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科学技術振興機構報 第292号

平成18年5月15日

東京都千代田区四番町5-3
科学技術振興機構(JST)
電話03(5214)8404(総務部広報室)
URL https://www.jst.go.jp

バガス(サトウキビかす)を利用した多機能性食物繊維の製品化に成功

(メタボリックシンドローム予防効果も期待)

 JST(理事長 沖村憲樹)は、独創的シーズ展開事業委託開発の開発課題「バガスを利用した機能性食物繊維」の開発結果を、このほど成功と認定しました。
 本開発課題は、独立行政法人農業・食品産業技術総合研究機構食品総合研究所(食総研)柏木豊、独立行政法人森林総合研究所(森林総研)大原誠資らの研究成果を基に、平成16年1月から平成17年12月にかけて株式会社琉球バイオリソース開発(代表取締役 稲福盛雄、本社 住所:沖縄県国頭郡本部町字豊原606-2、資本金 3,500万円、電話:0980-48-4325)に委託して、企業化開発(開発費約160百万円)を進めていたものです。
 沖縄県では、製糖工場からサトウキビ注1の圧搾かす(バガス注2)が年間約20万トン発生しており、現状ではボイラー燃料として再利用されるのが主な用途で、食品素材として利用されたことはありませんでした。
 本技術では、バガスの強固な繊維構造を爆砕注3により破壊させ、キシラナーゼ活性注4の高い麹菌にて発酵処理をおこない、キシロオリゴ糖を効率よく生成・蓄積させるものです。これにより、腸内環境改善効果、抗酸化活性能、血糖値上昇抑制能、中性脂肪上昇抑制能を有したメタボリックシンドローム注5予防効果の高い食物繊維素材の製造を可能にしました。得られた素材は安全性を確認し、有用性についても、ビフィズス菌の増加や、血糖値低下、中性脂肪低下、抗酸化作用というような効果がみられました。
 本技術による食物繊維は、健康食品市場における新商品と位置づけし、現在本格的なファイバーフードおよびサプリメントとして市場導入の準備を進めている段階です。また、現代人に不足がちな食物繊維を手軽にとれることにより、昨今問題となっているメタボリックシンドロームの予防にもつながることが期待されます。一方、さとうきび産業においても、廃棄処理に苦慮していた圧搾かす(バガス)から機能性食物繊維素材を生み出す、ゼロエミッションな生産システムの構築に貢献できます。


本新技術の背景、内容、効果の詳細は次の通りです。

(背景)  生活習慣病のリスク低減のため、手軽にとれる食物繊維素材が望まれていました。

 沖縄県では、製糖工場からサトウキビの圧搾かすであるバガスが年間20万トン近く発生しています。現状では、製糖工場のボイラー燃料として用いられているのが主な用途です。バガスの主成分は繊維質ですが、台風の暴風雨に耐えられるよう品種改良が行われた結果、非常に強固な繊維構造をしているため、粉砕しても食感が悪い上、発酵、酵素処理による分解が困難であり、今まで食品素材として利用されたことはありません。
 一方、日本人の食生活は、欧米化が進み野菜中心から肉食中心の食生活となり、厚生労働省の発表している食物繊維の摂取目安量の約半分の量しか摂取していない現状があります。食物繊維が不足すると、腸内環境の悪化、不要成分の腸内での長期滞留などが発生し、生活習慣病のリスクが高くなると言われております。
 よって手軽に食品に混ぜ入れることができる安い食物繊維素材の開発が望まれておりました。

