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■開発した技術概要


開発した技術概要 開発した技術概要

 トレチノイン療法とはトレチノイン(オールトランスレチノイン酸)の外用薬をしわ・にきびの治療医薬品として使用する治療法のことです。トレチノインはビタミンA(レチノール)の活性体で、ビタミンAの約50-100倍の効果があると言われ、米国ではすでにFDAがこの治療法を認可しています。レチノイン酸の分子構造の酸の部分を炭酸カルシウムでキャップしたため、副作用である皮膚刺激及びレチノイン酸の化学的不安定性(光や熱により化学構造が破壊される)も大幅に改善されました。また、NANOEGGTMの粒子径は非常に小さくしかもその表面は水にも油にもなじむ両親媒性構造であるため皮膚角質層への透過性が大幅に改善され、表皮層に短時間で到達し、表皮内(マルピギー層注1)に留まることが出来るため、基底細胞の増殖、有棘細胞及び顆粒細胞の分化を効率よく促進させ、皮膚のターンオーバー注2を加速させることが出来るようになりました。 その結果、シミの原因であるメラニン色素を排出し、大きな副作用を伴わずに短時間でシミの改善を達成します。また、表皮細胞の分化・増殖に伴いヒアルロン酸を産生するため、しわの改善も短時間で可能になりました。  また、皮膚再生・様々な薬物の経皮吸収の新しいメカニズムを開発しました。皮膚の細胞間脂質(リオトロピックラメラ液晶注3構造)構造を相転移させる外用基剤(NANOCUBETM)を皮膚に塗布すると、ホメオスタティック注4な応答により皮膚再生を誘発、同時に適切な薬物の表皮内導入が可能となります。さらに従来不可能とされてきた高分子量の薬物や水溶性薬物の高効率な経皮吸収が世界で初めて可能になりました。

■用語説明

注1)マルピギー層:表面から角質層、透明層、顆粒層、有棘層、基底層の5つに区別される皮膚のうち、有棘層を形成する10数層のこと。
注2)ターンオーバー:皮膚の新陳代謝。
注3)リオトロピックラメラ液晶:物質の濃度により構造が変化する層状構造の液晶(液体と固体の中間体)。
注4)ホメオスタティック:生体を安定した恒常的状態に保とうとする仕組み。