JSTトッププレス一覧科学技術振興機構報 第332号(資料2)新規採択研究代表者・研究者及び研究課題 > 研究領域:「デジタルメディア作品の制作を支援する基盤技術」
(資料2)

平成18年度 戦略的創造研究推進事業(CRESTタイプ、さきがけタイプ)
新規採択研究代表者・研究者及び研究課題(第2期)


【さきがけタイプ】
11 戦略目標 「メディア芸術の創造の高度化を支える先進的科学技術の創出」
研究領域 「デジタルメディア作品の制作を支援する基盤技術」
研究総括 原島 博(東京大学大学院情報学環・学際情報学府 教授)

氏名 所属機関 役職 研究課題名 研究課題概要
筧 康明 東京大学大学院学際情報学府 博士課程/日本学術振興会特別研究員 アート表現のための実世界指向インタラクティブメディアの創出 本研究では、インタラクティブアート分野における芸術表現の向上を目標とし、われわれの実際に生活する空間をターゲットにした実世界指向インタラクティブメディアの創出およびその応用を行います。ユーザーに負荷をかけない形での環境・状況に応じた適切な映像提示手法および自然で直感的なインタラクション手法の検討・実装、さらにはそれらの技術を基盤とした作品制作およびアーティストのためのプラットフォーム構築を行います。
木村 朝子 立命館大学情報理工学部 助教授 空間型メディア作品を強化する7つ道具型対話デバイス 空間型のインタラクティブ・アート&エンターテインメントに幅広く用いられ、対話型操作を円滑にしてメディア作品の価値を高めるとともに、創作者の創作意欲を増すような新しい道具型対話デバイスを各種提案・提供することを目的とします。実世界指向のグリップ感、操作感のある直感的対話デバイスを各種開発し、空間型メディア作品に適用する。近未来の汎用ヒューマンインターフェースとしても生き残れるようなデバイスを志向します。
野口 靖 東京工芸大学芸術学部 講師 Locative Media(ローカティブメディア)を利用した芸術/文化のための視覚表現技術開発 本研究の目的は、3Dグラフィックスを利用した「時空間」マッピングシステムとネットワーク上のデータベースを統合し、更にはコンピュータビジョン(以下CV)やGPS機能を連携させることです。
この研究成果をAPIやソフトウェアの形で広く一般に提供していく事により、特に歴史/文化的コンテンツのアーカイブ化のケースにおいて、Locative Media技術を利用したメディア芸術表現が可能になることを目指します。
三谷 純 筑波大学大学院システム情報工学研究科 講師 折紙のデジタルアーカイブ構築のための基盤技術とその応用 様々な折紙の展開図情報をデジタル化することで、折紙のデジタルアーカイブを構築する。これに付随して、折紙の展開図を効率的に入力するための専用エディタ、展開図から折りたたみ後の形を推定するアプリケーションの開発などを行う。本研究により折紙の検索、分類などを行えるようにし、新規作品の設計支援や折紙研究の基盤ツールとして役立てる。また折紙の理論をベースとした工学、数学、芸術、文化の領域への発展を目指します。
山口 真美 中央大学文学部 教授 子どもの知育発達を促すデジタルメディアの作成 0~3歳までの言語習得以前の子供を対象に、感覚を通じて知育発達を促すデジタルコンテンツを開発する。現代日本の社会・教育上の問題として、社会的能力が欠陥した子供の存在が指摘されています。こうした社会情勢の中で、近年発達した子どもの脳科学の知見に基づき、子どもの社会的能力を感覚レベルから促進する、日本独自のメディアコンテンツの開発を考えます。
(五十音順に掲載)

<総評> 研究総括:原島 博(東京大学大学院情報学環・学際情報学府 教授)

 「デジタルメディア作品の制作を支援する基盤技術」研究領域は、今年度が3回目で最後の募集となります。
 映画、アニメーション、CGアート、ゲームソフトなど、コンピュータ等の電子機器を駆使したメディア芸術は、まさに芸術と科学技術の融合領域であると言えます。これはわが国が得意としている文化の魅力を世界に向けて発信するためにも、またわが国のこの分野の産業競争力を高めるためにも重要な領域になりつつあり、このような芸術にも関わる研究領域が設定されたことは、わが国の科学技術の研究開発において画期的なことであると考えております。
 デジタルメディア作品の質の大幅な向上を図るためには、芸術的な感性だけでなく、作品の創造を支える科学技術の研究開発が必須です。この観点から本研究領域では、メディア芸術作品の制作を支える先進的・革新的な表現手法、これを実現するための新しい基盤技術を創出する研究を対象としています。
 本研究領域の公募に対し、個人型研究(さきがけ)では56件の応募がありました。その内訳は、国公立・私立大学が約80%、独立行政法人・公益法人が約13%、民間企業・その他が約7%でした。これらの応募に対して、基盤技術、メディアアート、アニメ・映画、ゲーム、放送・ネットワーク等の分野の第一線で活躍しておられる10名の領域アドバイザーと共に厳正な審査をおこないました。
 すなわち、それぞれの提案についてまず書類審査を行い、特に内容の優れた12件を面接対象者として選考しました。面接選考に際しては、提案者個人の独創性、研究の新規性、研究規模の適切性などの観点から、実際の制作現場においてデジタルメディア作品制作の高度化に資する可能性のある基盤技術であることなどが重視されました。
 最終的に、本年度は5件の提案が採択され、応募に対して約11倍の競争率になりました。選考結果を総合的に見ると、直感的で操作性のあるインタフェースでコンピュータと対話ができる7つ道具、地域のさまざまな情報で歴史とともに芸術的なデジタルマップを作る技術、日本の伝統的・芸術的な折紙の設計図を描き仕上がり形状を表現する技術、言葉を覚える前の乳幼児を対象としたコンテンツ制作、複数の鑑賞者が日常の振る舞いと同様の形でメディアアートに参加できる技術など幅広い分野にまたがり、本領域の趣旨に合致した課題となりました。これまでと同様、技術の研究のみならずその開発成果を自ら作品制作することのできる研究者も参画しています。
 今回で当領域に参加する研究者が全て集まりました。乳幼児から大人までが楽しめ、またアニメ・ゲームから折紙などメディア文化全般に関わる幅広い分野で、日本発の新たなデジタルコンテンツの研究と制作に関わる研究者・アーティストが参加しました。今後この領域の研究や成果が、当分野の基盤技術のさきがけとなり、さらに多くの人に使われることにより技術基盤が拡がっていくことを期待します。