JSTトッププレス一覧科学技術振興機構報 第332号(資料2)新規採択研究代表者・研究者及び研究課題 > 研究領域:「代謝と機能制御」
(資料2)

平成18年度 戦略的創造研究推進事業(CRESTタイプ、さきがけタイプ)
新規採択研究代表者・研究者及び研究課題(第2期)


【さきがけタイプ】
7 戦略目標 「代謝調節機構解析に基づく細胞機能制御に関する基盤技術の創出」
研究領域 「代謝と機能制御」
研究総括 西島 正弘(同志社女子大学薬学部医療薬学科 教授)

氏名 所属機関 役職 研究課題名 研究課題概要
有田 誠 ハーバード大学医学部 講師 炎症反応の収束に関わる脂質性メディエーターの代謝と網羅的解析 炎症反応は感染症などに対する重要な生体防御機構ですが、一方で生物は炎症を積極的に収束させるシステムを兼ね備えており、これにより体全体のホメオスタシスすなわち「健康」が保たれています。本研究では炎症を収束に導く分子機構を、とくに脂質代謝の観点から包括的に理解することを目指します。将来的には、難治性疾患や感染症に対する新しい治療法の開発への応用が期待されます。
今井 浩孝 北里大学薬学部 助教授 脂質ヒドロペルオキシドによる細胞機能制御と疾病との関連の解析 脂質ヒドロペルオキシドは様々な疾病や酸化ストレスで生じた活性酸素による生体膜の酸化により生成する他、特異的な脂質酸化酵素により生成します。しかし、その生理機能や病態との関連については未だ不明確です。本研究では、この酸化脂質の唯一の還元酵素であるリン脂質ヒドロペルオキシドグルタチオンペルオキシダーゼ(PHGPx)の欠損細胞や欠損マウスを用いて酸化脂質メタボローム解析を行い、酸化脂質による細胞増殖制御機構や病態進展のメカニズムを明らかにすることを目指します。
榎本 和生 情報・システム研究機構 国立遺伝学研究所新分野創造センター 独立助教授 脳神経ネットワーク形成における脂質機能の網羅的解析 脳神経ネットワーク形成において脂質代謝物が重要な機能を果たしていることが示唆されていますが、その作用機序は不明です。本研究では、ショウジョウバエを個体モデルとして、脳神経系の多様な脂質代謝物を生み出す分子基盤を網羅的に同定するとともに、その神経突起形成における機能を解明します。さらに、生体脳内において脂質代謝物の動態や神経機能を直接評価するための新技術や、脂質代謝疾患モデル動物の創出を目指します。
川島 博人 静岡県立大学薬学部 助教授 硫酸化糖鎖の組織特異的な機能発現機構の解明 糖鎖は、細胞接着やタンパク質品質管理などの機能を担う重要な代謝産物であり、組織特異的発現パターンを示します。しかし、糖鎖の組織特異的発現制御機構に関しては不明な点が多くあります。本研究では、ユニークな硫酸化糖鎖を豊富に発現するリンパ節高内皮細静脈(HEV)に着目し、硫酸化糖鎖の HEV 特異的 in vivo 機能解析、およびその発現制御機構の解明に取り組み、組織特異性を重視した糖鎖研究の基盤整備を目指します。
小松 雅明 順天堂大学医学部 助手 オートファジーによる選択的代謝経路とその破綻による病態発生 オートファジー(自食作用)は細胞内で中心的な役割を果たしているタンパク質代謝系であり、その破綻は神経変性疾患や肝障害を引き起こします。これらの病態発症には、オートファジーによる特異的な基質分解阻害が大きく関与します。本研究では、オートファジーにより代謝される特異的分子のモニター系の確立と、その代謝を促進もしくは遅延させる化合物の同定を行うことにより、重篤疾病の発症機構を解明し、予防・治療薬の開発を目指します。
佐野 元昭 慶應義塾大学医学部 講師 代謝産物の変化情報に基づく心筋機能制御法の確立 高齢化社会を迎えて、心不全患者に占める高齢者の比率が増加しています。したがって、心不全に対する有効な治療法を確立するには、心不全の発症の分子メカニズムをその背後にある「心筋の老化」という修飾因子も考慮に入れて理解する必要があります。本研究では、メタボローム解析手法の導入により、心不全や老化を規定する代謝産物の同定や新しい代謝過程の発見、さらには代謝産物の変化情報に基づく心筋細胞機能の制御法の確立を目指します。
重信 秀治 自然科学研究機構岡崎統合バイオサイエンスセンター 助手 複合系の代謝制御-アブラムシ細胞内共生系をモデルとして アブラムシの細胞内には共生細菌「ブフネラ」が棲んでいます。両者の間には栄養のギブ・アンド・テイクを基礎にした絶対的な相互依存関係が成立しており、ブフネラはまるで宿主の一細胞内小器官に見えるほど高度に宿主細胞に統合しています。例えば、ブフネラは細胞膜の合成酵素さえゲノムから失っています。本研究では、このような緊密な共生系において両者の代謝がどのようにオーガナイズされているのかを明らかにします。
新藤 隆行 信州大学大学院医学研究科 教授 受容体活性調節タンパクの機能解明と血管新生および血管合併症治療への応用 アドレノメデュリン(AM)は、臓器保護作用、抗動脈硬化作用などの多彩な作用を有する生理活性物質です。本研究では、 AM の生理活性が、受容体活性調節タンパク(RAMP)によって制御されていることに着目し、 AM や RAMP の遺伝子操作マウスを用いて、AM-RAMP システムの病態生理学的意義の全容を明らかにします。これにより、メタボリックシンドロームや血管合併症に対する新規治療法の開発を目指します。
中戸川 仁 自然科学研究機構基礎生物学研究所 助手 オートファジーにおける脂質膜組織化機構の解明 オートファジーとは、細胞が自身の中身をオートファゴソームと呼ばれる脂質膜の袋で包み込んで分解する現象です。オートファジーが起こるおかげで、細胞は栄養が枯渇しても分解産物であるアミノ酸を糧に生き抜くことができますし、細胞内を常に綺麗に保つことができます。本研究では、どのようにしてオートファゴソームが形作られるのか、そのメカニズムを解明し、創薬や代謝制御技術の開発に貢献しうる成果を得ることを目的とします。
西野 邦彦 大阪大学産業科学研究所 特任助手 異物排出トランスポーターによる細胞機能制御の解明 異物排出トランスポーターは、細胞異物となる分子を細胞内から排出していると考えられてきましたが、近年代謝産物輸送や細菌病原性発現等の生理的機能を担っていることが分かってきました。本研究では、輸送基質が未知の異物排出トランスポーターの生理的基質を決定し、輸送体による細胞機能制御機構の解明を目指します。また、新規創薬の標的となる異物排出トランスポーターを同定し、感染症克服の特効薬開発につなげます。
眞鍋 一郎 東京大学大学院医学系研究科 特任講師 ストレス応答破綻としてのメタボリックシンドロームと動脈硬化の分子機構解明 メタボリックシンドロームと動脈硬化は、病態の初期から互いに関連し合いながら進展します。その背景には、代謝に関わる臓器と血管の両者で同時に、肥満や代謝異常に伴う様々なストレスへの絶えざる応答とその破綻による臓器の機能低下や、高次構築の改変が進んでいると考えられます。本研究では、代謝の異常によって生み出されるストレス分子を見いだし、どのように細胞がストレスに応答するのか、その破綻がどのように病的な状態を作り出すのかを解明します。また、得られた成果をもとに、新しい治療戦略の開発へと研究を展開させます。
(五十音順に掲載)

