資料4

選定した研究領域及び研究総括の評価

研究領域

1.共創知能システム
2.マクロ量子制御
3.ヒト膜受容体構造
4.分化全能性進化

研究総括

1.浅田 稔(大阪大学 大学院工学研究科 教授)
2.上田 正仁(東京工業大学 大学院理工学研究科 教授)
3.岩田 想(インペリアルカレッジロンドン 生命科学科 教授)
4.長谷部 光泰(自然科学研究機構 基礎生物学研究所 教授)

評価結果
1. 研究領域「共創知能システム」は、人間型ロボット(ヒューマノイド)の構築を通じて、ヒト知能創発の構成的理解をめざし、ヒューマノイドの新たな設計・製作とともに運動学習とコミュニケーションを中心とした構成モデルによる計測・実験検証を通じ、ヒューマノイドのハードとソフトの革新的展開を可能にする基盤技術を創出しようというものである。
本研究領域において、運動、認知、コミュニケーションといった様々な概念の創発過程を構成的に理解することが期待される。これにより本研究領域は、戦略目標「教育における課題を踏まえた、人の生涯にわたる学習メカニズムの脳科学等による解明」に資するものと期待される。
浅田稔氏は、本研究領域に関連するヒューマノイド研究において、運動・認知発達に関する先導的な研究を行ってきており、研究総括として相応しいと認められる。
2. 研究領域「マクロ量子制御」は、絶対零度近くに冷却された原子あるいは分子集団を形状可変な電磁ポテンシャルで超高真空中に孤立させた理想環境下に置くことで、原子(分子)間相互作用、原子―光相互作用、不確定性関係を高い精度で制御する方法を確立し、その基礎の上に原子数密度、温度、相互作用の強さなどの物質パラメーターとその量子状態および外部環境パラメーターを連続的に変化させる極限操作法を開拓し、マクロな量子系の未踏領域を系統的に探索するものである。
本研究領域は、光によって、極低温原子集団の原子間相互作用を精密に制御することにより、新しい化学の創出、新しい強相関系の研究手法の開拓、さらには光格子量子コンピュータへの発展といった、新たな物質科学の創出が期待される。これにより本研究領域は戦略目標「光の究極的および局所的制御とその応用」に資するものと期待される。
上田正仁氏は本研究領域の重要な基礎となる量子物理学の理論における先導的な研究を行ってきており、研究総括として相応しいと認められる。
3. 研究領域「ヒト膜受容体構造」は、これまで結晶化が困難なために、構造解析が進んでいない細胞膜中に存在する膜蛋白質、特にヒトのG蛋白質共役受容体(GPCR)について、系統的な構造解析技術の確立を目指すものである。具体的には、酵母を用いた蛋白質大量発現系、親水性を増大する蛋白質を結合することによる結晶性向上技術、ロボティクス応用による微少量サンプルからの結晶化技術と効率的で低ノイズのX線回折システムを確立し、創薬に重要とされるGPCRについて構造決定を行う。
本研究領域は、医薬の主要なターゲットでありながら、構造解析の進んでいないGPCRの構造解析技術を確立することで、創薬技術の大きな発展が期待される。これにより本研究領域は戦略目標「遺伝子情報に基づくたんぱく質解析を通した技術革新」に資するものと期待される。
岩田想氏は本研究領域の重要な基礎となる膜蛋白質の構造解析に関する先導的な研究を行ってきており、研究総括として相応しいと認められる。
4. 研究領域「分化全能性進化」は、個体の再生時における遺伝子発現の高頻度なリプログラミングを起こす植物を解析することで分化全能性のメカニズムの解明につながるとの視点のもと、遺伝子発現制御の網羅的解析によって、関連因子の同定を目指す。具体的には、リプログラミングの経時的解析に有効と考えられる新規モデル生物ヒメツリガネゴケにおいて、条件遺伝子破壊やバイオイメージングなどの解析手法を用い、遺伝子の機能や細胞内動態を解析する。さらには他生物で既に得られている関連知見と比較することにより分化全能性の進化の推定を試みる。
本研究領域においては、ゲノムレベルの解析に基づく分化全能性における分子機構解明が期待される。これにより本研究領域は戦略目標「代謝調節機構解析に基づく細胞機能に関する基盤技術の創出」に資するものと期待される。
長谷部光泰氏は本研究領域に関連する植物の発生・進化について先導的な研究を行ってきており、研究総括として相応しいと認められる。
評価者

科学技術振興審議会 基礎研究部会
部会長竹内 伸
委員岩渕 雅樹、大泊 巌、小柳 義夫、郷 通子、榊 佳之、東倉 洋一、中西 準子、村橋 俊一
専門委員甘利 俊一、井上 佳久、寒川 賢治、五神 真、小原 雄治、新海 征治、曽根 純一、細野 秀雄、吉里 勝利