JSTトッププレス一覧 > 科学技術振興機構報 第1259号
科学技術振興機構報 第1259号

平成29年6月7日

東京都千代田区四番町5番地3
科学技術振興機構(JST)

ヒートポンプ給湯機のデマンドレスポンス効果を評価

~太陽光発電の2019年度問題解決に期待~

ポイント

JST 戦略的創造研究推進事業の一環として、東京大学 生産技術研究所エネルギー工学連携研究センターの岩船 由美子 特任教授らは、2019年問題への対応として、ヒートポンプ給湯機のデマンドレスポンス注1)と家庭用蓄電池の活用による家庭用太陽光発電システムの自家消費量拡大の効果について評価を行いました。

2019年以降、家庭用太陽光発電システムの固定価格買取制度(FIT)注2)による買い取りが終了し、買取単価が大幅に下落する太陽光発電の「2019年問題」が顕在化し、家庭用太陽光発電保有世帯の経済性が悪化することが懸念されています。

本研究グループは、2019年問題への対応として、ヒートポンプ給湯機のデマンドレスポンスと家庭用蓄電池の活用を目的とし、ヒートポンプ給湯機、蓄電池の予測―計画―運用モデルを構築し、357世帯の実電力消費量データを用いて分析を実施しました。その結果、給湯機の最適な運用、すなわち、晴れた日の昼間に湯沸かし運転を行うことによって、従来の夜間運転に比べて、平均で年間5800円のコストメリットと、8%の省エネ効果をもたらすことが分かりました。このとき家庭用太陽光発電量の自家消費率は32%から45%へ増加し、家庭用蓄電池2~4kWh(キロワットアワー)を導入した時と同等の効果があることを確認しました。本研究で提案するヒートポンプ給湯機の最適運用機能が、すでに普及している製品の改造や新規導入によって実現されると、家庭用太陽光発電システムが大量普及していく日本では、デマンドレスポンスによる系統の柔軟性向上と、同時に省エネ効果を実現することが可能となります。

本研究は、株式会社デンソーの金森 淳一郎、榊原 久介と共同で行い、環境省の支援を受けました。また、積水化学工業、株式会社ファミリー・ネット・ジャパン、トヨタホームからのデータ提供の協力を受けました。

本研究成果は、2017年6月6日(英国時間)にエルゼビア社の科学誌「Energy Conversion and Management」のオンライン版に公開されました。

本成果は、以下の事業・研究領域・研究課題によって得られました。

戦略的創造研究推進事業 チーム型研究(CREST)

研究領域 「分散協調型エネルギー管理システム構築のための理論及び基盤技術の創出と融合展開」
(研究総括:藤田 政之 東京工業大学 教授)
研究課題名 「分散協調型EMSにおける地球科学情報の可用性向上とエネルギー需要モデルの開発」
研究代表者 中島 孝(東海大学 教授)
研究期間 平成27年4月~平成32年3月

<研究の背景と経緯>

再生可能エネルギーのさらなる普及拡大を目指して、2012年に開始された固定価格買取制度(FIT)により、太陽光発電システムの導入が急速に進みました。以前から導入されていた住宅用太陽光発電システムに対しては、余剰電力買取制度の下、48円/kWhの買取価格が適用されてきましたが、最も早いもので2019年11月に買取期間が終了します。2019年に終了する対象は、1992年7月~2009年10月設置分の120万kWといわれており、その後、固定価格買取制度対象設備も含めて毎年10~20万件程度が買取期間終了を迎えることになります(参考資料1)。買取期間終了に伴い、PVシステムの余剰買取価格は、48円/kWh(固定価格買取制度対象は33~42円)から大幅に下がることになり、現在の見通しでは、5~10円程度とされています。これがいわゆる太陽光発電の2019年問題です。この2019年問題への対応として、太陽光発電の自家消費拡大に対するニーズが拡大するとみられています。

<研究の内容>

本研究グループは、家庭におけるデマンドレスポンス効果を定量的に評価するため、柔軟な料金システムに対応できるヒートポンプ給湯機および蓄電池最適運用モデルを構築しました。このモデルは、太陽光発電と給湯機(蓄電池)を保有する世帯で、24時間先までの料金を最小化するものです。過去需要・発電量、気象予測情報を用いて前日夜23時に翌日の給湯需要、その他電力需要、家庭用太陽光発電の予測を行い、それに基づいて給湯機および蓄電池の運転計画を作成し、当日は計画と実需要に基づいて運転します(図1)。

ヒートポンプ給湯機のモデル化では、7世帯の実運用データに基づいて、貯湯ロス、運転効率を模擬しています。また、給湯機の最適運用による経済性の評価では、家庭用太陽光発電と給湯機を保有する357世帯で家庭用エネルギーマネジメントデータを用いるなど、現実的かつ信頼性の高い評価を得られています。

本モデルは、フレキシブルな料金に対応できますが、今回の想定では、購入電力に関しては、旧一般電気事業者のオール電化向け新料金(昼間32円kWh、夜間16円/kWh)を想定し、家庭用太陽光発電余剰買取価格は10円/kWhと想定しました。図2は、357世帯における従来夜間運転(ベースケース)に対するヒートポンプ給湯機最適運用によるコストメリットの平均値を示しています。最適運用(ケース1)の結果、晴れた日には、湯沸かし運転が余剰電力によってなされ、平均5800円/年のコストメリットが生じます。これはベースケースの電気料金の7%に相当する額となります。このコストメリットは基本的に夜間電力価格の16円/kWhと家庭用太陽光発電量余剰買取単価の10円/kWhの差から生じるものであり、電力会社がより安く買取価格を設定すれば、コストメリットはさらに大きくなります。ヒートポンプ給湯機の電力消費量は、夜間運転に比べて平均11%程度省エネになることも大きなメリットです。この理由は昼間の運転によって、高い気温下で運転できるためエネルギー消費効率が向上することと、お湯を作ってから使用までの時間が短くなることの相乗効果によるものです。最適化を行わず、翌日の予測家庭用太陽光発電量が基準値以上の場合「晴れ」と判断し、10時に湯沸かし運転開始、それ以外は従来通り夜間運転という簡易なケース2の方法でも、平均コストメリットは5300円/年となり、比較的ケース1に近い効果が得られていることがわかります。

