JSTトッププレス一覧科学技術振興機構報 第426号(資料2) > 研究領域 「情報システムの超低消費電力化を目指した技術革新と統合化技術」
(資料2)

平成19年度 戦略的創造研究推進事業(CRESTタイプ)
新規採択研究代表者および研究課題概要


2 戦略目標 「通信・演算情報量の爆発的増大に備える超低消費電力技術の創出」
研究領域 「情報システムの超低消費電力化を目指した技術革新と統合化技術」
研究総括 南谷 崇(東京大学先端科学技術研究センター 教授)

氏名 所属機関 役職 研究課題名 研究課題概要
市川 晴久 電気通信大学電気通信学部 教授 環境知能実現を目指す超低消費電力化統合システムの研究開発 超低消費電力化(ULP)技術の戦略具体化を狙いとし、実世界の事象をリアルタイムに認識、情報化する環境知能空間のユビキタスな実現を目指す研究開発を実施します。環境知能ワイヤレス端末の遍在に必要なULP技術を研究開発し、他のULP技術やポストIPを目指すユビキタスネットワーク技術と連携、統合し、さらには公開実験を行い、豊かな生活空間実現と産業技術競争力強化の戦略を提示し、その実現性を示します。
西川 博昭 筑波大学大学院システム情報工学研究科 教授 超低消費電力化データ駆動ネットワーキングシステム 本研究は、今後のネットワーキング環境を、現在の100分の1から1000分の1の超低消費電力により実現できるデータ駆動ネットワーキングシステムの開発を目的としています。本研究では、自己同期型エラスティックパイプラインによるデータ駆動チップマルチプロセッサを用いたプラットフォームとアドホックネットワーク技術に基づくネットワーキング方式を、受動的なデータ駆動原理を徹底して実現し、低消費電力化を図ります。
前田 龍太郎 独立行政法人産業技術総合研究所先進製造プロセス研究部門 主幹研究員 ULPユビキタスセンサのITシステム電力最適化制御への応用 IT機器の普及に伴い、家庭やオフィス、サーバーを管理するデータセンタの消費電力が爆発的に増加しています。本提案では超低消費電力ユビキタスセンサを開発することにより、IT機器の消費電力の測定・可視化を図ります。この指標をもとに、消費電力を最適化するデータセンタ運用管理システムを開発します。さらに省エネ型IT機器の効果検証、エアコン等の機器冷却システムを含むIT機器の消費電力最適化の社会実験を通じて、情報システムの低消費電力化技術を確立します。
松岡 聡 東京工業大学学術国際情報センター 教授 ULP-HPC:次世代テクノロジのモデル化・最適化による超低消費電力ハイパフォーマンスコンピューティング HPC(高性能計算)の重要性は強く認識されていますが、処理能力の向上と引換えの電力消費の急速な増大が危機的状況です。本研究では10年後にHPCの性能電力効率を現状の1000倍とする目標を掲げるULP-HPC(Ultra Low Power HPC)を提案し、(1)数理的な新手法に基づいた性能モデル・省電力の自律自動最適化(チューニング)技法を (2) 超マルチコア・ベクトルアクセラレータ・次世代省電力メモリ・省電力高性能ネットワーク等のハードウェア基盤、仮想機械やスケジュラなどのソフトウェア基盤・冷却や電源などの設備基盤などを融合的に活用する、新しいHPC向けの超省電力化基盤の開発を行い、(3)我国No.1スパコンの東工大TSUBAME(100 TFlops級)上に (2)の要素を研究基盤として追加し、 (4) 実際の大規模HPCアプリケーションをベースに超省電力向けアルゴリズムを開発し、上記の目標を達成します。これで10年後にはTSUBAMEがデスクサイドPC級になり、大いに科学技術の発展に貢献します。
(五十音順に掲載)

<総評> 研究総括:南谷 崇(東京大学先端科学技術研究センター 教授)

 この研究領域は、情報システム/ネットワークにおける爆発的な通信・計算量の増大に備えて、デバイス、回路、VLSI、アーキテクチャ、システム・ソフトウェア、ネットワーク、応用・サービスなどの各システム階層における個別要素技術の飛躍的革新だけではなく、それらの階層統合的/協調的なシステム管理、制御によって消費電力当たりの処理性能を100倍から1000倍に向上させる超低消費電力技術を確立する、という戦略目標達成を目指しています。
 領域全体の最終的な成果として、本領域の戦略目標達成がエネルギー消費の抑制、豊かな生活空間の実現、産業技術競争力の強化への可能性を拓くことを示すために、2012年秋には各課題の成果を総合した超低消費電力化統合システム(ULP統合システム)を構築して公開実験を行うことを計画しています。従って、本領域課題募集の最終年度になる今回は、これまでのシステムレベルULP要素技術に関する世界水準の研究提案に加えて、特に、ULP統合システムの実現に向けた優れた研究計画と研究体制の提案を歓迎する旨を募集要項に明示しました。
 応募件数は昨年同様10件でしたが、書類審査で6件を選択し、面接審査によって最終的には4件の提案を採択しました。選考に当たっては、審査の公平性、透明性に十分配慮した上で、本領域に課せられた高い数値目標を達成し、かつその成果の可能性と波及効果をULP統合システムとして提示するために、領域全体として最適な研究課題と最高のチーム編成を完成させるという視点で厳正な審査を行いました。その結果、採択テーマは、「環境知能実現を目指す超低消費電力化統合システムの研究開発」、「超低消費電力化データ駆動ネットワーキングシステム」、「ULPユビキタスセンサのITシステム電力最適化制御への応用」、「次世代テクノロジのモデル化・最適化による超低消費電力ハイパフォーマンスコンピューティング」の4件になりました。いずれも基礎となる技術の裏付けあるいは実績があり、ポテンシャルが高く、目標達成へのアプローチが明確な提案です。昨年度までに採択した8件の課題と合わせて、本領域の目指す戦略目標達成に向けたバランスの良い領域構成になりました。
 なお、限られた予算枠のなかで公平かつ厳正な選考を行った結果として、いくつかの提案は独創的かつポテンシャルが高いにもかかわらず領域の目指す方向からややはずれるために残念ながら採択に至らなかった研究構想もありました。
 新規課題の募集は今年度で終了し、今後は全12チームによる密接な連携のもとで本領域の戦略目標達成を目指して研究を鋭意推進していきます。