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資料5

選考総評

ERATOパネルオフィサー
今井  浩
内海 英雄
徳田 英幸
中野 義昭
福田 裕穂
八島 栄次
米田 悦啓
(五十音順)

ERATOは、規模の大きな研究費をもとに既存の研究分野を超えた分野融合や新しいアプローチによって挑戦的な基礎研究を推進することで、今後の科学技術イノベーションの創出を先導する新しい科学技術の潮流の形成を促進し、戦略目標の達成に資することを目的としています。

このERATOでの事前評価(選考)においては、上記の目的や特徴を踏まえつつ、研究領域の内容と、それを実行する研究総括としてのポテンシャルの両側面から審査を進めてきました。今後もその方針を大きく変更するものではありませんが、世界的な科学技術の動向は常に大きく変化していく中で、ERATOについても常に制度としての見直しを図っていく、もしくは立ち位置を明確化していくことが求められています。

今年度の選考に先立ち、まずはERATOの制度としての見直し、もしくは立ち位置の明確化を行いました。具体的には、「新しい科学技術の潮流」と評価される研究とは、大きな学術的かつ社会的なインパクトをもたらしている研究である点を踏まえる必要があることから、選考の際にこの点をいかにして見極めるかが重要であると考えました。次に「新しい科学技術の潮流」に向けたアプローチとして、すなわち規模の大きな研究費を背景にした「分野融合」もまたERATOの有する特徴でありますが、そのことを今一度、制度には欠かせないものとして、前面に押し出しました。その一環として、今年度より、構想提案者は共同提案者を置き、その方と共同で提案することを可能としました。

本格的な選考の前段階として、ERATOでの研究プロジェクト推進の可能性を追求するべく、その候補となるテーマ探索調査を実施しました。すなわち、推薦公募や有識者による推薦、JSTによるインタビューやアンケート調査等により形成された候補者母集団(4,697名)の中から特に有力と考えられた110名の研究者に広くERATOで推進すべき候補テーマ探索調査を依頼し、調査内容を踏まえ我々パネルオフィサーが有力候補として29名の研究者を絞り込み、構想提案を依頼しました。

構想提案依頼の際には、パネルオフィサー連名での「ERATO選考における方針」を提案者に提示すると共に、各構想提案者個別に、調査内容に対するパネルオフィサーからの所見、および構想提案を作成いただく際の留意点や要望を提示し、これを十分に踏まえた上で構想提案を行っていただきました。

構想提案の評価に当たり、分野融合の観点を適切に評価していくために、特定の領域・分野に焦点を当てた従来の選考パネル方式を改め、選考は単一の選考パネルの下で実施しました。この選考パネルには、我々7名のパネルオフィサー全員に加え、専門的見地からの評価を適切に行うために、外部専門家(国内、海外の研究機関に所属する研究者等)の方々に、従来通りパネルメンバーとして22名(うち外国人6名)に加わっていただきました。また、特定の構想提案に関してより適切な評価を行う目的で、別途外部評価者3名(うち外国人1名)にも加わっていただきました。

選考パネルによる書類選考・面接選考を経て、最終的に2名の研究総括を採択するに至りました。各々の詳細はここでは割愛しますが、池谷 裕二氏を研究総括とする研究領域「脳AI融合」は、脳とAIを直接融合し、脳AIハイブリッドによって脳を身体の制約から解き放つことで、脳の大きな潜在能力を引き出そうとする独創的で挑戦的な取り組みであり、脳の潜在的能力活用による学習向上、ヴァーチャル・リアリティー技術、脳機能解明による疾患治療等の新たな社会的・経済的価値の創出が期待されると評価されました。また、脳科学・神経科学を中心とした実験科学と、AI・計算機科学を中心とした情報科学との幅の広い分野融合が図られている点も高く評価されました。

浜地 格氏を研究総括とする研究領域「ニューロ分子技術」は、独創的な「ケミカルバイオロジー分子技術」の創成により、神経活動に伴う神経系や脳内での情報伝達や細胞間ネットワーク形成を、個々のたんぱく質分子レベルで精密に解明しようとする挑戦的な取り組みであり、これまでにないたんぱく質の選択的化学修飾によるシナプスの機能解明、脳機能の可視化などサイエンスとして極めて大きなインパクトがある成果が期待されると評価されました。神経系や脳内での情報伝達や細胞間ネットワークの解明により、神経疾患の診断・治療、創薬等における新たな社会的・経済的価値の創出が期待されます。また、化学(生物有機化学、超分子化学)と脳科学研究者との連携も含めた分野融合が図られている点も高く評価されました。

いずれの研究領域においても、ERATOとしてふさわしい成果が創出されるよう、今後も我々パネルオフィサーも含めた専門家による進捗状況の把握や必要に応じたアドバイス等を行っていく所存です。

なお、今回採択できなかった提案の中にも、将来大きく発展し得る優れたものが数多くありました。今回採択できなかった提案については、いずれも選考パネルによるコメントを付与してフィードバックを行いましたので、来年度以降にERATOもしくは他制度による研究予算獲得に向けて尽力されるよう期待します。

以上