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参考1

平成29年度 募集の概要

1.事業の目的

戦略的創造研究推進事業(社会技術研究開発)は、社会の具体的な問題の解決を通して、社会的・公共的価値の創出を目指す事業です。社会問題の解決に取り組む関与者と研究者が協働するためのネットワークを構築し、競争的環境下で自然科学と人文・社会科学の知識を活用した研究開発を推進して、現実社会の具体的な問題解決に資する成果を得るとともに、得られた成果の社会への活用・展開を図ります。

2.研究開発領域・プログラムの概要

① 「人と情報のエコシステム」研究開発領域

ビッグデータを活用した人工知能、ロボット、IoTなどの情報技術の急速な進歩により、より豊かで効率性の高い社会が実現されるとの期待が高まっている一方、情報技術は「悪意に基づく事故や事件(テロ、犯罪など)」「予期せぬ事故やトラブル(セキュリティ、プライバシーなど)」「経済格差拡大や資本集中」などの様々な問題をもたらしうるとの指摘もなされ始めています。また、「coveillance」(=インターネット上での相互監視)という言葉が新しく生まれたように、情報技術の発達は我々のプライバシーのあり方そのものも変化させており、今後も多方面で人の生活様式を変えていくことが予想されます。

情報技術の研究開発の現場では、技術がもたらす影響について社会から事前のフィードバックを受けることがないまま実用化を進めた結果、問題が引き起こされるケースや、技術が作られ問題が発生した後に規制がかかり、技術開発のブレーキともなりうる事例がしばしば見受けられます。

このように情報技術は、社会に新たな大きな変化をもたらし得ますが、現時点ではその新規性や革新性は社会の中で多様な解釈・イメージ・メタファーで語られており、その潜在的なメリットと負のリスクが不明瞭です。それゆえ、情報技術を社会の中で適切に使っていくためには、専門家だけの評価では不十分であり、研究開発の上流の段階から多様なステークホルダーの主観的意見をとりいれ、問題やテーマのフレーミングの幅を広げていくことが重要となります。

情報技術を研究開発の上流段階から人間を中心とした観点で捉え直し、社会の理解のもとに技術と制度を協調的に設計していく試みの必要性が高まっていますが、そういった試みに対応するための機会や場の創出、方法論や機能の確立、人材の確保といった点は十分に措置されていないのが実情です。

そこで本領域では、それらの問題に適切に対処していくために、情報技術と人間・社会との共生を促す相互作用機能を目指した社会技術研究開発を推進し、情報技術と人間のなじみがとれた社会の実現を目指します。

② 「安全な暮らしをつくる新しい公/私空間の構築」研究開発領域

近年、日本では、犯罪の認知件数は減っていますが、家庭、または、家庭と同様に外部から隔離され、同調圧力が強く閉鎖的な空間である職場やスポーツ集団、学校などにおいて、子ども、女性、高齢者が継続的な暴力を受けるケースや、サイバー空間での関係性に由来する事件やいじめが顕在化し、安全・安心上の新たな問題となっています。また、交通事故など公的空間で起こる事故が減る一方で、転倒や溺死、家庭内事故が増加し、外部から発見・介入しづらい「私的な空間・関係性」における問題が顕在化しています。

顕在化する背景には、世帯の小規模化や高齢化、地域社会からの個人の孤立、インターネットやソーシャルメディアの普及・拡大といった社会構造的な変化と、それらによってもたらされる「親密圏」と「公共圏」の変容に、既存の安全機能(法制度・公的組織、あるいは、家庭・地域社会による予防や支援機能)が対応しきれなくなっていることがあります。具体的な例として、世帯の小規模化や地域コミュニティの縮小・希薄化に伴い、家庭や地域社会が持つサポート的な機能が低下して養育者や養護者の孤立が深刻化し、育児や介護において虐待が生じるケース、また、ソーシャルメディアでいつでもつながれることによって、学校や職場・家庭の外で緊密な人間関係が形成され、周囲が気付かないままに逃げ場のないいじめが起きてしてしまうケースがあげられます。

従来、親密圏については自助、自治に任せるものであるとの考えもありましたが、国民の関心や人権意識の高まりもあり、多様なレベルでの社会的な支援や介入が徐々に広がりつつあります。センサーやロボットなどの科学技術を使い、親密圏での加害・被害またはそれにつながるリスクの早期発見や要因解消に貢献する研究開発も求められてきました。社会的な支援という側面からも親密圏と公共圏の関係性は変容していますが、一方に、社会的な支援を届けようにも制度が壁となる場合もあります。

さらに、平成28年に決定された第5期科学技術基本計画では、サイバー空間とフィジカル空間(現実社会)が高度に融合した「超スマート社会」を実現するための取組が強化されました。こうした流れは、私的な空間・関係性やプライバシー概念の変化に大きく関連すると同時に、技術的な側面からは、ビッグデータ解析技術を用いることにより、事件・事故等の予見・発見を容易にすることが期待されます。

このように、1)私的な空間・関係性で起きる安全・安心上の問題の顕在化、2)親密圏と公共圏の関係性、境界の変容、3)サイバー空間と実空間の一体化による予見・発見の容易化とプライバシーの概念の変化、が進行しているとの認識のもと、RISTEXでは発見・介入しづらい空間・関係性における危害や事故の予防と低減に関わる研究開発を推進します。

③ 「研究開発成果実装支援プログラム」

研究開発成果実装支援プログラムは社会技術研究開発センターに固有のプログラムです。研究の成果が実用化され定着するまでには研究・開発・実証・普及の4段階があります。産業のための研究開発では成果による便益があると考えられれば、個別の企業がリスクを負担して研究から普及までのすべての段階を一貫して実行します。

一方、社会のための研究開発は実現すれば極めて効果的であると思われるものであっても、研究開発の段階に留まっています。その理由は研究開発の成果が社会に便益をもたらすかを実証するリスクを誰が負担するかが不明確だからです。そのため研究開発の成果は実用化されることなく知の倉庫で眠り続け、いつしか忘れ去られてしまうものが少なくないのです。

実証・普及は受益者の負担であるという考えから一歩踏み出し、実証段階を支援することによって研究開発から実用化までをシームレスにつなぎ、研究開発の成果をできるだけ早く社会に届ける装置として考え出されたものが研究開発成果実装支援プログラムです。

④ 「科学技術イノベーション政策のための科学 研究開発プログラム」

「科学技術イノベーション政策における『政策のための科学』推進事業」(Science for RE-designing Science, Technology and Innovation Policy, 以下、「SciREX事業」という。)の方針に基づき、JST社会技術研究開発センター(RISTEX)では、公募型研究開発プログラム「科学技術イノベーション政策のための科学 研究開発プログラム」を推進します。客観的根拠に基づく科学技術イノベーション政策の形成に寄与するため、重点課題に基づき、新たな指標や手法などの開発や制度設計のための研究開発を公募により推進します。本プログラムの実施を通じて、政策形成の実践に将来的につながる、新しい発想に基づく研究開発成果の創出を目指します。

プログラムの実施に当たっては、個々の研究開発プロジェクトを通じて重点課題の推進に資すること、公募を通じて「科学技術イノベーション政策のための科学」に関わる新たな研究人材の発掘と人材ネットワークの拡大に資することを目標とします。