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別紙1

平成29年度 新規採択プロジェクトの概要一覧

「人と情報のエコシステム」研究開発領域

【研究開発プロジェクト】 実施期間:原則3年、研究開発費:数百万円~10百万円程度(上限目安20百万円) /年

プロジェクト名 研究代表者
所属・役職
概要 研究開発に参画する実施者、
協力する関与者
人間とシステムが心理的に「なじんだ」状態での主体の帰属の研究 葭田 貴子
東京工業大学 工学院・准教授

ヒトと協調して自律的に動作可能な機器やシステムが、事件や事故など社会的に思わしくない行為を引き起こした際に、ユーザであるヒトが主体的に引き起こした行為であってヒトが責任を負うという考え方と、機械やシステム側が主体的に起こした行為であってそれらの製造者側が責任を負うという考え方のどちらを採用すべきか、その科学的な考え方や解釈を心理学や脳科学の立場から提案する。特にユーザであるヒトからみて、その事件や事故が機械やシステムではなく自分自身が引き起こした行為と錯覚され、不必要に責任を負う状況の存在を指摘し、そのような錯覚や思い込みの背後にある脳科学的仕組みの解明や、そのような錯覚を逆手に取った機器の開発とデモを実施しながら、我々人間自身ですらどこまで自律的・主体的に行動する存在といえるのか考察する。

  • 東京工業大学
  • 公益社団法人 日本ハング・パラグライディング連盟(JHF)
自律機械と市民をつなぐ責任概念の策定 松浦 和也
秀明大学 学校教師学部・専任講師

人工知能を搭載した自律機械の社会実装が現実味を帯びつつある中、社会的不安も同時に発生している。その種の不安が発生する理由のひとつは自律機械が起こした事故や、生み出した被害への責任の帰属先が不明瞭であることによる。

この不安を軽減するための手段として、本プロジェクトは、自律機械が実装された社会の中でも説得力を持つような責任概念を提案する。自律機械が社会になじむには、自律機械の社会的位置づけが、非専門家たる市民にも納得できるように、歴史的・文化的背景からも説明されなければならない。そのためには、現在の技術的・社会的状況を踏まえつつも、「自律機械が人間と対等と見なされるためには何が必要か」という問い―この問いは「人間とは何か」の裏返しである―を人類が積み上げてきた人文学的知見に投影する哲学的考察が必要である。そして、この考察に基づき、自律機械と市民をつなぐ新たな責任概念の策定を目指す。

  • 秀明大学
  • 京都外国語大学
  • 愛知教育大学
  • 江戸川大学
  • 中部大学
  • 広島工業大学
  • 名古屋商科大学
  • 電気通信大学
  • 名古屋大学
  • 京都大学
自律性の検討に基づくなじみ社会における人工知能の法的電子人格 浅田 稔
大阪大学 大学院工学研究科・教授

近年のAI技術は人工システムやロボットのある種の自律性を可能にし、丁度、親離れした子供のように、設計者が予測できない行動を表出する可能性がある。このような状況に対し、現在の法制度では設計者か利用者が過度の法的責任を負わされる恐れがあるため、健全な科学技術の進展を阻害する可能性がある。

本プロジェクトでは、人工システムの自律性を目的の有無やその書き換え可能性に準じて、三段階を想定し、従来の法人格論の分析を通じてこの三段階に応じた法的取扱モデルを考案する。さらに、既存の責任理論の問題点を指摘し、人工システムに対する新たな制度の提案を行う。また、アンドロイドを用いた模擬裁判を通じ、一般社会になじんだ法整備案を提案し、自律性の概念の深化と未来社会に通用する人工システムとその環境を提示する。

  • 大阪大学
  • 首都大学東京
  • 京都大学
情報技術・分子ロボティクスを対象とした議題共創のためのリアルタイム・テクノロジーアセスメントの構築 標葉 隆馬
成城大学 文芸学部マスコミュニケーション学科・専任講師

