JSTトッププレス一覧科学技術振興機構報 第332号(資料2)新規採択研究代表者・研究者及び研究課題 > 研究領域:「界面の構造と制御」
(資料2)

平成18年度 戦略的創造研究推進事業(CRESTタイプ、さきがけタイプ)
新規採択研究代表者・研究者及び研究課題(第2期)


【さきがけタイプ】
3 戦略目標 「異種材料・異種物質状態間の高機能接合界面を実現する革新的ナノ界面技術の創出とその応用」
研究領域 「界面の構造と制御」
研究総括 川合 眞紀(東京大学大学院新領域創成科学研究科 教授、理化学研究所 川合表面化学研究室 主任研究員)

氏名 所属機関 役職 研究課題名 研究課題概要
大矢 忍 東京大学大学院工学系研究科 助手 半導体スピンバンドエンジニアリングとデバイス応用 本研究では、強磁性半導体や強磁性ナノ微粒子を含む半導体量子ナノ構造を用いて、スピン自由度と量子サイズ効果を組み合わせ、スイッチング機能を有する室温動作超高速不揮発性メモリを実現します。これにより、コンピュータの主要な機能が全てカード一枚のサイズに収まると期待されます。この研究は半導体スピンバンドエンジニアリングという新たな概念を生み出し、将来の様々な半導体スピン量子デバイスの基礎となると思われます。
岡田 美智雄 大阪大学大学院理学研究科 助手 表面化学反応立体ダイナミクスの解明 表面・界面の機能性を理解し、新しい物質相を創出するために、表面化学反応の動的過程を原子・分子レベルで明らかにします。表面に衝突する際の分子の向きや回転の方向を制御する配向・配列分子線法を用いて、分子軌道を反映する化学的「分子の形」が、表面・界面の原子や分子にどのように認識され、化学反応が進んでいくのかを解明し、その制御を目指します。
木口 学 北海道大学大学院理学研究院 講師 制御された単分子-金属接合系の構築およびその物性制御 制御された単分子/金属接合系を構築し、接合系の物性を外部摂動により自在に制御することを目指します。先ず、極低温にて単分子/金属接合系の作製、および伝導度と振動スペクトルの同時計測を行う装置を作製します。次に、従来のS-Auを越える新たなアンカー部位の探索を行います。得られた知見をもとに機能性分子を用い電界、磁場、光などの外部摂動による伝導度制御を試みます。最終的には単分子デバイスとしての応用を目指します。
齋藤 秀和 産業技術総合研究所エレクトロニクス研究部門 研究員 強磁性金属/半導体界面制御によるスピントランジスタの創製 固体中の電子の電荷とスピンの相互作用を利用するスピントロニクス技術が世界的に注目されています。現在、この新技術を利用した「スピントランジスタ」と呼ばれる不揮発性トランジスタの実現を目指した研究が世界規模で行われています。しかしながら、明確に不揮発機能を実証した例は皆無です。本研究は研究者が有する界面制御技術を生かした独自のスピントランジスタを作製し、世界初の不揮発機能を実証することを目的とします。
佐藤 久子 科学技術振興機構 研究員 キラル金属錯体ネットワーク膜の製造とVCD/RASコンカレント測定法の開発 分子1個を機能素子に用いることを目指したデバイス(分子デバイス)の実現には、固体面上で目的分子を規則配列・配向させる方法の開発が重要課題となります。本研究では、これに対する一つの試みとして、キラルな多核金属錯体の界面反応を利用して、多様な二次元ネットワーク構造を構築します。さらに、そのキラルネットワークの界面構造解析のために、振動円偏光二色性(VCD)と反射吸収赤外法(RAS)を組み合わせたコンカレント測定方法を開発します。
末益 崇 筑波大学大学院数理物質科学研究科 助教授 機能性へテロ界面によるSi系高効率薄膜太陽電池 太陽電池で生産される電気の殆どはSiで作られていますが、Siは光を吸収する能力が悪いため、太陽電池を厚くする必要があります。近年、爆発的な太陽電池の需要に供給が追いつかない可能性が指摘されており、Siに代わる高効率薄膜太陽電池の開発が重要となっています。本研究では、資源の豊富なSiとアルカリ土類金属をベースとする新しい太陽電池を開発し、この分野にブレークスルーをもたらすことを目指します。
高田 正基 大阪大学大学院基礎工学研究科 特任助手 強磁場走査トンネル分光法による単一分子のスピン計測 本研究では、強磁場中走査トンネル分光法や反強磁性探針によるスピン偏極トンネル分光法、及び新規に開発する磁気共鳴走査トンネル分光法を用いて、分子/電極界面での分子のスピン状態を観察します。分子薄膜のスピン配列を可視化し、個々のスピンのg因子や交換相互作用といった基礎的な知見を得ます。また、スピン緩和時間といった時間軸の情報も得ます。本研究により、単一分子のスピンの高速制御の可能性が開け、単一分子量子計算素子の開発へ展開できます。
中西 周次 大阪大学大学院基礎工学研究科 助手 興奮性固液ナノ界面での物質ベクトル輸送 本研究では、ナノ構造化した興奮性固液界面を電気化学的に設計・制御することにより、固液界面上に、場所によって速さの異なる、そして任意のタイミングでその向きを変えることのできる、時空間階層性を持つ場の流れを誘起します。これにより性質に依存したナノ粒子などの分類、局所界面反応の誘起、局所界面微細構造の構築などを実現します。
Hwang Harold
(ファン ハロルド)
東京大学大学院新領域創成科学研究科 助教授 静電エネルギーの発散を利用した人工界面相の創成と制御 ナノサイエンスにおいて最も重要な目標は、物質を原子ナノスケールで制御し、新しい機能を作り出すことです。本研究では、複合酸化物界面を原子スケールで制御し、絶縁体界面で形成される二次元金属状態や、界面での磁性など、バルクでは得られない特殊な界面状態を実現することを目指します。電子デバイス研究は、界面の理解が全てであると言っても過言ではありませんが、本研究の成果は新奇なデバイスの開発に直結すると考えられます。
福井 賢一 東京工業大学大学院理工学研究科 助教授 光応答分子探針を利用した界面相互作用の抽出計測 単一の三脚型分子を探針にして、測定対象とする分子内の(又は表面の)官能基との間に働く力を高い空間分解能で計測する新しい手法を研究します。探針分子に導入した光異性化骨格により、光の波長に応じて先端構造を変え、異なる探針先端で同一箇所を測定することで官能基間の相互作用情報を抽出して計測します。金属微粒子/酸化物界面近傍の構造・化学情報や、細胞膜の構造と機能発現に関する観測・計測へ応用していきます。
堀 克敏 名古屋工業大学大学院工学研究科 助教授 細菌ナノファイバーの構造と接合界面の制御 驚異的な粘着性を示す細菌細胞の表層に発見した、直径数十nm、長さ数百nmのナノファイバーは、分子量30万近くの巨大蛋白質を主成分としており、その一次構造は300ものアミノ酸残基からなる配列が複数回繰り返されるユニークなものです。本研究では、この新しい生体高分子である細菌性ナノファイバーの高次構造と付着機構を解明することで、これまでにない新しい分子や細胞の界面接合技術やアレイ技術の開発を目指します。
宮田 隆志 関西大学工学部 助教授 分子応答性材料を用いたインテリジェントインターフェースの創製 医療・環境分野に関連する特定分子に応答して構造変化する分子応答性材料の表面を利用することにより、従来にないインテリジェントインターフェースを創製し、新規なナノ界面制御技術を研究します。特に、分子応答性材料からナノ粒子やナノ薄膜、マイクロ流路バルブ等を作製し、シグナル分子に応答する分子応答性表面を用いたセンシングシステムやドラッグデリバリーシステム、マイクロチップシステムの開発を目指します。
叶 深 北海道大学触媒化学研究センター 助教授 細胞膜の界面分子構造と機能性の解明 高い感度と界面選択性を持つ和周波発生(SFG)振動分光法を用い、細胞膜の界面分子構造と機能性発現の関係解明を目指します。励起光による共鳴効果を利用し、測定感度を一層高めると同時に、酵素などの生体分子との相互作用に伴う細胞膜の界面構造変化について分子レベルで計測します。さらに、溶液中に分散したリポソームやベシクルなどの微粒子の界面構造についてSFG散乱法により調べ、界面の構造制御により、新しい機能性の創製を目指します。
吉田 直哉 東京大学国際・産学共同研究センター 助手 固液界面におけるダイナミックな相互作用の制御 本研究では、固液界面に働く相互作用の理解を深めるとともに、その新しい応用分野開拓を目指し、基盤研究としての微小あるいは微量の表面変化による固液界面でのダイナミックな相互作用制御・スイッチングと、その応用技術としての濡れ性変化による微小流体運動制御および濡れ性変化を検出方法とした分子認識・センシング技術開発を行い、より精密に相互作用を制御した固液界面を設計・構築する指針獲得を目指します。
(五十音順に掲載)

