JSTトッププレス一覧科学技術振興機構報 第426号(資料2) > 研究領域 「新機能創成に向けた光・光量子科学技術」
(資料2)

平成19年度 戦略的創造研究推進事業(CRESTタイプ)
新規採択研究代表者および研究課題概要


5 戦略目標 「光の究極的及び局所的制御とその応用」
研究領域 「新機能創成に向けた光・光量子科学技術」
研究総括 伊澤 達夫(NTTエレクトロニクス株式会社 特別顧問)

氏名 所属機関 役職 研究課題名 研究課題概要
太田 淳 奈良先端科学技術大学院大学物質創成科学研究科 教授 バイオメディカルフォトニックLSIの創成 フォトニクス技術とLSI(大規模集積回路)技術を融合し、バイオ・医療への適用を可能とする新しいバイオメディカルフォトニックデバイスの創成を目指します。光デバイス、バイオ、脳神経外科の各研究者の共同により、光の特徴を最大限に活かしたフォトニックLSIデバイスの新たな可能性を示し、脳科学分野への展開、パーキンソン病やてんかんなど脳の機能的疾患への臨床応用開拓までを見据えた研究を推進します。
門脇 和男 筑波大学大学院・数理物質科学研究科 教授 超伝導による連続THz波の発振と応用 高温超伝導体は、超伝導を担うCuO2層からなる原子レベルのジョセフソン接合を内包しており、それらが多数積層し結晶を形成している。この結晶内のジョセフソン接合すべてに同期したジョセフソンプラズマを励起することで、連続でコヒーレント、かつ強力な単色レーザー光の発振にごく最近、成功しました。この発振現象の物理的な機構を解明し、更に強力なTHz波を得るための技術開発を行います。また、このTHz波を用いて物質の分光も行います。
橋本 秀樹 大阪市立大学大学院理学研究科 教授 光合成初期反応のナノ空間光機能制御 構造を改変した光合成色素蛋白超分子複合体を、ナノ空間において自在に配列させた、人工光合成膜試料を作成し、超高速時間分解コヒーレント分光および時間分解顕微分光を用いた励起エネルギー移動の実時間計測と広い周波数領域でのフォノン物性の測定を行い、統括的な励起エネルギー移動メカニズムの解明及びデバイスとしての利用指針を確定することで、21世紀をリードするバイオナノテクノロジーの基盤技術形成を促進します。
平山 秀樹 独立行政法人理化学研究所テラヘルツ量子素子研究チーム チームリーダー 230-350nm帯InAlGaN系深紫外高効率発光デバイスの研究 波長が230-350nm帯の深紫外高輝度LED・深紫外半導体レーザーは、医療、殺菌・浄水、生化学産業、高演色LED照明、高密度光記録、公害物質の高速浄化、各種情報センシング等の幅広い分野への応用が考えられ、その実現が大変期待されています。本研究では深紫外発光素子実現のため、窒化物InAlGaN系半導体の結晶成長技術を開拓し、230-350nm帯深紫外高効率LED、半導体レーザーを実現します。
宮永 憲明 大阪大学レーザーエネルギー学研究センター 教授 アダプティブパワーフォトニクスの基盤技術 高出力超短パルスレーザー光がもつ潜在能力を極限まで引き出すことにより、レーザー光と物質との相互作用を多様かつ高精度に制御することが可能となります。そのために、独自の技術を用いて出力30TW以上の数サイクルレーザーを開発し、世界的に競争力のある基幹装置として利用研究に供しながら、時間的・空間的位相・偏光制御技術を取り入れていきます。アダプティブな制御機能を有するパワーフォトニクスのシステム化技術をまとめ上げ、光科学におけるイノベーションに資することを目指します。
(五十音順に掲載)

<総評> 研究総括:伊澤 達夫(NTTエレクトロニクス株式会社 特別顧問)

 光・光量子科学技術はレーザーの出現によって学問的に大きく進展しただけでなく、通信やファイル記憶、表示など産業技術としても発展し、日常生活に幅広く浸透しております。このような技術だけでなく、光・光量子科学技術は、医療、環境、計測などさらに幅広い分野で発展の可能性を秘めております。また、微細加工技術や材料技術の発展に伴い、光に関係する新しい現象、物性の解明や光による物質の制御など科学としての発展も期待されます。
 これまでの光科学技術進展の中で、世界をリードする新しい発想がわが国からも数多く出されてきましたが、エレクトロニクス産業の停滞に伴い近年研究開発力が幾分低迷していることは、多くの人が憂いていたところです。このような状況の中で、光・光量子科学技術の更なる発展を目指した研究領域が平成17年度より立ち上げられたことは、光関係研究者にとって強力な支援であり励みともなります。本研究領域では、基礎科学から産業技術にわたる広範な科学技術の基盤である光学および量子光学に関して独創的な研究を発掘し、世界をリードする次世代基盤技術を継続的に開拓しようとするものです。
 今年度は32件の応募があり、11名の領域アドバイザーと共に書類審査を行い、11件の提案について面接審査を経て、最終的には5件の提案を採択いたしました。採択テーマは、バイオメディカル用フォトニックLSIの開発と応用、高温超伝導ジョセフソンジャンクションによるTHz波の発振、光合成初期反応の解明と制御、InAlGaN 系深紫外高効率発光デバイスの開発、パワーレーザの空間・時間特性制御で、いずれも十分実績のある研究者からの極めて質の高い提案でした。
 不採択とした提案の中にも多くの優れた意欲的・独創的提案がありましたが、幅広い研究分野から多くの応募をいただきましたので審査は困難な作業を迫られました。相対的評価で落とさざるを得ない、興味深い提案であるが実現可能性について説得力に欠けるなどの理由で不採択とした提案の中にも極めて質の高いものもありました。
 本領域では3年間で合計138件の応募を頂き16件の提案を採択し、募集は本年度で終了いたしますが、今後5年間にわたって研究が続けられます。 研究内容は代表者らによって論文、特許などの形で公開されますが、研究の節目にシンポジュームなどにより、その成果をまとめて公開してゆく予定です。