本プロジェクトでは、先端情報技術の倫理的・法的・社会的影響(ELSI)について、メディア分析と予測評価手法(ホライズン・スキャニング)による議題抽出を行い、さらに先端情報技術の専門家をはじめとした多様なステークホルダーが参加する「議題共創プラットフォーム(NutShell)」の開発を通じて、当該領域の社会的議論を迅速に焦点化する「リアルタイム・テクノロジーアセスメント(RTTA)」システムの構築を行う。このRTTAシステムを用いた議題構築について、分子ロボティクス分野ならびに人工知能分野の事例を通じた実践から、その課題抽出を行い、ELSIに関するより良い議題構築プロセスの実現と知見の現場の研究者へのフィードバックの在り方を提案する。

  • 成城大学
  • 早稲田大学
  • 大阪大学
分子ロボットELSI研究とリアルタイム技術アセスメント研究の共創 小長谷 明彦
東京工業大学情報理工学院・教授

分子ロボットの倫理的・法的・社会的課題(ELSI)の研究(小長谷G)とインターネットを活用して技術・社会双方の幅広い知見・意見を集めるリアルタイム技術アセスメント研究(標葉G)をスパイラル的に推進することで分子ロボット技術と人間のなじみのとれている社会の実現を目指す。

本プロジェクトでは標葉Gと共創し、①リアルタイム技術アセスメント技術を活用した社会からの幅広い意見の集約、②その意見を反映した分子ロボットガイドライン案の策定、③策定案に関する研究会・シンポジウムによる議論、のプロセスを繰り返すことで分子ロボットELSI研究を進める。また、分子ロボット若手研究者および学生の分子ロボットELSIに対する理解を促進するために、分子ロボット国際学生コンテストにELSIの観点から参画する。

  • 東京工業大学
  • 早稲田大学
  • 九州大学
  • 東北大学
  • 東京大学
  • 東京農工大学
冪則からみる実社会の共進化研究 -AIは非平衡な複雑系を擬態しうるか- 田中(石井) 久美子
東京大学 先端科学技術研究センター・教授

本来的にブラックボックスである今日的AIの社会への「なじみ度合」について、冪則の観点から評価する方法を研究する。評価方法を社会実装する一事例として、国の将来を担う投資分野における高度IT利用を前提とする適切な制度環境について、コミュニティを構築して議論し、法制度の方向性についてシナリオ分析を行う。

技術研究を行うテーマ1と社会実装を行うテーマ2に分け、二つのテーマで共進化プラットフォーム事例を形成する。テーマ1ではAIが生成する擬似データと言語ならびに経済の実データとの冪則の観点からの差異を定性的に調査し、両者の乖離を明確にする。テーマ1の知見に基づき、テーマ2ではAIを投資に利用する場合の問題を社会的観点から議論し、限界をふまえてAIを適切に活用するための社会制度設計に向けて提言を行う。

  • 東京大学
  • 東京工科大学
  • 文部科学省 科学技術・学術政策研究所
  • Brunel University London
  • 日本銀行
  • フロンティア・マネジメント株式会社
  • マーケットアナライズ
  • 一橋大学

【プロジェクト企画調査】 実施期間:6ヶ月、企画調査費:3百万円以下

プロジェクト企画調査とは、優れた構想ではあるものの、有効な提案とするには更なる検討が必要なものについて、問題の関与者による具体的なプロジェクト提案を検討するための調査。

企画調査名代表者名
所属・役職
情報アクセスリテラシー向上のための不便益的視点からの方法論に関する調査 川上 浩司
京都大学 デザイン学ユニット・特定教授
人とAIシステムの協働タスクモデルの構築に向けた調査 山本 勲
慶應義塾大学 商学部・教授
人工知能と労働の代替・補完関係 川口 大司
東京大学 大学院経済学研究科・教授
見守り技術の実装のための現場変容ライブラリの構築 北村 光司
産業技術総合研究所 人工知能研究センター・主任研究員

<領域総括総評> 國領 二郎(慶應義塾大学 総合政策学部 教授)