(内容)  月産2トンのパイロットプラントでバガスの爆砕・発酵処理方法確立
その安全性・有効性を実証しました。

 本新技術は、サトウキビの絞りかすであるバガスを爆砕処理により、強固な繊維構造を破壊した上で、キシラナーゼ活性の高い麹菌により発酵処理をおこない、キシロオリゴ糖を効率よく生成・蓄積させ、健康食品として利用できる食物繊維を製造するものであります。
 本新技術の開発では、爆砕と発酵を組み合わせた製造プロセスの効率化とスケールアップ技術を確立した後、製品の機能や安全性について系統的な評価試験を行いました。
 開発成果の第1は、食総研との共同研究で麹菌Aspergillus sojae(アスペルギルス・ソーヤエ)からキシラナーゼ活性が高くキシロシダーゼ活性注6が低い株の効率的な発酵を実現しました。
 第2は、2トン/月のパイロットプラント(図1)の設計・製作・運転により、プロセスの最適化とスケールアップ技術を確立しました。プロセスは、原料の洗浄から始まり、乾燥、粗粉砕、爆砕、発酵、乾燥、微粉砕、品質検査の工程から構成されます。爆砕条件を変えた運転により、バガスを効率よく発酵させる最適な圧力と持続条件を決定することが出来ました。プラント製品のサンプリング分析の結果、キシロオリゴ糖の含有率2%以上のプロセスを実現することができました。
 第3は、安全性評価試験、腸内環境改善効果、抗酸化活性測定等の機能性試験を行いました。
 安全性試験については、急性毒性試験として雌雄30匹ラットによる単回投与試験の結果、14日間の観察期間中全例に異常が見られず、許容の摂取量が決められました。亜急性毒性試験として、雌雄60匹のラットに90日間連続投与試験を行いましたが、血液検査、生化学検査、臓器重量、病理所見において異常は認められませんでした。変異原性試験では、規定の菌による試験の結果、突然変異誘発能を有さないものと判定され、食品として安全性が確認されました。
 ヒト腸内改善効果試験の結果は、便中の腸内細菌、アンモニア定量の結果、本品摂取量として10g/日が有効でビフィズス菌数が増加することが確認されました(図2)。
 医療法人 東札幌病院(石谷邦彦理事長)において実施した63名のボランティア試験の結果報告では、副作用と考えられるものはありませんでした。便秘や便の性状改善は予想されましたが、さらに血糖値低下(図3)、中性脂肪低下(図4)という注目すべき結果が得られました。これらの結果は、メタボリックシンドローム予防への効果が期待できますので、現在、メカニズムの解明に取り組んでいます。
 抗酸化活性については、熱水抽出物、80%エタノール抽出物について、抗酸化活性指標のポリフェノール量が、生のバガスに比べて約7倍も増加していることが確認されました(図5)。さらにヒト体内での抗酸化のバイオマーカーである尿中の8-OHdG注7においては、摂取することで有意にその量は低下しており、体内での酸化ストレスも軽減していることが明らかになりました(図6)。この効果の主原因は、森林総研との研究でフェルラ酸など4種類の抗酸化物質の増加によるものと判明しました。
 現在、本新技術による食物繊維は、株式会社コバショウならびに株式会社ウエルネスムーブメントと共同で、現在本格的なファイバーフードおよびサプリメントとして市場導入の準備を進めております(図7)(図8)(図9)。

(効果)  メタボリックシンドローム予防の効果が期待される健康食品です

 本技術を用いて製造した食物繊維食品には、腸内環境改善効果、抗酸化活性能、血糖値上昇抑制能、中性脂肪上昇抑制能といった効果が見られるため、これらの食品が普及することにより、食物繊維不足で罹患率の増加が問題となっている大腸癌や糖尿病、肥満といった生活習慣病や、メタボリックシンドロームを予防する効果が期待されます。
 また、サトウキビ産業にとっては、サトウキビを圧搾して砂糖を生産し、その圧搾かすであるバガスから機能性食物繊維素材を生産するというゼロエミッションの生産システムの構築に貢献できます。

<用語解説>
図1 パイロットプラント 爆砕装置
図2 ビフィズス菌の増加
図3 血糖値の高い方(空腹時血糖値110mg/dl以上の方)への影響
図4 中性脂肪値が高い方(150mg/dl以上の方)への影響
図5 総ポリフェノール量
図6 抗酸化活性の評価
図7 ファイバーフード食品「製品例1」
図8 ファイバーフード食品「製品例2」
図9 発酵バガス粉末
開発を終了した課題の評価

<お問い合わせ先>

株式会社琉球バイオリソース開発
研究室長 藤野 哲也(フジノ テツヤ)
〒905-0200 沖縄県国頭郡本部町字豊原606-2
TEL: 0980-48-4325  FAX: 0980-48-3368

独立行政法人科学技術振興機構 産学連携事業本部
開発部 開発推進課
菊地 博道(キクチ ヒロミチ)、永田 健一(ナガタ ケンイチ)
〒102-8666 東京都千代田区四番町5-3
TEL: 03-5214-8995  FAX: 03-5214-8999