JST(理事長 沖村憲樹)は、独創的シーズ展開事業 委託開発の開発課題「カーボンナノチューブ液相合成装置」の開発結果を、このほど成功と認定しました。
本開発課題は、物質・材料研究機構主席研究員 安藤寿浩らの研究成果を基に、平成15年3月から平成18年3月にかけて株式会社マイクロフェーズ(代表取締役社長 太田慶新、茨城県つくば市鬼ヶ窪1147-9、資本金1000万円、電話:029-848-3322)に委託して、企業化開発(開発費約170百万円)を進めていたものです。
本新技術は物質・材料研究機構 ナノ物質ラボ独立研究チーム安藤寿浩らの研究成果*で、シリコン等の基板をエタノールなどのアルコール系有機溶液の中で加熱することによって、有機溶液が基板表面で分解されカーボンナノチューブ注1として成長するという技術をもとにしています。
開発された合成装置(図1)は、ナノチューブとなるカーボンをエタノールなどのアルコール有機溶液で供給するところに大きな特徴があります。そしてこの技術により合成されたカーボンナノチューブ(図2)は、ススなどの副生成物が極めて少なく、基板の垂直方向にそろった状態で成長させることが可能です。
本成果により、未だ実用化開発が進んでいないカーボンナノチューブ関連技術の応用技術開発の進展に貢献することが期待されます。
本新技術の背景、内容、効果の詳細は次の通りです。
(背景) 高品質なカーボンナノチューブを合成可能な装置が求められていました。
現在カーボンナノチューブの合成方法として様々な方法が研究開発されていますが、ススなどの副生成物も大量に生成してしまいその中から目的とするカーボンナノチューブを選別しなければならない・合成時間がかかる等の問題がありました。また、実用化開発のためには基板上に垂直方向にそろった状態で合成されたカーボンナノチューブが求められていましたが、大きな面積の基板上にそのようなカーボンナノチューブを安定して合成することは困難でした。
(内容) 高品質なカーボンナノチューブを基板上に合成可能な装置を開発しました。
開発された技術は、ナノチューブとなるカーボンをエタノールなどのアルコール有機溶液で供給することが独創的で、その溶液中で目的の基板を加熱することによって、真空にする工程を省略してカーボンナノチューブを合成する事が可能です。合成されたカーボンナノチューブは、ススなどの副生成物が極めて少なく高品質であるという特徴があります。また、カーボンの分解とチューブの成長が基板表面で同時進行しているため、カーボンナノチューブを基板表面に対し垂直方向にそろった状態で高速に合成させることが可能となります。
開発された合成装置は加熱条件等を調整することによって、シリコンや石英などの無機材料だけでなく、ステンレス、チタン、白金、アルミなどの金属材料を基板としてカーボンナノチューブを合成することが可能です。
(効果) カーボンナノチューブ関連の応用技術開発に貢献することが期待されます。
カーボンナノチューブ関連技術は現在非常に注目されており、民間企業各社や各種研究機関より様々な研究成果が発表され様々な効果が期待されていますが、実用化レベルの応用開発はあまり進展していません。本開発技術をもとに、実際に高品質なカーボンナノチューブを多くの技術者が手軽に作成し、評価・研究することができるようになることによって、燃料電池用セパレータ注2や電子部品用ヒートシンク注3などのエレクトロニクス分野やエネルギー分野でさらに応用開発が加速されることが期待されます。
株式会社マイクロフェーズでは今春より各社にカーボンナノチューブを合成させた5~120mm角の基板サンプルを提供しており、また本開発成果をもとにさらに改良をすすめた安価で手軽な卓上型合成装置(図3)の販売を開始しています。
【用語解説】
注1 カーボンナノチューブ: 炭素のシートを丸めた構造の直径1~数十nmの円筒状物質。その特異な構造から、軽量、高強度、電気や熱の伝導性がよい等の特徴がある材料として盛んに研究開発が行われています。
注2 燃料電池用セパレータ: 燃料電池の構成要素の1つで、電解質膜と電極を挟み込むように配置され、高い電気伝導性が要求されます。
注3 電子部品用ヒートシンク: 電子部品を冷却するために熱を逃がすための装置で、高い熱伝導性が要求されます。
<お問い合わせ先>
株式会社マイクロフェーズ
代表取締役社長 太田慶新(オオタ ケイシン)
〒300-2651 茨城県つくば市鬼ヶ窪1147-9
TEL: 029-848-3322 FAX:029-848-3323
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産学連携事業本部 開発部 開発推進課
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