JSTトッププレス一覧科学技術振興機構報 第420号(資料2) > 研究領域 「ナノ製造技術の探索と展開」
(資料2)

平成19年度 戦略的創造研究推進事業(さきがけタイプ)
新規採択研究者及び研究課題


7 戦略目標 「ナノデバイスやナノ材料の高効率製造及びナノスケール科学による製造技術の革新に関する基盤の構築」
研究領域 「ナノ製造技術の探索と展開」
研究総括 横山 直樹(株式会社富士通研究所 フェロー、ナノテクノロジー研究センター センター長)

氏名 所属機関 役職 研究課題名 研究課題概要
吾郷 浩樹 九州大学 准教授 SWNTの電子構造/カイラリティ制御に向けた精密合成法の探索 単層カーボンナノチューブ(SWNT)は、ナノスケールの直径と優れた電子輸送特性から将来の電子デバイスに有望と考えられていますが、その実現には電子構造、望ましくはカイラリティを制御したSWNTを合成することが必要とされています。本研究では、SWNTの触媒成長を精密に行うことにより、選択的合成法の開発を目指します。集積化技術と融合させることにより、エレクトロニクスへの応用へ発展することが期待されます。
一柳 優子 横浜国立大学 講師 医療応用に向けた磁気ナノ微粒子の開発 本研究では、独自の製法で作製した磁気ナノ微粒子を活用し、薬剤輸送、温熱療法、MRIイメージングなど次世代ナノ医療技術を開発します。まず、高性能な強磁性や超常磁性ナノ微粒子を合成し、その物理的特性を明らかにします。これらの磁気ナノ微粒子に各種官能基を修飾し、細胞など生体試料に導入可能な医療用磁気ナノ微粒子を創製します。さらには外部磁場により生体内で局在化や昇温を実現するなど、革新的な医療技術を確立します。
上野 貢生 北海道大学 助教 ナノ光リソグラフィーによる金属ナノパターン作製技術の開発 シングルナノメートルの加工分解能を有するナノ光リソグラフィー技術を開発し、プラズモニックデバイスやナノ電気回路として動作する金属ナノパターンを作製する技術を確立します。高い光電場増強を示すナノギャップ金構造をフォトマスクとして、近赤外光による局所的なフォトレジストの非線形光反応を誘起し、高分解能リソグラフィーを実現する従来とは異なる動作原理に基づいた光加工技術を開発します。
笠井 均 東北大学 准教授 有機ナノ結晶を用いた次世代型光機能材料の創出 本研究では、独自に開発した有機ナノ結晶の作製方法「再沈法」により、サイズ・多形が完全制御された有機ナノ結晶の作製を達成します。その後、一個、一個の有機ナノ結晶の方位が制御されたナノ結晶配向材料を創製し、偏向発光材料や光スイッチング材料のような次世代型光機能素子としての応用展開を目指します。従来にない発想に基づく有機ナノ結晶配向材料が実用化されれば、明るさやコントラストが飛躍的に向上した次世代ディスプレーの実現などの波及効果が考えられます。
櫻井 英博 自然科学研究機構 准教授 有機化学手法によるカーボンナノチューブのキラリティ制御 本研究はキラリティ制御を含めた単一組成単層カーボンナノチューブ(SWNT)の自在合成実現のために、「バッキーボウル」を基盤としたボトムアップ製造技術を開発するものです。CNTの先端構造に相当する半球バッキーボウルのキラリティ制御を含めた立体選択的合成手法を開発します。バッキーボウルを足がかりにチューブ成長を行うことで、直径、カイラル角、螺旋方向が全て一義的に決められたSWNTのみを合成します。
長谷川 裕之 (独)情報通信研究機構 特別研究員 高性能有機ナノ結晶トランジスタの低環境負荷製造法の開発 ナノワイヤを電極間に架橋成長させることが可能な「ナノ電解法」を用い、新しいナノデバイス製造法を開発します。原料分子は電気分解の際、電気伝導に有利な配列を自ら形成するため、高性能な有機トランジスタの実現が期待されます。電解に用いる電極基板を印刷技術で作製し、全ての工程を大気中で行うことを可能とします。高性能なナノデバイスの省エネルギー・低環境負荷な製法としてナノ製造技術のブレークスルーとなることを目指します。
原 真二郎 北海道大学 准教授 基本論理素子に向けたナノスピンバルブ構造の選択形成 強磁性体ナノ構造を選択的に形成する独自の手法により、トップダウン型微細加工では困難な「結晶軸が揃った強磁性体/半導体接合構造」をナノメータ領域で任意の位置に形成するビルドアップ型作製技術を確立します。原子レベルで平坦な結晶面・急峻な異種材料接合界面が得られる本手法により、ナノメータサイズの横方向/縦方向スピンバルブ磁気抵抗素子を実現しその基礎物性評価を行うと共に、新しい基本論理素子応用を目指します。
樋口 昌芳 (独)物質・材料研究機構 主幹研究員 単層マルチカラーエレクトロクロミック材料 次世代表示デバイスの簡素化・省エネルギー化を目的として、単層でRGB(赤、青、緑)カラーを表現できる革新的エレクトロクロミック材料を創成します。電圧によって色を変える有機/金属ハイブリッドポリマーを開発し、金属イオンと有機モジュールの選択により色調を精密制御します。さらに、複数の金属イオン種をハイブリッドポリマー内に導入することで多色表示を実現します。
藤田 淳一 筑波大学 准教授 超尖鋭プローブによる局在場制御と新材料創成 本研究では、超尖鋭金属プローブによる局在場可視化技術を中核技術とし、炭素系・無機系材料に対する局所電子励起反応を解明します。さらに、この超尖鋭プローブによる励起反応を溶接・切断工具として利用するグラフェンシートの切り貼り型ナノ製造加工技術や、酸化物系材料の電子励起接合形成技術の研究を行います。すなわち、超尖鋭プローブによるトップダウン型自己組織化反応制御技術を開発し、新概念電子機能素子構造の創出を目指します。
村上 達也 藤田保健衛生大学 助教 生体ナノ粒子を模倣した医療用金属ナノ粒子の創製 生体にはHDLと呼ばれるナノ粒子が存在します。HDLは善玉コレステロールとして知られており、いわば生体にとって良い働きをするナノ粒子です。一方で金属ナノ粒子は、医療機器と組み合わせることにより、次世代の癌治療に応用できると期待されています。この研究ではHDLと金属ナノ粒子の機能を組み合わせることにより、生体には優しく、癌には厳しいナノ粒子を創製することを目指します。
(五十音順に掲載)