<総評> 研究総括:西島  正弘(同志社女子大学薬学部医療薬学科 教授)

 「代謝と機能制御」研究領域は昨年度に発足し、今年度が2回目の募集となる研究領域です。  本研究領域では、メタボローム研究に資する新しい分析手法の開発、微生物・動物・植物の変異・病態・発生過程等におけるメタボローム解析、特定の細胞状態を規定する代謝産物の同定、新しい代謝過程の発見、代謝産物の変化情報に基づく細胞機能の解明と制御などを研究対象としています。
 本研究領域の公募に対し、今年度も158件と多数の応募がありました。この中には、昨年度残念ながら採択に至らなかった研究構想を練り直して、再度応募した提案も含まれていました。書類選考は15名の領域アドバイザーとともに行い、とくに内容の優れた研究提案22件を面接対象として選考しました。面接選考においては、昨年と同様に、研究のねらい、研究計画、研究の主体性、将来性などを中心に審査しました。また、研究構想が本研究領域の趣旨に向き合っていること、高い独創性を有すること、新規性に富むことについても重視しました。選考の結果、今年度の採択課題数は、11件となりました。競争倍率は14倍であり、今年度もこの分野の研究に対する非常に高い関心が示されました。また、書類選考の段階で面接選考の対象とならかった研究提案の中にも、優れたものが多数含まれていたことを付記します。
 代謝産物の多様性とその機能を網羅的に解析するメタボローム研究は、ゲノム情報を活用するポストゲノム研究として、プロテオーム研究の次に来る新しい研究分野です。本領域では、メタボローム研究における新たな方法論の創出や技術展開を目指すという観点に立ち、メタボライトに基づいた研究であれば幅広く選考の対象としました。選考のポイントとして、新しい生理活性代謝産物の発見、疾患特異的な代謝マーカーによる診断法の開発、代謝疾患治療薬の開発、有用な代謝産物を効率よく産生する実用生物の開発などに発展する可能性を有しているかとともに、サイエンスの見地から将来大きな発展が期待されるかを考慮しました。
 採択された提案の内容を見てみますと、今年度はメタボロミクスでシミュレーションする提案なども含まれており、昨年度と今年度の研究課題を併せて、本領域ではメタボロームに関する広い分野の研究が推進される体制となりました。
 メタボローム研究は世界的にも黎明期にあり、我が国が世界に先駆けてメタボローム研究をリードしていくために、来年も将来を担う研究者の方々が挑戦的な研究構想を持って応募されることを期待しています。