JST(理事長 沖村 憲樹)は、独創的シーズ展開事業 委託開発(注1)の開発課題「低加速度水素吸蔵合金アクチュエータ」の開発結果を、このほど成功と認定しました。
本開発課題は、東京大学教授 伊福部達氏らの研究成果を基に、平成14年2月から平成17年2月にかけて、コペル電子株式会社(代表取締役 前角典男、神奈川県厚木市船子43、資本金 4130万円、電話:046-247-7366)に委託して、企業化開発(開発費約74百万円)を進めていたものです。
水素吸蔵合金は、温度や水素圧力を変化させることにより、体積にして約千倍程度の水素を水素化物として吸蔵したり、放出したりできる機能性合金です。特に1968年に希土類系水素合金が発見されてより、その性質は興味を持たれ研究されてきましたが、まだ実用的に使われている分野は限られております。
本開発では、特に水素吸蔵合金の熱を水素圧力(機械エネルギー)に変えることができるという点に着目し、ペルチェ素子*1)などで、水素吸蔵合金を加熱、冷却することにより、合金から水素を放出・吸蔵させ、そのガス圧によってピストンを作動させる小型で静かなアクチュエータの開発を行いました。
開発したアクチュエータは、 大きな出力重量比が得られ、小型・軽量化が図れる、
機械的な柔らかさに優れ、人などに装着するときに安全である、
静粛性に優れるので、生活環境に調和する、
水素吸蔵合金を選ぶことにより、廃熱などの低品位熱源を利用できる、
単純な駆動機構なので小型化が可能、という特長を持っており、今後福祉機器や災害救助機器をはじめとして、静粛性や小型で大出力を求める分野で用いられることが期待されます。
(注1)独創的シーズ展開事業 委託開発は、平成16年度まで、委託開発事業として実施されてきました。
本新技術の背景、内容、効果の詳細は次の通りです。(背景) 小型で人に優しい福祉機器が求められています
現在、電磁モータや油圧式及び空圧式アクチュエータといった様々なアクチュエータが様々な場面で使用され、私たちの生活に欠かせない動力源になっております。
これらは、位置制御の正確性や耐久性、コスト面などで優れております。
しかしながら
発生力を大きくしようとすると装置も大きくなり重くなったり
人との接触時の安全性に配慮した機械的な柔らかさに欠けたり、
騒音が発生したり
という問題点がありました。
(内容) 水素吸蔵合金を利用した新しいタイプのアクチュエータ
本新技術は、水素吸蔵合金を加熱させることによって起こる水素の放出に伴う体積増加と、合金を冷却させることによって起こる水素の吸収に伴う体積減少によってピストンを動作させる新しい駆動方式のシリンダ型アクチュエータに関するものです。
具体的には、図1にありますように、水素吸蔵合金とペルチェ素子などの加熱冷却装置を水素が漏れないような高圧容器の中に入れ、それとシリンダーをつなぐことにより、水素吸蔵合金を加熱、冷却することにより、合金から水素を放出・吸蔵させ、そのガス圧によってピストンを作動させる仕組みになっております。
歯車もコンプレッサーなどの設備も要らない非常に単純な機構のため、静粛性に優れており、また水素吸蔵合金は約千倍の体積の水素を吸蔵できるため、出力の大きさに比べて、装置の小型化が図れるという特長をもちます。また、水素吸蔵合金を選ぶことにより加熱方法を廃熱とすることも可能であり、機械的な動きの柔らかさが存在するという特長もあります。
(効果) 5つの特長をもつアクチュエータ
本新技術による得られる水素吸蔵合金アクチュエータは、
大きな出力重量比が得られ、小型・軽量化が図れる
機械的な柔らかさに優れ、人などに装着するときに安全である。
静粛性に優れるので、生活環境に調和する。
水素吸蔵合金を選ぶことにより、廃熱などの低品位熱源を利用できる
単純な駆動機構なので小型化が可能
といった特長を有するため、福祉機器や災害救助用具等に利用されることが期待されます。
【用語解説】
*1)ペルチェ素子この発表についての問い合わせは以下の通りです。
コペル電子株式会社 | 楢山一男 水野博隆 |
TEL 046-247-7366 | |
JST 開発部 開発推進課 | 菊地博道 住本研一 |
TEL 03-5214-8995 FAX 03-5214-8999 |