<総評> 研究総括:横山 直樹(株式会社富士通研究所 フェロー、ナノテクノロジー研究センター センター長)

 本研究領域は、ナノテクノロジーの本格的な実用化時期に必須となるナノ製造技術の基盤を提供することを目的とし、平成18年度から募集を開始しました。現在ナノスケール構造を持つデバイス・材料を創成する研究開発が多くの機関で行われていますが、その成功例はまだまだ限られています。そこで、ナノスケール科学に基づく発想において、工学的・産業的に意味があり、ナノ製造技術を実現するための独創的アイデア、そしてその応用において魅力的な発展が期待される研究提案を対象としています。
 本研究領域の公募に対して、平成19年度、カーボンナノチューブ、バイオ・分子材料、半導体デバイス、磁性、ナノ材料、加工技術など幅広い研究分野から計99件の応募がありました。これらの研究提案を14名の領域アドバイザーのご協力を得て書類選考を行い、研究提案22件を面接対象としました。面接選考に際しては、高い独創性を有し新規性があること、工学的な発展性が期待できること、また提案者の目的意識や意欲が高いこと、を重視した審査を行いました。
 選考の結果、本年度の採択課題数は10件となり、新しい発想に基づく意欲のある研究課題を採択することが出来たと考えております。10件の中には、女性研究者による提案1件、昨年度不採択となった提案で、今年度再提案され、目標が明確になったことで採択された提案1件が含まれております。一方、重要な提案内容であっても本領域の趣旨に合わないもの、独自性はあっても研究展開が不明なものは、不採択としました。これらの提案者に関しては、今回の不採択理由を踏まえて再チャレンジして頂きたいと思います。
 来年度は本研究領域の最後の募集となりますが、引き続き多数の応募を期待します。本領域は、ナノデバイス・材料の高効率製造ならびにナノスケール科学による製造技術の革新に関する独創的な研究を目指していますが、とくに例年応募が少ない半導体デバイス分野、磁性材料・デバイス分野からの多くの提案を希望したいと思います。また女性研究者からの活発な応募にも期待しております。