JSTトッププレス一覧科学技術振興機構報 第426号(資料2) > 研究領域 「代謝調節機構解析に基づく細胞機能制御基盤技術」
(資料2)

平成19年度 戦略的創造研究推進事業(CRESTタイプ)
新規採択研究代表者および研究課題概要


4 戦略目標 「代謝調節機構解析に基づく細胞機能制御に関する基盤技術の創出」
研究領域 「代謝調節機構解析に基づく細胞機能制御基盤技術」
研究総括 鈴木 紘一(東レ株式会社先端融合研究所 専任理事/所長)

氏名 所属機関 役職 研究課題名 研究課題概要
岩井 一宏 大阪市立大学大学院医学研究科 教授 鉄および鉄補欠分子族の動態調節とその破綻による病態 鉄は必須の栄養素であると同時に毒性を持っているため、その動態異常は種々の病態と関わっています。鉄は多くの場合ヘムなどの鉄補欠分子族の形で働きます。これまで、細胞が鉄補欠分子族を介して鉄代謝を調節することや鉄と病態に関する新しい知見が見出されてきましたが、本研究ではメタボローム解析などの手法を用いて、鉄代謝異常が関与する疾患の新規治療法の基礎や疲労の科学的評価法を開発します。
清野 進 神戸大学大学院医学系研究科 教授 糖代謝恒常性を維持する細胞機能の制御機構 糖代謝は生命維持に不可欠な生体反応であり、膵臓ランゲルハンス島(膵島)は糖代謝の恒常性を維持する最も重要な器官ですが、その働きが低下すると糖尿病が引き起こされます。本研究では、糖尿病などの糖代謝異常の原因究明だけでなく新たな診断法や治療法の開発に貢献することを目指し、膵島の包括的なメタボローム解析から、膵島機能がどのように制御されているかを明らかにします。
平井 優美 独立行政法人理化学研究所植物科学研究センター ユニットリーダー 植物アミノ酸代謝のオミクス統合解析による解明 近年の急速な技術進歩により可能となりつつある網羅的メタボローム解析は、代謝制御機構の解明に必須となる膨大な情報が得られますが、そのデータから体系的な生物学的知見を獲得するための方法論は未確立です。本研究では、シロイヌナズナ遺伝子破壊株ライブラリーについて包括的にメタボローム解析を行い、同時に取得する転写産物プロファイルなどのデータをパラメータに用いた新規数理モデルを構築し、植物のアミノ酸代謝制御を予測します。
三浦 正幸 東京大学大学院薬学系研究科 教授 個体における細胞ストレス応答代謝産物の遺伝生化学的解明 人間の体は個体発生から成長・老化過程まで栄養飢餓、感染や傷害といった様々なストレスにさらされています。本研究は、カスパーゼの活性化をストレス応答の中心に据え、その生体反応を指標にすることによって、細胞がストレスによって放出する代謝産物の実態と、カスパーゼ活性化細胞が産生する代謝産物を遺伝生化学的に解明し、生体における細胞ストレス応答・恒常性の維持機構をこれまでにない視点から解明します。
(五十音順に掲載)

<総評> 研究総括:鈴木 紘一(東レ株式会社先端融合研究所 専任理事/所長)

 本研究領域ではトランスクリプトーム、プロテオームに続く第三の網羅的研究として注目されているメタボローム解析の技術基盤の確立と、それを利用した細胞機能を制御する技術開発を目指しています。メタボロームの技術開発は基礎研究だけではなく、医薬を始め多方面の応用研究で革新的な成果の創出に繋がるものとして大きな期待を集めています。しかし、メタボローム研究は欧米でも研究が始まったばかりで、本研究の推進は、我が国のバイオ研究の優位性を確保するためにも極めて緊急かつ重要な課題です。
 本年度は課題公募の最終年でしたが、本研究領域への応募課題数は昨年とほぼ同数の49件でした。昨年同様、応募課題には網羅的代謝研究に正面から取り組むものは少なく、「代謝産物の網羅的な研究」がまだ初期の段階にあることと対応していると思われます。しかし、応募課題全般のレベルは非常に高く、どのような視点で評価するかによって審査結果が変わるので、選考には大変苦労しました。審査に当たっては、メタボロームに正面から取り組む点に留意し、独創性・発展性、実行可能性、期待されるインパクトの大きさ等をも考慮しました。また、利害関係者が審査に関与しないよう十分注意し、公平・厳正な審査を心がけました。
 様々な分野をカバーする12名の領域アドバイザーの協力を得て49件の課題の書面審査を行って17課題をまず選抜しました。書面審査で選んだ17課題の研究提案書を全アドバイザーが再度査読し、この再査読結果をもとに絞った9課題について面接選考を行いました。面接選考会でのヒアリング結果や研究費の過度の集中等をも考慮し最終的に4課題を選定、採択しました。
 採択された4課題は、植物におけるアミノ酸代謝の網羅的な研究、鉄代謝と疾患の研究、膵島細胞における糖代謝機能制御の解析、細胞のストレス応答に関する研究で、いずれもメタボローム解析手法を研究の中心に取り入れた独創性に富むハイレベルの研究で、インパクトのある大きな成果が得られるものと期待しています。
 本年度の採択課題を含め、最終的に本研究領域では合計15件の課題を採択しました。網羅的な代謝産物の解析を目指す課題は少ないものの、メタボローム解析という新規な切り口の解析手法を武器にした研究で、基礎研究、応用研究の両面で発展性、応用性に富む大きな成果につながることを期待しています。