました。VLSIの製品ライフを見ると、設計、製造、試験、フィールド使用の各プロセスに問題が提起されていました。
 8件の応募の中から、真にCRESTの研究課題としてふさわしい研究提案のみを採択すべく、各研究提案内容を最大限吟味するため、研究提案募集〆切後ただちに領域アドバイザーの方々にも全提案をご一読いただきました。その上で、全研究提案者に対し平等に各研究提案内容の精査に必要な情報の確認のための質疑の応答を行い、選考に臨みました。

書類選考と面接選考

 書類選考において、8件のうち1件は、若いフェーズの研究であるため、実用性の高いVLSIを対象にした本研究領域の範疇に含めることが難しい、別の1件は提案前の事前調査・検討をさらに重ねていただく必要があると判断されました。その結果、8件のうち6件を面接選考に付することに決定しました。合わせて、6名の提案者には、面接通知に付してさらに個別のコメント、質問事項をお返しすることにより、各研究提案を精査すべく対話を重ねるよう工夫しました。このようなプロセスを経て、面接対象研究課題の内容を最大限吟味できる体制を整え面接選考を実施しました。
 面接選考では、他の研究費の受給状況、研究予算の内容にわたっても質疑、審査しました。その結果、6件の提案のうち4件を採択、2件を不採択としました。採択の基準は、募集要項94~95ページに記載のとおりであり、上記に述べた研究領域の目的と運営方針にもおおむね集約されています。
 採択されたテーマの研究者と、研究総括・領域アドバイザーは、バーチャル・インスティテュートをつくって効果的に本領域を運営し、VLSIメーカーやVLSIを用いるシステム・ユーザの参画もできるだけ推進して、期間中にも新規な設計検証ツール、新規な回路やアーキテクチャといった成果をもたらしたいと望んでいます。
 そのためにも、採択された研究課題の初年度の研究推進においては、ディペンダビリティの問題の実態の把握と、これに対処する具体的な方法、ならびに研究の成果物、成果の想定出口などを、さらに煮詰めていただくことを期待しています。課題の掘り下げ・最重要問題の抽出把握と、問題解決法の具体化・アイデア発案を、研究開始時に十分にやっておく(フロント・ローディング、または早期装荷と呼びます)ことは、限られた研究期間中に優れた成果を得る良策であるためです。VLSIは既に相当成熟した技術領域であるだけに、フロント・ローディングはいっそう重要です。
 なお、面接選考にて不採択とした2件についても、研究としての着眼点のユニークさや、実現できた場合の効果に期待できるものがありましたが、今回は不採択としました。ただし、これらについては、来年度の再提案に向けて検討を深めることをお願いすることにしました。