ブームと言っても良いAIへの関心が高まる中で、本質に迫る取り組みを進めるべく、本年度は採択する対象を絞りこむことにいたしました。すなわち、募集要項において、採択対象を「AIなどの情報技術を使った機械が製作者たる人間の直接的介在なく自律的に学習・判断・自己再生産などを行うと考えられる範囲が拡大し、機械と人間からなるシステムにおける人間の役割の根本的再検討が求められるようになってきていることに伴う社会的課題への対応」と、従来よりも絞り込んだ形で記述させていただきました。対象を絞ることで応募数が減るかと心配しましたが、蓋を開けてみると、66件もの応募をいただきました。改めて応募の労をとって下さった全ての皆様にお礼を申し上げます。また、激戦だった帰結で、とても優れた提案のいくつかを、涙をのんで見送るようなことにもなりました。それらの提案者の皆様にはお時間を使っていただきながら、ご期待に添えない結果となりましたことをご了解いただきたくお願い申し上げます。

本年度採択された取り組みの中には、昨年度の採択ではカバー仕切れなかった労働市場へのインパクトについてのものがあるほか、今までになかった他の新しい切り口が加わっています。継続して下さるプロジェクトも含めて、全体としてより幅広く、深く当領域の問題意識をカバーできる体制が整って参りました。

当領域も2年度目に入ったわけですが、取り組みを進めれば進めるほど、この領域として成果を生み出す難しさも感じています。技術ないしは社会的問題において、顕在化していない、潜在的なものを扱うとする領域にとっては宿命ともいえるのですが、課題を記述する概念も、課題の程度を計測する手法も、政策や技術に対してフィードバックを行う手法も、まだ暗中模索の状況といっていいように思います。また、募集の際に「製作者の意図から独立した機械の自律性は存在するのか、そもそも自律性とは何か」という根源的な問いも研究の範疇内、とさせていただいたことに象徴されるように、知性の主体が揺れ動く今回の研究対象は、単なる技術の社会インパクトを検討するのとは、質的に異なる側面を持っています。

一方で、この分野は日本が世界に対してユニークな貢献を行いうる分野であることの確信も深まってきています。日本には、長い歴史を持つAIやロボット研究の思索の歴史があるほか、自然や機械と共生する西洋文明とは異なる世界観があって、より自然な形で技術と社会が共進化するモデルを構築する素地があるように思います。新しいモデルをいかに形式知化し、世界に発信していけるか否か、我々の手腕が問われているようにも感じています。新体制のもと、皆様のご指導を仰ぎながら前に進んでまいりますので、どうかよろしくご支援のほど、お願い申し上げます。

「安全な暮らしをつくる新しい公/私空間の構築」研究開発領域

【研究開発プロジェクト】 実施期間:原則3年、研究開発費:数百万円~30百万円程度/年

プロジェクト名 研究代表者
所属・役職
概要 研究開発に参画する実施者、
協力する関与者
高齢者の詐欺被害を防ぐしなやかな地域連携モデルの研究開発 渡部 諭
秋田県立大学 総合科学教育研究センター・教授

超高齢社会ならではの社会問題である高齢消費者被害は、有効な対応策が見出されないまま被害が高水準に推移しており深刻化している。経験のみに基づく従来からの対策から抜け出し、心理学やICTを駆使した科学的予測に基づく対応が求められる時期に来ている。

本プロジェクトでは、詐欺被害に遭いやすい心の「クセ」を個々の高齢者について心理学や神経科学を応用したICTツールによって把握し、詐欺被害脆弱性予測に基づくオーダーメードの被害防止策を提供する。その場が、国・警察・自治体等の「公」空間と高齢者の日常生活である「私」空間をつなぐ「間」に構築されるしなやかな地域連携ネットワークである。ここでは更に、高齢者の生活全般への目配りにも配慮し、生活全般の改善にも努める。

  • 秋田県立大学
  • 京都府立医科大学
  • 青森大学
  • 慶應義塾大学
  • 一般社団法人 シニア消費者見守り倶楽部
  • 青森市役所
  • 青森県消費者協会
  • 青森県消費生活センター
  • 青森県生活協同組合連合会
  • 青森県中小企業家同友会
  • 社会福祉法人 宏仁会
未成年者のネットリスクを軽減する社会システムの構築 鳥海 不二夫
東京大学 大学院工学系研究科・准教授

