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資料4

選定した研究領域および研究総括の評価

研究領域
  1. RNAシンセティック・バイオロジー
  2. ATP合成制御
研究総括
  1. 井上 丹 (京都大学大学院 生命科学研究科 教授)
  2. 吉田 賢右 (東京工業大学 資源化学研究所 教授)
評価結果
  1. 研究領域「RNAシンセティック・バイオロジー」は、機能性人工RNA やRNA-蛋白質複合体(RNP)創製のための基盤技術を確立し、これを用いた医療応用などに資する細胞機能制御技術などの開発を目指すものである。具体的には、分子デザインにより特定の機能を持つRNAまたはRNPを構築し、さらに細胞固有のシグナルを検出できるシグナル伝達回路のデザインと構築により細胞の機能制御を目指す。

    本研究領域において、特定の機能を持つRNA やRNP を人工的に創製するのに必要な基盤技術が確立され、RNAおよびRNPの分子デザインの有用性が実証されることが期待される。また開発されたRNPに基づいて新しい検査薬、治療薬の開発に結びつくことが可能になり、医療応用などの分野に高いインパクトを与えることが期待される。これにより本研究領域は戦略目標「医療応用等に資するRNA 分子活用技術( RNA テクノロジー)の確立」に資するものと期待される。

    井上丹氏は、タンパク質では困難である、酵素機能をもつ新しい構造の生体分子のデザインと構築が、RNAについて人工的に実現可能であることを実証するなど本研究領域において先導的な研究を行ってきており、本研究領域の研究総括として相応しいと認められる。

    本研究領域において、RNA 立体構造のモデリング、計算による構造予測およびRNA を用いるバイオインフォマティックス分野の研究で顕著な業績を上げているルイ・パスツール大学分子細胞生物学研究所 Eric Westhof博士と共同研究を行うことにより、相互補完的な協力体制が生まれ、両国の高い研究活力が融合することで革新的な研究成果と共に、この研究分野の進展に大きく寄与することが期待される。

  2. 研究領域「ATP合成制御」はATP合成酵素の制御の分子機構および細胞生理を解明し、代謝のメカニズム、環境応答ナノ分子マシーン、エネルギー代謝の病態等の理解への貢献を目指すものである。具体的にはATP合成制御の基本的な分子機構を生化学、タンパク質化学、遺伝子工学、遺伝生化学、1分子観察と1分子操作など様々な方法を駆使して解明することを目指す。個々の機構を明らかにした上、統合された制御の全体像を解明する。さらに合成制御の欠陥が生物の個体に病態としてどのように現れるかをトランスジェニック動植物を用いて探索する。

    本研究領域において、細胞生物学また分子生物学的に未解決なATP合成酵素の制御という細胞代謝の基本的メカニズムの解明が期待される。さらに制御の欠陥と生物の病態との関連を明らかにすることにより、エネルギー代謝の制御による新しい治療技術への展開につながることが期待される。これにより本研究領域は戦略目標「代謝調節機構解析に基づく細胞機能制御に関する基盤技術の創出」に資するものと期待される。

    吉田賢右氏は、本研究領域においてATP 合成酵素の分子構造の決定、またATP 加水分解による回転の仕組みを1分子観察により解明するなどATP 合成酵素の基本機構について先導的な研究を行ってきており、本研究領域の研究総括として相応しいと認められる。

    本研究領域において、多様な細菌の生理学とエネルギー代謝、とりわけ生きている細菌のATP合成酵素についての研究で先導的な成果を創出しているニュージランド オタゴ大学のGregory Cook博士と共同研究を行うことにより、相互補完的な協力体制が生まれ、両国の高い研究活力が融合することで革新的な研究成果が期待される。
評価者
科学技術振興審議会
部会長竹内 伸
委員 岩渕 雅樹、小柳 義夫、川嵜 敏祐、郷 通子、榊 佳之、高野 幹夫、東倉 洋一、中西 準子、村橋 俊一、安井 至
専門委員 飯塚 哲太郎、大野 茂男、腰原 伸也、桜井 靖久、御子柴 克彦