JSTトッププレス一覧科学技術振興機構報 第235号 > 用語の説明

<用語の説明>

*1 神経繊維(軸索)
神経回路の配線に相当する神経細胞の突起。先端に成長円錐と呼ばれる手のひら状の構造があり、道しるべ分子の受容体(センサー)が集まっている。成長円錐は目的の神経細胞までたどり着くと、神経と神経を接続する構造(シナプス)に変わる。
*2 化学走性仮説
1世紀前にスペインの神経解剖学者Ramon y Cajalが提唱した神経回路形成メカニズムのモデル。正中線に引き寄せられるかの様に伸びる発生中の神経を見て、「神経線維は分泌性分子が作る濃度勾配に誘導される」と予言した。この仮説は1994年に分泌性の軸索誘導分子"ネトリン"が同定された事により証明されたとされている。しかし2000年に、ネトリンの分布を決めるのは拡散ではなく、ネトリンの分布を制御する分子(フラズルド/frazzled/fra)による能動的なメカニズムによることが分かった(平本ら)。この発見により化学走性仮説は有力なモデルではなくなり、神経回路形成現象に対して、これに代わる新たな解釈が必要となった。
*3 正中線
動物の体の左右を2等分する腺。脊椎動物でもショウジョウバエでも中枢神経系の正中線には特殊な細胞が存在し、神経繊維を誘導する分子を分泌している。
*4 ROBO
1.培養下で神経繊維に対して反発作用を持つ"スリット(後述)"のセンサー(受容体)。ROBOがないショウジョウバエ変異体では前後に伸びるはずの神経が誤って正中線方向に投射する。変異体では神経繊維の走行パターンがまるでロータリー(イギリス英語:roundabout)の様に見える事から、遺伝子はROUNDABOUT(略してROBO)と名づけられた。この表現型も化学走性仮説を念頭に解釈されており、「正中線からの反発場が受けられなくなったため」というモデルが受け入れられている。
2.ショウジョウバエROBOの相同分子であるヒトのROBO3遺伝子は、HGPPS症候群(脊柱側彎をともなう水平注視麻痺症候群)の原因遺伝子である。HGPPS症候群では、眼球の動きに関わる脳の神経配線に異常があり、眼球を左右に動かすことができない。脊柱側彎のメカニズムはまだ解明されていない。