現在、未成年のネット利用が普及した結果、誘い出し被害や児童ポルノ(自撮り被害)、ネットいじめなどが社会問題化している。

本プロジェクトでは、未成年者が抱える、観測困難なネット利用リスクを軽減するためのネットリスク事前検出法の確立と未成年者自身に気づきを与えるシステムの実現を目指す。特に、誘い出し被害、児童ポルノ、ネットいじめなどの実態を把握しづらいネット上で生じる未成年者が晒される危険性の高いリスクを対象とする。ネット空間で発生する事象に対して公的強制力の発動は困難であるため、適切な情報提供により、未成年者本人及び保護者の自主的な対応力の強化を図る。

  • 東京大学
  • 中央大学
  • 関東学院大学
  • 多摩大学
  • 一般財団法人 情報法制研究所
  • 青少年ネット利用環境整備協議会
アプリを活用した発達障害青年成人の生活支援モデルの確立 辻井 正次
中京大学 現代社会学部・教授

発達障害成人は、社会的孤立リスクが高く、現状の福祉サービスの網からこぼれやすく、精神科疾患の合併もあり、日常での支援を得やすくすることが必要とされている。

本プロジェクトでは、発達障害のアプリを開発して、日常生活のスキルや就労に必要な社会的スキル、あるいは、精神科疾患合併リスクにつながるメンタルヘルス等を当事者自身が把握し、彼らの地域生活を支援していく。また、日常生活での関心や余暇スケジュール等の把握を通じ、当事者同士のつながりを作っていく。アプリの活用によって、支援者も支援の基本的な手法等の習得等、人材育成につながる。開発したアプリを全国のさまざまな事業所で利用し、支援における利便性を高め、全国どこでも一定レベルの状態把握から支援計画の立案や支援につなげられる仕組みを構築していく。

  • 中京大学
  • 特定非営利活動法人 アスペ・エルデの会
  • LitaLico研究所
  • 株式会社ベイビー
  • 福田西病院
  • 弘前大学 医学部神経精神医学講座
高齢者見守りコーディネータ育成による地域見守り活動の有効化 村井 祐一
田園調布学園大学 人間福祉学部 社会福祉学科・教授

高齢者の日常の様子を近隣住民が見守る地域見守り活動が各地で実践されているが、活動の広がり、参加者の見守りスキル、自治体の福祉施策との連携等が必ずしも十分ではないため地域のセーフティネットとして十分に機能するまでには至っていない。

本プロジェクトでは、①優れた見守りスキルの可視化、②地域住民が参加・継続しやすい地域見守り活動の再設計、③見守り活動の福祉施策への組み込み、④見守り支援アプリやICTシステム開発、⑤見守り支援コーディネータの育成を行い、各地の見守り関係者とともに検討及び実践・検証を進め、自治体施策と連携して十分な有効性を発揮できる地域見守り活動の取組モデルを構築する。このモデルの展開により、公助と近助の効果的な連携による安心な地域づくりへの貢献をめざす。

  • 田園調布学園大学
  • 千葉工業大学
  • イデア・フロント株式会社
  • 川崎市麻生区
  • 横浜市港北区
  • 城郷小机地域ケアプラザ
  • 横浜市小机宿根町自治会
トラウマへの気づきを高める“人-地域-社会”によるケアシステムの構築 大岡 由佳
武庫川女子大学 短期大学部 心理・人間関係学科・准教授

性暴力被害、虐待、その他様々な暴力行為などは、時に当事者を孤立させ、依存症を含む様々な精神障害、望まない妊娠など、心身への悪影響や生活の質の低下を招く。これらの人々への「公」の支援は、縦割り政策の中、性の語りにくさや当事者の援助希求能力が低いといった課題のために、適切な支援につながらない現状にある。

本プロジェクトでは、トラウマインフォームドなケア(TIC)の発想を基盤に、地域の社会的資源の有機的な連携や、トラウマに感度の高い専門職養成を進めると同時に、「私」空間からもアクセスが容易なインターネットを活用することで、彼・彼女らに適時適切に対応できる「公」「私」をつなぐケアシステムを構築する。

