用語説明

*1 ASK1(Apoptosis signal-regulating kinase 1):  細胞の外からの刺激を遺伝子が存在する核の中にまで伝えるには、MAP(Mitogen-activated protein)キナーゼ経路と呼ばれるタンパク質のリン酸化による情報伝達のリレーが必要である。ASK1はこのMAPキナーゼ経路の最も上段に位置する細胞内タンパク質リン酸化酵素であり、活性酸素などの細胞にとってストレスとなる刺激によって活性化し、リン酸化によって情報をリレーして、自発的な細胞死(アポトーシス)や細胞の分化などを誘導することがこれまで明らかとなっている。本研究チームが発見し、ASK1を働かなくしてしまったマウスも作成した。このマウスは、活性酸素によるアポトーシスや、アルツハイマー病の原因のタンパク質であるベータ・アミロイドによる神経細胞死も起こりにくくなっていることが分かっている。


*2 自然免疫システム:  ヒトなどの高等動物の場合、感染した病原体を排除する免疫系には、自然免疫と獲得免疫の2つのシステムがある。自然免疫システムは、病原体の特別な構造を識別して迅速に応答する防御機構であり、進化上、原始的な生物にも保存され、主に抗菌タンパク質や病原体を貪食して破壊する食細胞によって担われている。一方、獲得免疫システムは、主に免疫系細胞と呼ばれる特別に分化した細胞が産生する病原体を特異的に識別する抗体によって行われ、ヒトなどの高等動物しか持っていないことから、自然免疫システムを基礎として後に特別に進化したシステムであると考えられる。従って、自然免疫システムは、獲得免疫システムの効率の良い活性化に必須であり、またTLRファミリーの発見により、最近、その重要性が認識され注目されている。


*3 サイトカイン:  自然免疫システムでは、体内に病原体が感染した部位で、炎症を引き起こすことによってそれらを排除する。炎症による病原体の排除には、病原体を殺すための抗菌ペプチドを産生したり、病原体を食菌したりする特殊な細胞が働くことが必要である。サイトカインは、細胞どうしの情報の伝達に働くタンパク質で、炎症部位にそれら特殊な細胞を動員して活性化するために必須であり、炎症による感染防御応答の本体である。病原体の生体内への感染がTLRファミリーにより感知されると、細胞内での情報伝達のリレーが行われることによって、最終的にサイトカインが産生される。これまで、この細胞内での情報伝達のリレーがどのような仕組みで行われるのかについては不明であった。


*4 TLRファミリー  TLR(Toll-like receptor)は、細菌やウイルスなどの病原体のそれぞれの特有な構成成分をパターン別に識別する。ヒトでは10種類のファミリーが同定されており、この10種類でほとんど全ての微生物を認識する。例えば、細菌の膜成分をリガンドとするグループにはTLR2やTLR4があり、グラム陽性菌は主にTLR2によって、グラム陰性菌は主にTLR4によって別々に認識される。またTLR3やTLR7はウイルス特有のRNAの分子構造を識別する。それぞれのTLRファミリーには、アダプター分子と呼ばれるタンパク質群が特異的に結合しており、それらは下流に情報を伝達するために必須である。その中でも特に、TLR4受容体には多様なアダプター分子が結合し、複雑な情報伝達経路を持つことが分かっており、その詳細な解明が必要とされていた。