JSTトッププレス一覧科学技術振興機構報 第1230号 > 別紙1
別紙1

平成28年度 新規採択プロジェクトの概要一覧

【研究開発プロジェクト】 実施期間:3年以内、研究開発費:5百万円未満/年・プロジェクト

プロジェクト名 研究代表者 概要 研究開発に参画する実施者
政策過程における
エビデンス記述・解釈に
関する調査研究
カジカワ ユウヤ
梶川 裕矢
東京工業大学
環境・社会理工学院
准教授
科学技術イノベーションをもたらす研究開発を効率的・効果的に推進するために、客観的根拠(エビデンス)に基づいた政策立案が不可欠である。しかしながら、データ分析やシミュレーションなどのエビデンスを「つくる」科学に比べて、エビデンスとして「活用する」科学や仕組みが不足しており、政策策定や評価にエビデンスが十分に反映されていない。 本プロジェクトでは、科学技術イノベーション政策、とくにエネルギー技術政策を事例として取り上げ、政策立案から実施過程において、どのようなエビデンスが、いかに収集・作成・活用・継承されているか、そのプロセスを分析する。また、組織における意思決定とエビデンスに関する理論研究の体系的な調査により、エビデンスの活用を通じて政策効果を高めるための枠組みの構築を目指す。 [対応重点課題:A-⑤ 政策形成プロセスの改善]
  • 東京工業大学
    環境・社会理工学院
  • 東京大学
    政策ビジョン研究センター
先端生命科学を促進する
先駆的ELSIアプローチ
ミナリ ジュサク
三成 寿作
大阪大学
大学院医学系研究科
助教
近年、先端生命科学における目覚しい技術革新と実用化に対する期待が高まる一方で、用途の両義性(デュアルユース)や、倫理的・法的・社会的影響(ELSI)の問題が問われている。先端的な生命科学技術に対する善・悪といった単純な二元化の問題や、制度間で整合性の取れていない法規制やガイドラインとその解釈の幅がもたらす過度な事前警戒的な対応は、イノベーションに向けた研究開発の推進を阻害してしまう可能性がある。 本プロジェクトでは、社会的配慮や客観性、透明性を担保しながら技術革新に対する自由を尊重する「プロアクショナリー(行為支援的)」という概念を手がかりに、パーソナルゲノム研究、ゲノム編集技術、合成生物学を対象として、日本社会の実情に見合った生命倫理原則の提唱と、オープンイノベーションに向けた倫理観と政策形成の共創モデルの提案を目指す。 [対応重点課題:A-⑤ 政策形成プロセスの改善]
  • 大阪大学大学院 医学系研究科
  • 京都大学大学院 文学研究科
  • 東北大学病院
  • 京都造形芸術大学 アート・コミュニケーション研究センター
  • 北海道大学 理学研究院
  • 弘前大学 人文社会科学部
  • 一橋大学
    イノベーション研究センター
  • 防衛医科大学校
コストの観点からみた
再生医療普及のための
学際的リサーチ
ヤシロ ヨシミ
八代 嘉美
京都大学
iPS細胞研究所
上廣倫理研究部門
特定准教授
日本では高齢化社会への対応と医療費の削減に向けて、体性幹細胞やiPS細胞、バイオマテリアルといった再生医療研究の振興が重点化されているが、その実用化と普及にあたってはコストの高さが障壁となる可能性が指摘されつつある。再生医療に対する研究開発を効率的・効果的に推進し、国民が広くその成果を享受するためには、コスト構造についての詳細データの蓄積と分析が不可欠である。 本プロジェクトでは、既に再生医療の実用化されつつある製品・技術に対する事例研究とステークホルダーに対するアンケート調査などの実施を通じて、実用化に関するデータやコスト情報の集積をはかるとともに、研究開発や治療についての費用対効果分析を行い、医療保険財政の現状を踏まえた持続可能な研究開発振興と医療提供に向けた情報基盤と評価モデルの構築を目指す。 [対応重点課題:A-① 政策のインパクト評価]
  • 京都大学 iPS細胞研究所
  • 大阪大学 医学部
  • 山口大学 医学部、国際総合科学部
  • 京都大学 文学部
  • 成城大学 文学部
  • 協力:日本再生医療学会、(株)ジャパン・ティッシュ・ エンジニアリング 等

<プログラム総括 総評> 森田 朗(国立社会保障・人口問題研究所 所長/東京大学 名誉教授)

「科学技術イノベーション政策のための科学 研究開発プログラム」は、現代社会におけるさまざまな問題解決に貢献し得る科学技術イノベーションをもたらす政策の選択肢を、「客観的根拠(エビデンス)」に基づいて、より科学的に策定するための体系的知見を創出することを目的としています。

平成23年度の開始以降、本プログラムでは4回の公募をしましたが、「科学技術イノベーション政策における『政策のための科学』推進事業」(SciREX事業)全体の方針改定により、平成28年度から新たな枠組みに基づく公募を再開しました。大きな変更点は、個々のプロジェクトにおいて、現実の政策形成に今すぐに活用できる成果の創出やそのための実践活動を必ずしも対象とするのではなく、SciREX事業全体の枠組みの中で、研究開発と実際の科学技術イノベーション政策形成の現場との橋渡しを行うことになったところにあります。そのため今年度は、SciREX事業が取り組む「重点課題」を示すとともに、(1)エビデンスに基づく政策形成の実践に将来的につながりうる萌芽的な研究、(2)多様な分野からの参画や果敢なチャレンジなど新たな発想に基づく研究、という観点を強調して提案を募りました。募集の結果、大学をはじめとする研究機関、国立研究開発法人・独立行政法人、民間企業などから計37件の応募が寄せられ、二段階選考を経て、最終的には3件の研究開発プロジェクトを採択いたしました。

本年度は、比較的若手の研究者による学際性に富んだ優れた提案が多く、「科学技術イノベーション政策のための科学」としての根源的な問いに果敢に挑戦しようとする意欲的な提案もありました。また、「重点課題」に基づいて、超スマート社会やオープンイノベーション、少子高齢化社会などに関する政策・研究動向を的確にとらえ、独自の観点からアプローチを試みる提案も多くみられました。いずれも課題としての社会的重要性は高いものばかりでしたが、選考においてはそうした提案が「科学技術イノベーション政策のための科学の深化」および「エビデンスに基づく政策形成プロセスの進化」を志向し、本プログラムの目的と合致するものであるかどうかという点を、とくに重視いたしました。採択した3件は、対象とする政策形成の現状や課題の基本的なリサーチがなされており、エビデンスをつくる科学のみならず、実際の政策形成プロセスに科学的に貢献していこうとする具体的な構想が示された提案です。

来年度はさらに、提案いただく皆様にプログラムの趣旨や採択方針をしっかりと理解いただけるよう改善に努めてまいりますので、積極的な提案を期待いたします。SciREX事業の各プログラムとも連携を図りながら、各プロジェクトによる研究開発を効果的に推進するとともに、これまでに創出された、あるいは創出されつつある研究開発成果の社会的発信にも一層努めてまいりますので、引き続き皆様のご支援をよろしくお願い申し上げます。