※本PJは大岡、中山の提案を統合し推進する(研究代表者は大岡)。

  • 武庫川女子大学
  • 京都大学
  • 兵庫医科大学
  • 兵庫県立尼崎総合医療センター
  • 洛和会音羽病院
  • ウィメンズカウンセリング京都
  • NPO法人 性暴力被害者支援センター・ひょうご
中山 健夫
京都大学 大学院医学研究科 社会健康医学系専攻 健康情報学分野・教授

<領域総括総評> 山田 肇(東洋大学 名誉教授)

「安全な暮らしをつくる新しい公/私空間の構築」研究開発領域では、3年度目の公募を4月から6月にかけて実施しました。公募にあたっては東京と京都で説明会を実施し、研究開発領域全体の取り組みイメージについて説明しました。さらに、さまざまな事象の背景や対処策に見られる共通の問題を取り上げる横断的視点、現場を対象にエビデンスを積み上げる制度設計に資する提案、そして何よりも、新しい「間」の構築に関する予防的視点にたっての提案に期待することを強調しました。

これに呼応して、大学や研究機関、企業などから研究開発プロジェクト46件の応募が寄せられました。社会システム・制度の創生と伝承に関わるもの、公/私が協力し適切に介入・支援するための「間」の構築に関わるもの、情報通信技術などの利活用による新たな支援機能の構築に関わるものと、提案内容は多様でした。また、研究開発の対象も、コミュニティ・貧困・高齢者・子ども・発達障害・性暴力・ネット空間など多岐に渡りました。

選考にあたっては説明会で強調した視点を中心に、新しい「間」の仕組みの社会実装の可能性を最も重視し、「間」の構築に関わる課題や障壁を十分に認識しているか、課題・障壁を乗り越えられるだけの現場関係者との協力関係があるか、研究開発の成果は他の地域・現場に展開できるか、さまざまな事象に共通する横断的課題の解決に資するか、などを評価しました。また、国内外の類似の取り組みや先行研究を十分に整理しているか、新規性や独創性を客観的根拠に基づいて示しているか、最終的な目標および実施期間での達成目標それぞれを適切に立てているかなども評価しました。

選考の結果、研究開発プロジェクト5件を採択しました。うち1件は二つの提案をまとめてひとつの研究開発プロジェクトとして推進するものです。 採択された提案は、青少年のネットリスクを軽減する社会システムをネットサービス提供者のインセンティブにも配慮して構築しようというプロジェクト、発達障害を持つ成人の「親亡き後」の生活を支援するプロジェクト、性暴力被害者等が抱えるトラウマに対応するケアシステムを目指すプロジェクトと新規性・独創性に富んだ、しかし、社会実装を明確に目標とするものとなりました。これに加えて、社会から孤立しがちな高齢者に注目して、公共と民間・NPOが連携して詐欺被害を防ぐ社会システムを実現しようというプロジェクト、見守り活動の中核を担う見守りコーディネータを育成して地域の安全を高めようというプロジェクトも採択されました。

研究開発の対象が初年度・昨年度に採択されたプロジェクトから広がり、横断的に解決策を考えるという研究開発領域の取り組みイメージに沿うものとなりました。この三年間に採択されたプロジェクトが相互に刺激しあい、協力し合うことで、「安全な暮らしをつくる新しい公/私空間の構築」という研究開発領域の目標が実現するように、研究開発実施者とマネジメントチームが一体となって研究開発を推進してまいります。

「研究開発成果実装支援プログラム」

【実装活動プロジェクト】 実施期間:原則3年、実装費:5百万円~10百万円程度/年

プロジェクト名 実装責任者
所属・役職
概要 実装活動に参画する実施者、
協力する関与者
小学校におけるメンタルヘルスプログラムの実装 石川 信一
同志社大学 心理学部・教授

