JST(理事長 沖村憲樹)は、社会技術研究開発センター(センター長 有本建男)における社会技術研究開発事業の平成18年度新規採択研究代表者及び研究開発プロジェクトを決定しました。
社会技術研究開発は、現実社会が直面している諸問題の解決を図ることで社会の人々の安寧を目指す研究で、個別分野を越えた幅広い視点から多分野の研究者等が協力し、社会の様々なセクターの参画を促しながら研究を進めるものです。社会技術研究開発センターは、社会問題解決に重要と考えられる研究開発領域を設定し、領域ごとに研究開発プログラムを設定して研究開発を推進します(参考1)。
今回は、既存の「ユビキタス社会のガバナンス」(「情報と社会」領域)と「21世紀の科学技術リテラシー」(「科学技術と人間」領域)の2つの研究開発プログラムにて募集を行いました(参考2)。
「ユビキタス社会のガバナンス」は、ユビキタス社会において予測される悪や悲劇の芽を摘み取るため、あるいは予測される良い点をよりよく進展させるためのガバナンスはいかにあるべきかを主題として取り上げるものです。採択課題は6ヶ月間調査研究を実施し、その成果の状況等の評価により課題数を絞り込み、当該課題について2.5年間研究を実施することとしています。また「21世紀の科学技術リテラシー」では、科学・技術に関わる人々の社会リテラシーも含め、科学・技術の研究フロントの高度化に伴って非専門家と専門家の間の知識程度が乖離することにより生じる問題の解決を図ります。
募集の結果、「ユビキタス社会のガバナンス」で14件、「21世紀の科学技術リテラシー」で49件の応募がありました(資料1)。募集締切後、領域総括及び領域アドバイザー(資料2)が、選考基準(資料3)により「書類審査及び面接審査」(事前評価)を実施し、最終的にそれぞれ4件の研究代表者及び研究開発プロジェクトを採択しました。研究開発プロジェクトの概要は資料4のとおりです。今後、所定の事務手続きを行った後、研究を開始する予定です。
研究開発プログラム:「ユビキタス社会のガバナンス」
代表者氏名 | 機関名 | 所属部署名 | 役職名 | 研究開発プロジェクト名 |
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林 紘一郎 | 情報セキュリティ大学院大学 | 情報セキュリティ研究科 | 副学長・教授 | 企業における情報セキュリティの実効性のあるガバナンス制度のあり方 |
林 春男 | 京都大学 | 防災研究所 | 教授 | 危機に強い地域人材を育てるGIS活用型の問題解決塾 |
福田 豊 | 電気通信大学 | 人間コミュニケーション学科 | 教授 | 市場と非市場を繋ぐ価値転換システムに関する研究 |
藤田 伸輔 | 千葉大学 | 医学部附属病院地域医療連携部 | 助教授 | 医療情報のユビキタスについての社会学的検討 |
五十音順に掲載 |
総評 : 領域総括 土居 範久(中央大学 教授) |
人類の持つ情報のすべてが情報システムの上にユビキタスに拡散し、情報システムが人をユビキタスに同定する「ユビキタス社会」の到来は、生活と社会経済活動の一段の発展が期待される一方で、情報セキュリティの確保やプライバシーの保護などの社会的な脆弱性が心配される。その際、特に情報技術の進歩が速いため、技術開発と従来の社会制度との整合性が十分に確保されない状況、社会科学や法制度が追従し切れない状況が生ずる。このような問題意識に立脚して、「ユビキタス社会」で必要とされる「ガバナンス」はいかにあるべきかを主題として、人文社会科学、科学技術などの知見も統合した俯瞰的な視点から問題解決の道筋を探るべく本プログラムを設定し、昨年度に引き続き2回目の募集を行った。 必ずしも成熟した研究テーマとは言えないことから、昨年度と同様、6ヶ月程度の実行可能性に係る調査研究課題を対象に募集した。