JSTトッププレス一覧科学技術振興機構報 第426号(資料2) > 研究領域 「生命システムの動作原理と基盤技術」
(資料2)

平成19年度 戦略的創造研究推進事業(CRESTタイプ)
新規採択研究代表者および研究課題概要


6 戦略目標 「生命システムの動作原理の解明と活用のための基盤技術の創出」
研究領域 「生命システムの動作原理と基盤技術」
研究総括 中西 重忠(財団法人大阪バイオサイエンス研究所 所長)

氏名 所属機関 役職 研究課題名 研究課題概要
上田 昌宏 大阪大学大学院生命機能研究科 特任教授 細胞における確率的分子情報処理のゆらぎ解析 近年の細胞内1分子計測法の進展により、細胞内部の分子情報処理システムは、分子運動の無秩序さや反応の確率性に起因する「ノイズ」を内包し、それを機能発現へとむすびつけることによって柔軟でダイナミックなシステムを作り上げている姿が見えてきました。本研究では、「ノイズ」の生成・処理・伝搬に着目した1分子レベルの精密計測と数理モデルの構築を通して、分子情報処理システムの確率的演算原理の解明を目指します。
近藤 孝男 名古屋大学大学院理学研究科 教授 シアノバクテリアの概日システム 生物時計は生命が地球上で効率良く生活するための基本的メカニズムです。今までに、シアノバクテリアの3つのKai蛋白質とATPを試験管内で混ぜるだけで安定した24時間のリズムを発生させることに成功しています。本研究では、蛋白質が正確な時を刻むメカニズムを解明します。次に、この振子が細胞の中でどのようにシステムを構成し、生物時計としての機能を果たしているかを解明します。
塩見 美喜子 徳島大学ゲノム機能研究センター 准教授 RNAサイレンシングが司る遺伝子情報制御 小さなRNAが引き起こす遺伝子発現抑制現象をRNAサイレンシングと称します。RNAサイレンシングは、発生、器官形成、代謝などに必須な遺伝子の発現を制御することによって、あるいはトランスポゾンやウイルスの侵入からゲノムを守ることによって、生命維持や種の保存を確固とします。本研究では、小さなRNAによる、生命活動の基盤となる遺伝子制御プログラムを理解することで、生命の分子設計図の解明に寄与することを目指します。
中山 敬一 九州大学生体防御医学研究所 教授 ユビキチンシステムの網羅的解析基盤の創出 ユビキチンシステムは多くの重要な生命現象を調節しており、1000種類以上の酵素が関わっています。しかし、その酵素と標的タンパク質との対応関係はあまり解明されておらず、ユビキチンシステムを網羅的に解析する技術の開発が求められています。本研究は、遺伝学とプロテオミクスを組み合わせた新しい方法論を開発することによって、システムとしてのユビキチン化を理解し、多くの生命現象を分子論的に解明することを目指します。
(五十音順に掲載)

<総評> 研究総括:中西 重忠(財団法人大阪バイオサイエンス研究所 所長)

 「生命とは何か」の謎に、近年、細胞の中の物理・化学反応と捉え、生物、化学系科学者は、その答えを種々の生物、細胞、生体分子を対象として、生命現象の普遍性を探り、他方、情報系科学者は、その答えをシステム工学から生命システムの共通原理を探求してきました。
 昨年度より発足した本研究領域は、その答えの一助となる「生命システムの動作原理」の解明を目指して、新しい視点に立った解析基盤技術を創出し、生体の多様な機能分子の相互作用と作用機序を統合的に解析して、動的な生体情報の発現における基本原理の理解を目指す研究を取り上げてきました。近年の飛躍的に解析が進んだ遺伝情報や機能分子の集合体の理解をもとに、細胞内、細胞間、個体レベルの情報ネットワークの機能発現の機構解明、さらには、生体情報の発現の数理モデル化や新しい解析技術の開発などの基盤技術の創成など、生命システムの統合的な理解をはかる上で重要な研究を対象としております。
 本年度も、本領域の公募に対し、チーム型研究(CREST)では97件、個人型研究(さきがけ)では257件、総数354件と昨年と同様に、非常に多くの研究者からの応募がありました。多くの研究者が本領域を次世代の重要な研究領域として注目している証であると考えています。
 応募課題は、いずれも、第一線で活躍されている優秀な研究者の提案で、生体をシステムとして捉え、その動作原理を解明しようとする意欲的な内容が多く、また、基盤技術においても独創性の高いものが数多くありました。これらの研究提案を10名の領域アドバイザーの協力を得て、厳正に書類選考を行い、チーム型研究(CREST)では、特に優れた研究課題9件に対して面接選考を行いました。最終的には、4件(内女性研究者1名)を採択致しました。審査に当たっては、応募課題の利害関係者の審査への関与や、他制度の助成金等との関係も留意し、公平・厳正に行いました。
 書類及び面接選考に際しては、昨年と同様に、研究の構想、計画性、課題への取り組みなどの観点のほか、国際的な視野やオリジナリティーを重視致しました。特にチーム型研究(CREST)では、新分野を切り開く独創性に基づく動作原理の理論と研究(共同)体制基盤を重視しました。
 チーム型研究(CREST)では、想定を超える多くの優秀な提案を考慮し、昨年度5件、今年度4件と、合計9件の課題を採択致しましたが、本研究領域を推進する者として、個人型研究(さきがけ)を含めて掌握できる限度に達したと判断し、チーム型研究(CREST)については、今年度で新規採択を終了することに致しました。
 生命システムの動作原理の解明を目指した研究は、わが国の生命科学研究に新しい視点から取り組むもので、極めて緊急かつ重要な課題と認識しています。当然、産業面からも新しい基本原理や基盤技術を創薬開発やバイオエンジニアリングに繋げることが期待されています。是非、今後も類似の研究領域が発足し、新しい総括の下、チーム型研究(CREST)が継続的に推進されますことを願っております。