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資料4

選定した研究領域及び研究総括の評価

研究領域

1. ナノ液体プロセス
2. マルチフェロイックス
3. 生命時空間情報

研究総括

1. 下田 達也(北陸先端科学技術大学院大学 教授)
2. 十倉 好紀(東京大学大学院工学系研究科 教授)
3. 宮脇 敦史(理化学研究所 脳科学総合研究センター グループディレクター)

評価結果
1. 研究領域「ナノ液体プロセス」は、ナノサイズからなる電界効果型トランジスタ(MOSFET等)やメモリ(FeRAMやMRAM等)、分子素子等の固体薄膜デバイスを、機能性液体から直接的に作製するという革新的なプロセスの創製と新しい科学領域の開拓を目標とする。具体的には、溶質、溶媒と基板との間に働くvan der Waals力、溶液と基板間の電荷移動、溶質の化学ポテンシャル、溶媒和力などの、ナノスケール領域で強く影響が現れる各種相互作用の精密な制御による、ナノサイズ固体薄膜の形成を行う。またそれにより、従来の電子デバイスプロセスの概念を変えうる、完全ボトムアップ型デバイス創製という革新的技術の探索を行う。さらにこの技術の発展のために、液体の微小輸送能力や自己組織化能力の量子論的な理解を深める。
本研究領域は、ナノスケール科学に基づくデバイス製造工程の高度化や低環境負荷化などに繋がるものと期待される。これにより本研究領域は、戦略目標「ナノデバイスやナノ材料の高効率製造及びナノスケール科学による製造技術の革新に関する基盤の構築」に資するものと期待される。
下田達也氏は、本研究領域の重要な基礎となる、インクジェット技術等を用いた機能性液体による電子デバイス開発における先導的な研究を行ってきており、研究総括として相応しいと認められる。
2. 研究領域「マルチフェロイックス」は、強誘電性(Ferroelectric)と強磁性(Ferromagnetic)とが共存する物質相(マルチフェロイックス;Multiferroics)の設計・創出を行い、新たなエレクトロニクスの領域を開拓することを目標とする。具体的には、単結晶育成技術や薄膜人工格子作製技術等を駆使して、材料中の「電荷」「スピン」「軌道」の自由度を、精巧に設計・作製・制御することにより、電気分極と磁化が共に自発的に存在し且つ互いに強く相関する物質を創製し、磁化反転による分極反転、またはその逆の電気磁気相関機能の開拓・探索を行う。
本研究領域は、固体電子物理学に、「マルチフェロイックス」という新たな概念を導入し、これを精密に制御することで新規な物性を発現させる方法論の確立に繋がると期待できる。例えば、微小磁場による電気分極制御、微小電場による磁化制御といった、従来にない特性を有するデバイス材料の開発が期待できる。微小電場による磁化反転が可能となれば、従来の磁気電気材料に比べて大幅な省電力化が期待できる。これにより本研究領域は、戦略目標「情報処理・通信における集積・機能限界の克服実現のためのナノデバイス・材料・デバイスの創製」に資するものと期待される。
十倉好紀氏はこれまで、創造科学技術推進事業「十倉スピン超構造プロジェクト」において、理論的に設計されたスピン超構造を有する物質を創製し、これらの物質が外部刺激を受けた際に生じる電気・磁気・光学的性質の変化を明らかにしながら、「強相関エレクトロニクス」の分野を開拓してきた。十倉氏の提案する本研究領域「マルチフェロイックス」は、これまでの強相関エレクトロニクスの学理を大きく発展・深化させるだけでなく、新たな電子材料技術への展開を導出しうるものとして、極めて高く評価できるものである。強相関物理分野における先導的な研究を行っている十倉氏は、本研究領域の研究総括として、余人を以って代え難い人物と認められる。
3. 研究領域「生命時空間情報」は、個体レベルにおける生命現象の時間的・空間的制御の動的な理解を目指し、蛍光タンパク質などを活用した新規プローブ開発及び顕微鏡システムの開発によって、ライブイメージングの技術革新と実践応用を目指すものである。具体的には、細胞周期、タンパク質分解、細胞の移動などをめぐる細胞内の協調現象を可視化するために新規の蛍光プローブ等の開発を行うとともに、複数の光学系を組み込むことで様々なイメージングを同時に行える新たな顕微鏡の開発を行う。これらに加え、例えばハエ・線虫等の多細胞生物個体を生きたまま内部観察可能とするイメージング技術など、個体における解析のための各種の技術開発を総合的に実施する。
本研究領域は、これまで解析が困難であった生命現象に対する新しいアプローチとして、多様な生命現象を可視化する新規の機能プローブやこれを活用した新たな光学顕微鏡システムの開発をするもので、これに対する期待は極めて大きい。これにより本研究領域は戦略目標「新たな手法の開発等を通じた先端的な計測・分析機器の実現に向けた基盤技術の創出」に資するものと期待される。
宮脇敦史氏は本研究領域の基盤となる蛍光タンパク質の開発に基づくバイオイメージングにおいて先導的な研究を行ってきており、研究総括として相応しいと認められる。
評価者
科学技術振興審議会 基礎研究部会
部会長竹内 伸
委員岩渕 雅樹、小柳 義夫、川嵜 敏祐、郷 通子、榊 佳之、高野 幹夫、東倉 洋一、中西 準子、冷水 佐壽、村橋 俊一、安井 至
専門委員井上 佳久、大隅 典子、小原 雄治、坂口 志文、曽根 純一、中西 八郎、西尾 章治郎、細野 秀雄、山本 喜久