図3は、蓄電池と給湯機の最適運用による357世帯平均の年間コストメリットと蓄電池の単純償却年数を示したものです。電池の価格は9万円/kWhという2020年の目標値を想定しました(参考資料2)。2~10kWhの蓄電池を家庭用太陽光発電保有世帯に導入することによって、余剰発電を貯蔵し、夕方以降放電することによって、10,000~32,000円/年のコストメリットが生じますが、蓄電池容量が大きくなるにつれてコストメリットは飽和します。蓄電池容量が小さいほど償却年数は短くなっていますが、最も短いものでも、電池の公称寿命である10~15年では電池のコストを回収できない結果となっています。図4は、ヒートポンプ給湯機最適運転および電池の導入による正味の電力消費量(買電量―売電量)とPV自家消費率(自家消費量/発電量)の変化を示しています。蓄電池の場合、充放電によるロス(それぞれ90%)が発生するため、正味の電力消費量は電池がないベースケースに比べて大きくなりますが、ヒートポンプ給湯機の最適運転は、省エネになるため正味の電力消費量が8%減少します。さらに最適運転によって、家庭用太陽光発電自家消費率はベースケースの32%から45%に増加し、これは、2~4kWhのバッテリー導入によってもたらされる効果に相当するものであることが確認されました。

<今後の展開>

ヒートポンプ給湯機の最適運転は晴れる日の昼間運転することで、デマンドレスポンスの価値は非常に高くなり、省エネにも貢献します。近年、給湯機の通信規格も見直され、昼間沸き増しなど、より柔軟な運転が可能となる下地も整ってきています。今後は、実フィールドで実機に導入可能なヒートポンプ給湯機の運転方法を検討するなど、より現実的な家庭用太陽光発電自家消費量拡大効果を評価していきたいと考えています。

また、長期的には、再生可能エネルギーが大量導入されたときの電力系統全体の柔軟性向上にヒートポンプ給湯機を活用していくことが重要であり、その貢献について全国的に評価していく予定です。

<参考図>

図1 家庭用太陽光発電―ヒートポンプ給湯機最適運用モデル

図1 家庭用太陽光発電―ヒートポンプ給湯機最適運用モデル

図2 ヒートポンプ給湯機最適運転によるコストメリット(357世帯平均)

図2 ヒートポンプ給湯機最適運転によるコストメリット(357世帯平均)

図3 ヒートポンプ最適運転および蓄電池導入によるコストメリットおよび蓄電池の単純償却年数

図3 ヒートポンプ最適運転および蓄電池導入によるコストメリットおよび蓄電池の単純償却年数

図4 各ケースにおける正味電力消費量および自家消費率

図4 各ケースにおける正味電力消費量および自家消費率

<用語解説>

注1) デマンドレスポンス
電力系統側のニーズ、供給状況に応じて、需要家が消費パターンを変化させること。電力系統の柔軟性向上施策の1つである。
注2) 固定価格買取制度(FIT)
エネルギーの買取価格を法律で定める方式の助成制度である。日本では、再生可能エネルギーの普及拡大と価格低減のため、太陽光発電に関しては2009年から導入され、2012年からは太陽光発電以外の再生可能エネルギーも含め全量を買い取る制度に移行し、長期(10年あるいは20年)の買取価格が保証されている。

<論文情報>

“A Comparison of the Effects of Energy Management Using Heat Pump Water Heaters and Batteries in Photovoltaic -installed houses”
(太陽光発電保有世帯におけるヒートポンプ給湯機及び蓄電池のエネルギーマネジメント効果)
doi: 10.1016/j.enconman.2017.05.060

<参考資料>

参考資料1) 資源エネルギー庁、再生可能エネルギーの最大限の導入拡大に向けて(平成29年1月)
http://www.meti.go.jp/committee/sougouenergy/shoene_shinene/shin_ene/pdf/017_04_00.pdf
参考資料2) 資源エネルギー庁、定置用蓄電池の価格低減スキーム(平成29年3月8日)
http://www.meti.go.jp/committee/kenkyukai/energy_environment/energy_resource/pdf/005_08_00.pdf

<お問い合わせ先>

<研究に関すること>

岩船 由美子(イワフネ ユミコ)
東京大学 生産技術研究所エネルギー工学連携研究センター 特任教授
〒153-8505 東京都目黒区駒場4-6-1
Tel:03-5452-6717 Fax:03-5452-6718
E-mail:

<JST事業に関すること>

松尾 浩司(マツオ コウジ)
科学技術振興機構 戦略研究推進部
〒102-0076 東京都千代田区五番町7 K’s五番町
Tel:03-3512-3526 Fax:03-3222-2066
E-mail:

<報道担当>

科学技術振興機構 広報課
〒102-8666 東京都千代田区四番町5番地3
Tel:03-5214-8404 Fax:03-5214-8432
E-mail:

(英文)“Evaluation of demand response effect of heat pump water heaters