現代社会が解決すべき喫緊の課題として、メンタルヘルスの増進がある。これまでに、成人期の心理的問題の半数は児童期に始まっていることや、メンタルヘルス対策は長期的な社会経済的損失をもたらすことが明らかにされている。そのため、“問題が顕在化してから”の対応ではなく、幼少期、つまり小学校での早期予防的観点が必要不可欠であるといえる。

本プロジェクトでは、小学生を対象として、教師が学級で実行可能なメンタルヘルス予防プログラム(Universal Unified Prevention Program for Diverse Disorders: Up2d2)の社会的実装を通じて、現代社会の抱える問題を切り抜ける適切な知識と技術である心理的レジリエンスを備えた市民の育成を行うことを目指す。

  • 同志社大学 心理学部
  • 京都府 保健福祉部
  • 京都府 精神保健福祉総合センター
  • 京都府 教育委員会
災害時における動物管理に関わる支援システムの実装 羽山 伸一
日本獣医生命科学大学 獣医学部・教授

人と生活をともにする動物は、災害が起きれば人と同様に被災する。被災した動物を適切に管理することは、人の健康や安全、環境の安全や地域の復興につながるが、わが国では災害時の動物管理に関わる活動や体制の整備は始まったばかりであり、社会実装には至っていない。特に大規模災害では被災動物の管理が長期化するため、動物医療や公衆衛生を中心とした専門派遣人材の育成は喫緊の課題である。

本プロジェクトでは、災害時に広域支援を可能とする人材育成と官民連携体制の基盤づくりを目的とする。また、平時からの動物に関わる防災対策として行政動物シェルターでの動物管理にも焦点を当て、動物の発災リスクの軽減や減災対策を講じる共に、平時/災害時ともに人も動物も安心/安全な地域づくりを目指す。

  • 日本獣医生命科学大学
  • 日本獣医師会
  • 環境省
  • 日本動物福祉協会
  • カリフォルニア大学デービス校 獣医学部
市民と共に進める災害医療救護訓練プログラムの実装 依田 育士
産業技術総合研究所 人間情報研究部門・主任研究員

大型震災などの大災害時に、市区町村によって設置・運営される緊急医療救護所は、10名に満たないスタッフで運営されるが、大災害の超急性期にサポートが必須と思われる周辺住民が参加する本格的訓練はなかなか行われない。理由はリアルな傷病者を用意する手間が大きい(訓練準備コストが大)、市民に教えるべき内容が整備されていない等が考えられる。

そこで、質の高い傷病者役を簡単に作る方法、市民に覚えて欲しい医療知識の教材などを含む医療救護訓練パック一式をRISTEX「コミュニティがつなぐ安全・安心な都市・地域の創造」研究開発領域太田プロジェクトにおいて開発した。この雛形を利用して新宿区や災害関連病院などにおいて、市民参加型訓練を実施し、市民の協力を得るノウハウ獲得と訓練内容の改良を行いながら普及活動を推進する。

  • 産業技術総合研究所
  • 新宿区 健康部健康政策課
  • 東京医科大学 救急・災害医学分野
  • 東京女子医科大学 救命救急センター
  • 国立国際医療研究センター 救命救急センター
  • 日本赤十字社 東京都支部
  • 戸田中央医科グループ

<プログラム総括総評> 冨浦 梓(元 東京工業大学 監事)

研究開発成果実装支援プログラムの目的は、研究開発の成果が国や自治体をはじめとして企業、NPO、などの組織の活動として活用され、さまざまな地域やコミュニティに広がり、社会技術として普及し、定着することにあります。今までに終了したプロジェクトのうち短期間でこの目的を達成したプロジェクトは、研究開発の成果を実証しようとする研究者とこれらの研究者と協力して課題を解決し成果を享受しようとする人が、緊密に協力しあっている場合が多いことが明らかになっています。この事実に基づき、実証の成果が確実に社会で結実することを期待して、今年度から「自らの研究開発成果の実証を行う者の代表」と「社会の問題に取り組む当事者の代表」が共同して応募していただくことにしました。

