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<用語解説>

LPSの模式的な構造 (注1) リポ多糖
 LipopolysaccharideからLPSと略記されます。一般には共有結合で結ばれた脂質と多糖の複合体で(右図)、とくに、主としてグラム陰性細菌の外膜成分として存在する、エンドトキシンの本体です。腸内細菌科の細菌のLPSについて古くから研究されてきました。LPSの基本構造には、菌種間で共通性がみられますが、分類学的に遠縁の菌では大きな違いがあります。LPSは様々な生物活性を示し、病原細菌のLPSは、宿主の免疫系により感染のシグナルとして認識されます。
 歯周ポケットから分離されるグラム陰性細菌は、歯周病発症と密接に関連していると考えられています。歯周病細菌のLPSは歯槽骨を破壊する破骨細胞の分化を促進するとの報告があり、MD-2とTLR4の歯周病への寄与も研究されています。LPSを除去する成分を含む歯磨きペーストも市販されています。

(注2) エンドトキシン
 内毒素。細菌の菌体成分中にある毒性物質の総称で、外毒素が生きた菌が産生して菌体外に放出されるのに対して、エンドトキシンは菌が死ぬことによって遊離してきます。成分はリポ多糖LPSで、大腸菌、赤痢菌、サルモネラ菌などのグラム陰性細菌のLPSの同義語として用いられます。ヒトや動物に注射すると、発熱がおこり、一時的に白血球が減少し、また多量に与えると死に至ります。

(注3) 敗血症
 敗血症は外傷、手術、火傷、癌や肺炎などの病気に伴う感染が引き金になって発症することが多く、全身性の炎症反応を呈します。原因的にも症状のうえからも、独立した疾患ではありませんが、臓器機能障害や循環不全を伴う重篤なものが重症敗血症です。米国のみの統計によると、重症敗血症の死亡率は29%と高く、年間少なくとも21万5000人が死亡しています。これは急性心筋梗塞による年間死亡者数とほぼ同数です。
 病原性のリポ多糖LPSはエンドトキシンともよばれ、発症が急速に進行するショック症状が、エンドトキシンショックあるいは敗血症性ショックです。
 これまで、症状の複雑さゆえに有効な治療法の開発が難しく、感染症治療、人工呼吸や腎透析などの補助療法に限られ、最終的には、多臓器不全の病態を経過して死亡することが多いとされています。

(注4) 受容体
 リセプターともいい、細胞の外から供給される情報物質を認識し、それと特異的に結合し、その情報を細胞の内部に伝える物質で、そのほとんどがタンパク質です。受容体には、おもに親水性の情報物質が結合する細胞膜上のものと、疎水性の情報物質が結合する細胞(核)内に存在するものの2種類があります。TLR4は細胞膜上の受容体です。

(注5) リピドAとリピドIVa
 グラム陰性細菌の外膜に埋もれ、膜構造を形成すると共にリポ多糖LPSのアンカーの役をはたすLPSの脂質側の部分です。LPSが示すエンドトキシン活性の活性中心です。大腸菌のリピドAは最も基本的で、腸内細菌科の細菌は全てこれと類似の構造をもちます。脂肪酸は、菌種により異なりますが、一部の例外を除いて炭素鎖12~16の3-ヒドロキシ酸が主要なものとなっています。リピドAはアゴニスト(作動薬)ですが、サルモネラ菌のリピドIVaはヒトではアンタゴニスト(遮断薬)となります(マウスにはアゴニストです)。

(注6) アゴニストとアンタゴニスト
 受容体と結合してその情報を細胞の内部に伝達する情報物質を、総称してアゴニスト(agonist)、作動薬といいます。一方、受容体には結合するが、その情報を伝達できない、アゴニストと拮抗してその結合を阻害する物質は、アンタゴニスト(antagonist)または遮断薬(blocker)といいます。

(注7) 自然免疫
 自然免疫とは、微生物感染時に迅速に機能する免疫応答機構です。哺乳類などの高等動物は、自然免疫と獲得免疫の協調作用により微生物感染に対処します。高等動物の自然免疫は、初期応答機構として機能すると同時に獲得免疫の形成に重要な役割を果たしています。獲得免疫では抗原の認識を抗体が担っていますが、自然免疫での認識の実体はほとんど判っていませんでした。