<総評> 研究総括:川合 眞紀(東京大学大学院新領域創成科学研究科 教授、理化学研究所 川合表面化学研究室 主任研究員)

 界面の制御は、材料科学や生命科学のほとんど全ての先端分野で興味ある現象や機能発現に関わっています。ナノスケールレベルの界面の観測や分析手法の開発、およびそれによる知識の蓄積、界面のナノ構造制御技術などを背景とした独創的な着想をもつ研究を対象として選考を実施しました。
 本研究領域の提案に対し、国公立大学、独立行政法人の研究機関、民間企業等の方々から計207件もの応募が有りました。応募内容は、単分子や単一スピンレベルの分析や分子反応ダイナミクスなど高度な分析手法開発を主体とする研究、半導体スピントロニクスや強相関電子系の界面物性研究、キラルな分子系、インテリジェントゲルなどソフトな分子系界面の研究など、多岐に渡り、界面科学の基本的な共通概念の構築に繋がる研究が提案されました。また、細菌の接合や表面の濡れなどのマクロな現象をナノスケールで理解することを目指す研究なども提案されました。これらの応募課題を10名の領域アドバイザーが書面審査し、28件の面接対象課題を選考いたしました。2日間にわたる面接で本年度は14件が採択課題に選ばれました。選考にあたっては、提案者自身のオリジナリティおよび、物質科学の新たなブレークスルーに繋がり得るかなどを重視して選考致しました。面接に残るには約7倍、採択されるには約15倍の狭き門を通過しなければならないことになりました。今回採択されなかった課題の中には、面接に選ばれなかった課題を含めて多くの非常に興味深い提案課題があったことは申すまでもありません。
 本研究領域は、材料・生命科学の広範な研究分野を対象としておりますので、応募いただいた研究内容も多くの研究分野にまたがっております。この領域では、研究者個人の発想に基づく創造的な研究に重点を置いていますが、異分野の研究者間の交流を通じて新しい発見や発明が生まれることも多いと考えています。この領域が物質科学の新たなブレークスルーに繋がる役目を担えることを期待しています。