応募要件の変更にも係わらず今年度は27件の応募があり、その中から以下の3件を採択しました。

いずれのプロジェクトも社会的な関心が高く、実装支援の対象となる団体や受益者が明確であり、社会への定着が期待されます。

「科学技術イノベーション政策のための科学 研究開発プログラム」

【研究開発プロジェクト】 実施期間:原則3年、研究開発費:5百万円程度/年

プロジェクト名 代表者
所属・役職
概要 研究開発 に参画する実施者、
協力する関与者
レジリエンス強化のための省エネルギー機器導入制度設計 上道 茜
東京大学 大学院工学系研究科機械工学専攻・助教

レジリエンスの強化を考えるうえで、災害時のエネルギー確保は最重要課題である。

公共性の高い災害拠点病院は、通常時の60%の発電容量を有する自家発電設備の保有が要件とされているが、自家発電設備についてはその適切な種類や容量、または継続すべき事業レベルに応じたその導入計画の策定に関し未だ十分な調査が行われていない。また、補助金制度をはじめとする自家発電設備の導入を促すための制度的な枠組みについても整備されていないのが現状である。

本プロジェクトでは、都内災害拠点病院を対象とし、災害発生確率などのオープンデータを活用し、「経済性と環境性の両立」、「レジリエンス強化」といった複数の目的を達成することのできる、省エネ機器導入計画サポートツールを構築する。また、これらのツールを活用した、きめ細やかなエネルギー機器導入補助金制度設計を目指す。

  • 東京大学
  • 災害医療派遣チームDMAT事務局
  • 電力中央研究所
  • 防災科学技術研究所
先端医療のレギュレーションのためのメタシステムアプローチ 加納 信吾
東京大学 大学院新領域創成科学研究科・准教授

新たに出現してくる医療技術を安全性、有効性、品質を確保しながら利用していくためには、イノベーション・プロセスとレギュレーション・プロセスを包括的に定義し、その「相互作用」を体系的に把握しながら、ルール組成の適切な開始時期の把握、ルールを作成するルールの整備、これらの相互作用をモニタリングする仕組みを実現していくことが求められる。

本プロジェクトでは、①先端医療の規制整備のための技術予測システムのプロトタイプ開発、②医療評価技術のガイドライン整備のためのガイドラインの事例分析と日本版ガイドライン・オブ・ガイドラインの提案、③心臓シミュレーション技術における「相互作用」を促進する仕組みの整備の3点からアプローチすることにより、先端医療における規制整備のためのシステム・オブ・システムズの実現を目指す。

  • 東京大学
  • 青山学院大学
  • 山口大学
  • 公益財団法人 医療機器センター
  • 特定非営利活動法人 バイオチップコンソーシアム
スター・サイエンティストと日本のイノベーション 牧 兼充
早稲田大学 大学院経営管理研究科・准教授

わが国の科学技術イノベーションを効果的に推進するためには、優れた研究開発に対して着実にファンディングを実行していくことが不可欠である。 米国では、卓越した研究業績を持ちながら、同時に高い業績を生み出すベンチャー企業を設立するスター・サイエンティストの存在が知られている。このスター・サイエンティストが、科学的成果を背景としながら産業化の面でも積極的な貢献を果たすことにより、経済的・社会的インパクトの創出に寄与している。

本プロジェクトでは、このスター・サイエンティストのフレームワークを用いながら、日本におけるスター・サイエンティストの同定手法を開発し、その誕生要因を分析するほか、スター・サイエンティストに関するデータベースを構築する。それにより、産業化可能性を見据えた研究費の配分に資するエビデンスの創出を目指す。

  • 早稲田大学
  • 政策研究大学院大学
多様なイノベーションを支える女子生徒数物系進学要因分析 横山 広美
東京大学 国際高等研究所カブリ数物連携宇宙研究機構・教授

次世代の科学技術イノベーション人材の育成は急務である。第5期科学技術基本計画においても、人材の多様性確保と流動化の促進による人材力の強化が掲げられており、とりわけ女性研究者の活躍をどのように促進するかは重要な課題となっている。これまでにも女性研究者やその卵となる女子生徒の理系進学支援が行われてきたが、そのなかでも数物系に進学する女子生徒の割合は、生物系と比較しても極めて低い水準にある。一方で、諸外国においては数物系の学科において女子生徒数が半数を越える国もみられることから、わが国では社会的要因等の固有の事情が影響しているものと考えられる。

