別紙1

令和元年度 新規採択プロジェクトの概要一覧

○「科学技術イノベーション政策のための科学 研究開発プログラム」

【研究開発プロジェクト】 実施期間:原則3.5年、研究開発費(直接経費):500万円以下/年

プロジェクト名 研究代表者
所属・役職
概要 研究開発に参画する実施者、
協力する関与者の所属機関
科学的エビデンスに基づく社会インフラのマネジメント政策形成プロセスの研究 貝戸 清之
大阪大学 大学院工学研究科 准教授

道路、橋梁、トンネルなどに代表されるインフラの老朽化が顕在化し社会問題となる中で、その補修や更新に関するマネジメント政策の重要性が増している。しかし、現状のマネジメント政策は、ベテラン技術者の長年の経験と知識に基づいて形成されており、暗黙知的な前例、経験主義であるという批判を免れない。

本プロジェクトでは、実務で獲得される点検ビッグデータの統計的劣化予測手法によりインフラの劣化曲線や寿命を推定し、これを科学的エビデンスとしてインフラのライフサイクル費用の最小化を達成するマネジメント政策の形成・実践につながる方法論を開発する。さらに、実務における政策立案者を交えた研究会を立ち上げ、研究者と実務者で研究成果を共有しながら、科学と政策の共進化を目指す。

  • 大阪大学 大学院工学研究科(NEXCO西日本高速道路学共同研究講座)
  • 京都大学 経営管理大学院
  • 東北大学 災害科学国際研究所
  • 一般財団法人阪神高速道路技術センター
  • 阪神高速技術株式会社
  • 株式会社パスコ
  • 株式会社三菱総合研究所
オープンサイエンスに基づく発達障害支援の臨床の知の体系化を通じた科学技術イノベーション政策のための提言 熊 仁美
特定非営利活動法人 ADDS 共同代表

福祉や教育などの対人支援は、個人と環境の相互作用による高文脈な意思決定の連続である。これらの「臨床の知」を体系化し、支援方法の標準化に役立てるためには、科学技術を活用したエビデンス創出を政策レベルで行っていくことが重要である。

本プロジェクトでは、発達障害児支援領域において、モバイルで利用可能な支援者エンパワメントツールの発展的開発および療育プロセスの分析などを行うとともに、事例研究型エビデンスを集積・解析するプラットフォームの構築を通じて、支援の質の向上と「臨床の知」の共有、市民や保護者が主体となった市民参加型オープンサイエンスモデルの開発とその妥当性の検討、科学技術の現場活用のための障壁・促進要因の実装科学的検討を行う。それらを通じ、「科学技術イノベーション政策のための科学」に寄与する知見を明らかにし、政策提言へつなげることを目指す。

  • 特定非営利活動法人 ADDS
  • 慶応義塾大学 文学部
  • 獨協医科大学 医学部
  • 三菱UFJリサーチ&コンサルティング株式会社
  • LiveYourDreams Inc.ほか
研究力の「厚み」分析による社会インパクトの予測と政策評価手法の開発 小泉 周
大学共同利用機関法人 自然科学研究機構 新分野創成センター 特任教授

昨今、大学や研究機関における研究力向上のため、さまざまな科学技術イノベーション政策や、それに基づくさまざまな具体的な取り組みがなされている。その際、EBPM(エビデンスに基づく政策立案)が必須となっている。しかし、従来の研究力分析は、過去の論文発表や被引用数など、過去に遡るエビデンスを基に現在の状況を評価するものとなっている。一方、中長期的な社会インパクトを予測し、それを評価に組み込むような、未来予測ができる政策評価手法が求められている。

本プロジェクトでは、ある一定の量や質を持つ研究力の充実度を「厚み」と定義、「厚み」指標と「社会インパクト」の指標間で年度ごとに相関性を検証する。相関が認められれば、どの「厚み」指標を把握すれば、それが先行指標となり、未来の「社会インパクト」(指標)がどうなるのか予測できるようになる。これにより、政策担当者に対しEBPMの手法として、研究開発投資などについて未来予測型の社会インパクトを組み込む新たな評価手法を与えることが可能となる。

  • 大学共同利用機関法人 自然科学研究機構 新分野創成センター
  • 東京工業大学 リベラルアーツ研究教育院
  • 慶應義塾大学 大学システムデザイン・マネジメント研究科
脱炭素社会の構築に向けた科学技術イノベーションの社会的受容性と価値創造の評価 高嶋 隆太
東京理科大学 理工学部 准教授

「統合イノベーション戦略」(2018年6月閣議決定)において、強化すべき科学技術分野として、AI技術をはじめ環境エネルギーなどがあげられている。いずれの技術においても、供給サイドのみならず需要サイドも含めたイノベーションが必要不可欠である。また、技術が社会の効用を増加させることが明らかでも、社会の受容性や技術に付随するインフラの効率的な構築が必要となる。

本プロジェクトでは、エネルギー技術に焦点を当て、脱炭素化技術、省エネルギー技術の社会的受容性と経済的な効用・便益の関係を明らかにし、世論調査、エージェントベースシミュレーション、経済実験を通じて、将来における社会と脱炭素化技術イノベーションの相互作用を示すことで、社会と脱炭素化技術に係る将来シナリオを構築することを目指す。

