科学技術振興機構報 第42号
平成16年3月25日
埼玉県川口市本町4-1-8
独立行政法人 科学技術振興機構
電話(048)226-5606(総務部広報室)
URL:http://www.jst.go.jp/

医用デバイスに易滑性と血液適合性を同時に付与できる
コーティング剤の開発に成功

 独立行政法人科学技術振興機構(理事長 沖村憲樹)は、委託開発事業の開発課題「易滑性と血液適合性を有する医療用具用コーティング剤の製造技術」の開発結果を、このほど成功と認定しました。
 本課題は、早稲田大学理工学総合研究センター客員教授 森有一氏の研究成果を基に、平成13年3月から平成15年9月にかけて株式会社セイシン企業(代表取締役社長 植田玄彦、本社 東京都渋谷区千駄ヶ谷5-27-7、資本金300百万円)に委託して実用化開発(開発費約326百万円)を進めていたものです。
(開発の背景)
 外科手術は、患者に多大な苦痛を与え、治療期間も長いことから、近年、カテーテル等を血管などに挿入し、局所的な治療を施すインターベンション治療が大きな注目を集めています。この治療に使用する医用デバイスは、表面特性として、疼痛、癒着、感染等の原因となる生体組織の損傷を軽減するため、生体内に容易に挿入出来る低摩擦性(易滑性)と、長期の生体内留置において、血栓等の生体成分が付着することを抑制できる抗血栓性(血液適合性)が求められています。しかし、これまで医用デバイスの表面に易滑性と血液適合性を与える方法は、それぞれ独立して開発されてきました。そのため、適用可能な医用デバイスに制限があり、易滑性と血液適合性を同時に付与できるコーティング剤が求められています。
(開発の内容)
 本新技術は、医用デバイス表面に易滑性と血液適合性を同時に付与可能なポリテトラフルオロエチレン(PTFE)と、エチレン-アクリル酸共重合体(EAA)との複合微粒子からなるコーティング剤に関するものです。
 複合微粒子の調整方法は、いわゆるケミカル粉砕法を応用したもので、PTFEを取り込んだ複合微粒子を生成させ、イソプロピルアルコールなどにこの複合微粒子を分散させることで、安定したコーティング剤がえられます(図1)
 本新技術で得られたコーティング剤は、ディッピング法等の一般的な塗装技術によって、容易に医用デバイス表面に易滑性と血液適合性を同時に付与できるものです(図2)
(開発の効果)
 すでに、動物実験を含めて、最適な複合微粒子サイズやその割合などの基本条件が明確となり、易滑性と血液適合性について満足した結果を得ています(図3)
 本新技術は、非常に容易に易滑性と血液適合性が得られる優れた技術であり、その将来が期待できる医療用技術です。今後は、医療デバイスメーカーと協力し、臨床への実用化に向けた安全性試験の実施、治験としての臨床データの蓄積を行い、効果と安全性を確認して、医療用具製造業界に広く利用が期待できます。
本新技術の背景、内容、効果の詳細
【用語解説】
図1 複合微粒子の製造方法
図2 コーティング方法とコーティング層の模式図
図3 抗血栓性試験結果(麻酔下成犬5時間留置後)
開発を終了した課題の評価

【本件に関する問い合わせ先】
独立行政法人科学技術振興機構
      開発部開発推進課 福富博、菊地博道(TEL:03-5214-8995)
株式会社セイシン企業
      取締役素材加工事業部長 松島誠(TEL:03-3350-5771)
      素材加工事業部今市工場 係長補 津吹幸久(TEL:0288-26-9000)
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