本プロジェクトでは心理学の手法で、数物系研究者、女子生徒や保護者、学習塾等に対する調査を実施し、女子生徒の進路選択に関する社会的要因を分析することにより、数物系進学を阻害する要因の解明を目指す。また、教育政策や人材育成政策の担当者と連携をはかることにより、イノベーションの基盤となる多様な人材の確保に向けた政策提言を行う。

  • 東京大学
  • 滋賀大学

<プログラム総括総評> 森田 朗(津田塾大学 教授/東京大学 名誉教授)

「科学技術イノベーション政策のための科学 研究開発プログラム」は、現代社会におけるさまざまな問題解決に貢献し得る科学技術イノベーションをもたらす政策の選択肢を、「客観的根拠(エビデンス)」に基づいて、より科学的に策定するための体系的知見を創出することを目的としています。政府レベルでも「証拠に基づく政策立案」(EBPM)に向けた取り組みが展開をみせつつあるなか、本プログラムの試みはますますその重要性が高まっているといえます。

本年度の公募は、平成23年度に本プログラムがスタートしてから通算6回目の公募とりましたが、平成28年度からは「科学技術イノベーション政策における『政策のための科学』推進事業」(SciREX事業)全体の方針改定により、「重点課題」に基づく新たな枠組みで公募を行っています。大きな変更点は、個々のプロジェクトにおいて、現実の政策形成に今すぐに活用できる成果の創出やそのための実践活動を必ずしも対象とするのではなく、SciREX事業全体の枠組みの中で、研究開発と実際の科学技術イノベーション政策形成の現場との橋渡しを行うことになったところにあります。

本年度の公募は、SciREX事業が取り組む「重点課題」をさらに具体化する形で、(1)客観的根拠(エビデンス)の収集と活用方法に関する提案、(2)政策形成に向けたオープンデータ等の利活用に関する提案、(3)研究開発プログラムの設計における参加のあり方に関する提案、(4)科学技術イノベーション政策の社会的インパクト評価に関する提案という4つのテーマを設定して提案を募りました。募集の結果、大学をはじめとする研究機関、国立研究開発法人・独立行政法人などから計27件の応募が寄せられ、二段階選考を経て、最終的には4件の研究開発プロジェクトを採択いたしました。

本年度は、重点課題に基づいた独自のテーマ設定をおこなったこともあり、現実の政策動向や研究動向を見据えながら、萌芽的なテーマを研究開発の対象に据えた提案が多くみられたほか、そのアプローチにも多彩な工夫がみられました。なかでも、パブリックセクターにおける政策形成プロセスを、オープンイノベーションを通じて改善しようと試みる意欲的かつ優れた提案が多くみられことが特徴的であったといえます。いずれも課題としての社会的重要性は高いものばかりでしたが、選考においてはそうした提案が「科学技術イノベーション政策のための科学の深化」および「エビデンスに基づく政策形成プロセスの進化」を志向し、本プログラムの目的と合致するものであるかどうかという点を、とくに重視いたしました。このたび採択した4件は、対象とする政策形成の現状や課題の基本的なリサーチがなされていたほか、本プログラムではこれまでにみられなかった問題設定やアプローチを採っているものやこれまでの研究開発の実績をさらに具体的に展開させることで、実際の政策形成プロセスに科学的に貢献していこうとする具体的な構想が示された提案です。

本プログラムでは、より効果的にプログラムを運営していけるよう更なる工夫を凝らして参りますので、引き続き客観的根拠(エビデンス)に基づく政策形成に資する知見の創出を目指す意欲的な提案、とりわけこれまでの発想の枠を超えるような大胆な提案を歓迎いたします。また、SciREX事業の各プログラムとも積極的に連携を図ることで、各プロジェクトによる研究開発との連携や交流を加速させるとともに、これまでに創出された、あるいは創出されつつある研究開発成果の社会的発信にも一層努めて参りますので、引き続き皆様のご支援をよろしくお願い申し上げます。