応募総数は14件と前年に引き続き少なかったものの、情報セキュリティの企業ガバナンスや、ユビキタス化する医療情報の運用、ネット・コミュニティにおける信頼評価など、重要な問題を取り扱った興味深い提案が寄せられた。「ガバナンス」という視点を重視したのはもちろん、提案者の企画力、調査研究の効果などにも留意しつつ、8名の領域アドバイザーの協力により書類選考、面接選考を行い、最終的に4件を採択した。 採択された提案者の方々には、現実的かつ実効性の高い研究体制やアプローチを検討してくださることを期待したい。なお、採択された4件のプロジェクトについては、6ヵ月後にその実効性等についてあらためて評価を実施した上で、本格的な研究に移行する課題を選定する予定である。 |
研究開発プログラム:「21世紀の科学技術リテラシー」
代表者氏名 | 機関名 | 所属部署名 | 役職名 | 研究開発プロジェクト名 |
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大島 まり | 東京大学 | 大学院情報学環 | 教授 | 先端研究者による青少年の科学技術リテラシー向上 |
大塚 裕子 | 財団法人 計量計画研究所 | 言語情報研究室 | 研究員 | 自律型対話プログラムによる科学技術リテラシーの育成 |
西條 美紀 | 東京工業大学 | 統合研究院 | 教授 | 科学技術リテラシーの実態調査と社会活動傾向別教育プログラムの開発 |
信原 幸弘 | 東京大学 | 大学院総合文化研究科 | 助教授 | 文理横断的教科書を活用した神経科学リテラシーの向上 |
五十音順に掲載 |
総評 :領域総括 村上 陽一郎(国際基督教大学 教授) |
現代において、科学・技術の研究フロントは極めて高度化し、専門家と非専門家の間の知識程度は乖離する一方である。非専門家である一般の人たちは、日々の選択や意思決定の際に、既に社会の中に科学や技術が入り込んだ状態で、それらに対する知識や理解が不可欠であるという事態を目の当たりにしてぼう然とする。一方で専門家は自分たちの研究成果が一般社会に直接大きな影響を与えるという事態に戸惑いを隠せない。こうした全く新しい事態を迎えて、これまでの理科教育や、啓蒙活動では対応し切れないとの問題意識から、問題解決に向け、科学・技術に関わる人々の「社会リテラシー」も含めて科学技術リテラシーを広くとらえた本研究開発プログラムを設定した。 昨年度に続いて2度目となる今回の募集に対し、49件の応募があった。今年度は募集にあたり、社会の具体的な問題解決に向けた明確な目標設定を求めて、研究提案の募集を行った。その中で産学が連携したアウトリーチ活動や、異なるリテラシー構造を持つグループに応じた教育プログラムの開発、教科書の作成や機器開発まで、多岐にわたる非常に興味深い提案が数多くあった。また、現場知に着目し、食や農業、環境など人々の生活に身近な問題の解決を目指した提案も多かった。これらの提案について、6名の領域アドバイザーの協力により書類審査を行い、研究開発プログラムの趣旨に沿った提案のうち、特に優れた研究提案9件を面接対象として選定し、それらに対し面接選考を行った。 採択に際しては、現実社会の問題を的確に捉え、かつその解決に向けた見通しが含まれていることに留意し、4件の優れた提案を選定した。いずれの研究提案に対しても、具体的な成果(特定の技術や手法等)を期待する意味で、今後の研究に対する領域総括からの要望としてコメントを添えた。 |
(資料1)応募数および選考数 |
(資料2)領域総括および領域アドバイザー |
(資料3)選考に当たっての主な基準 |
(資料4)新規採択研究代表者および研究開発プロジェクト概要 |
(参考1)社会技術研究開発事業の概要 |
(参考2)研究開発プログラムの概要 |
<お問い合わせ先>
独立行政法人科学技術振興機構
社会技術研究開発センター 運営室
大槻 肇(おおつき はじめ)
〒100-0004 東京都千代田区大手町1-1-2 りそな・マルハビル18F
TEL: 03-3210-1200