  • 東京理科大学 理工学部
  • 政策研究大学院大学 政策研究科
イノベーションを支えるデータ倫理規範の形成 横野 恵
早稲田大学 社会科学部 准教授

現在、あらゆる分野でパーソナルデータをはじめとした大量のデータを利活用したイノベーションの創出が期待されており、そのための多くの政策が展開されつつある。一方、データ利用の拡大に伴い、データの収集・流通・利用に関わる倫理的・社会的問題も顕在化しつつあり、データを取り扱う側には、単なるコンプライアンス(法令遵守)に留まらない倫理的・社会的配慮と責任あるデータ利用が求められている。諸外国ではこうした課題への政策的・実務的な取り組みが始まりつつあるが、日本では体系的な検討はほとんど行われていない。

本プロジェクトでは、データの利活用に伴って生じ得る倫理的諸問題を「データ倫理」としてとらえ、問題を明確化するとともに、実態調査や倫理学的分析に基づく体系的なデータ倫理のルールとそれに基づくガバナンスのモデルを提案することでデータ倫理を考慮すべき政策や取り組みに学問的根拠を提供することを目指す。

  • 早稲田大学 社会科学部
  • 早稲田大学 データ科学総合研究教育センター
  • 早稲田大学 大学院法学研究科
  • 早稲田大学 商学部
  • 京都大学 大学院文学研究科
  • 東京大学 医科学研究所
  • AWAKENS, Inc.

<プログラム総括総評> 山縣 然太朗(山梨大学 大学院総合研究部 教授)

「科学技術イノベーション政策のための科学 研究開発プログラム」は、現代社会が直面するさまざまな問題を解決するべく、「客観的根拠(エビデンス)」に基づいて、より科学的に政策を策定するための体系的知見を創出することを目的としています。

本プログラムでは、「科学技術イノベーション政策における『政策のための科学』推進事業」(以下、SciREX事業)の基本方針に基づき、政策形成の実践に将来的につながり得る、新たな発想に基づく指標や手法の開発に向けた研究開発を公募により推進しています。本年度の公募は、平成23年度にプログラムが開始して以降、通算して8回目の公募となりましたが、その間、統計や行政文書の信頼性が揺らぐような事案が発生する一方で、政府レベルでも「証拠に基づく政策立案」(Evidence-based Policymaking、EBPM)に向けた取り組みが推進されるようになるなど、「政策のための科学」に対する社会的な期待はますます大きくなりつつあります。

そうしたなか、本プログラムにおける本年度の公募では、(1)戦略的なダウンサイジングに向けた課題の抽出と対応策の提案、(2)研究開発と政策形成の架橋に関する提案、(3)既存技術の社会化・制度化の促進と受容に関する提案、(4)研究開発プログラムの設計・マネジメント・評価に関する提案、(5)科学技術イノベーション政策の社会的インパクト評価に関する提案、(6)政策形成に向けたオープンデータの利活用などに関する提案、という6つのテーマを設定して提案を募りました。

本年度は、昨年度に引き続き長期人口減少と高齢化という未曽有の社会的変化を捉え、今後顕在化することが予想される諸課題をどのようにして予想し、またそれらの課題をいかにして制御、調節していくのかという問題意識を継続しつつ、特にすでに成熟しつつある技術をどのようにすれば社会に普及・定着させることでできるかという問題意識の下に、テーマを設定した点に特徴があります。

募集の結果、大学を始めとする研究機関、国立研究開発法人、独立行政法人などから計33件の応募が寄せられ、書類選考(1次、2次)、面接選考を経て、最終的には5件の研究開発プロジェクトを採択しました。本年度は、昨年度に続きSciREX基本方針を基にプログラム独自のテーマを設定したこともあり、現実の政策動向や研究動向を見据えながら、本プログラムが一貫して課題としている科学的な知見を実際の政策に結び付けるための方策を探求しようとする提案が多数見られました。なかでも、イノベーションの推進において障害となり得る規範的な問題に迫る提案や第一線の現場に存在する知見を集約し課題の解決に結び付ける手法の開発を目指す提案、さらに技術や製品、サービスに対する社会的受容性を経済的観点から解き明かそうとする提案など、優れた発想と多彩なアプローチから既存の社会制度や組織の在り方を調節しようと試みる意欲的な提案が多く見られました。いずれも課題としての社会的重要性は高いものばかりでしたが、選考においては「科学技術イノベーション政策のための科学の深化」および「エビデンスに基づく政策形成プロセスの進化」を志向し、特に本プログラムの目的と合致するかについて重視しました。

このたび採択した5件は、対象とする社会的課題や政策に対しての基本的なリサーチがなされていたほか、本プログラムではこれまでに見られなかった問題設定やアプローチを採っているもの、さらにこれまでの研究開発や実装に向けた取り組みをさらに具体的に展開させることで、実際の政策形成プロセスの改善に向けた具体的な構想が示された提案です。

本プログラムでは、引き続き、エビデンスに基づく政策形成に資する知見の創出に向けて、より効果的にプログラムを運営していけるようさまざまな工夫を凝らしてまいります。また、SciREX事業の各プログラムとも連携を図りながら、各プロジェクトによる研究開発との連携や交流を加速させるとともに、これまでに創出された、あるいは創出されつつある研究開発成果の社会的発信にも一層努めてまいりますので、引き続き皆様のご支援をよろしくお願い申し上げます。

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